-44- 出発
少し短めです。
「これって……」
「アリスはよく時計を使うだろう。あれもこちらでは変わっているからな」
「でも、こんな大切なものもらえませんよっ!」
リュカもあの時借りてきたくらいだ。一般的に買えるものではないと思っていた。それを私にと隊長さんは言うのだ。
「これからの暮らしで、アリスには不自由してほしくないんだ」
「それはちょっとは私が居たところとは違くて戸惑ったりはしますけど、でも大丈夫ですよ。みんな良くしてくれてるし、これからだって頑張ります。隊長さんには命を助けてもらって、それ以上に力になってもらってるので、本当に大丈夫です」
これ以上は本当にもらえない。色々としてくれる隊長さんには悪いけど、もう十分なのだ。
そう伝えて時計を返そうとすれば、隊長さんは目に見えてしゅんとしてしまった。なんだか子犬みたい……。とか言ったら失礼だよね。でも、ヤバい、なんか胸が苦しい……。沈黙が続いて、なんだか断るのが悪いことみたいになってきた。
「あー……、じゃ、じゃあ、借りても、いいですか?」
言った瞬間に、パッと表情が変わってドキッとした。隊長さんは明らかに喜んでいた。後ろに尻尾が見える気がする……と、取りあえず機嫌は治った、かな?
「では、これはアリスに貸そう。何か困ったことがあれば、これを見せなさい」
「えっ?」
「これでも王都では顔が利くんだ」
にっこりと隊長さんは笑っていたけど、そんな使い方はなるべくしないでいられたらいいなと思った。
とはいえ、隊長さんの私物を預かることになるとは、ちょっと嬉しかった。会いに来てくれるとは言っていたけど、お仕事も忙しそうだしそんなに会えないと思っていたから、それでも繋がっている気がしたのだ。そう思うとなんだかふんわりとした優しい気持ちが溢れてきた。
「ありがとうございます。大切にお預かりしますね」
「あぁ」
時計を見てぎゅっと握りしめると、優しい声が聞こえた。これはあれだ。また心臓に悪い顔してる時の声だ。さっきからドギマギし過ぎてる自覚はあるのよ、もうっ恥ずかしすぎるっ!
「じゃ、じゃあ、私はこれで失礼しますっ」
なるべく隊長さんの顔を見ないように、渡された袋とピアスケースも持って、深くお辞儀をしてから急いで執務室を後にした。
ふー、なんとかあれ以上みっともない姿を見せずにすんだよ……。本当に、隊長さんの笑顔って体に悪い……。
こっちに来てからドキドキしっぱなしで、果たしていつになったらこの世界の基準に慣れるのだろうかと、少し不安になったのだった。
朝食後の出発ということで、一旦部屋に戻り荷物をまとめた私は、フィーに言われて通り、リゲルに魔力をあげようとピアスを取り出した。
「取りあえず、寝てて出てこれないからピアスに魔力を補充すればいいかな?」
そっとピアスを両手で包み込み、ゆっくりと魔力を注ぐ。どうせならと、反発が来るまでいれておいた。これでそのうち目が覚めてくれるといい。
さてと、ぐるっと部屋を見回して忘れ物が無いか確認する。最後の仕上げで綺麗にしていこうと、パチンと指を鳴らせば一瞬で部屋が爽やかな空気で満たされた。心なしかキラキラと輝いて見える気がした。
「ふふーん。エルさんのクリーン魔法もバッチリ!」
ちょっとやってみたかったエルさんみたいな使い方。別に指を鳴らさなくても出来るんだけど、あれはかっこ良かった。だから昨日、掃除をする時に散々練習したのだ。砦全部回って掃除したもんだから、指パッチンも完璧! 大満足の出来だった。
準備も終わって食堂に向かうと、まだまばらにしか隊員さんたちも来てなくて厨房の方も忙しさはそれほどでもなかった。
「おはようございます!」
「おぅ嬢ちゃんおはよう。隊長との話しは終わったか?」
「はい、お手伝い出来なくてすみません、ありがとうございました」
「先に飯食っときな、これからうるさくなるんだ、ゆっくり食って体力つけな」
「ありがとうございます! 食べ終わったら片付けはお手伝いしますね」
「ありがとよ、最後にアレやってくれると助かる」
「はい!」
アレとは、昨日もさっきもやったクリーン魔法だ。いつもはささっと済ますんだけど、今日は最後だし気に入ってもらえたみたいだから、うんと綺麗にしておこう。
朝から多めの朝食を貰い、テーブルの隅で食べていると次々に隊員さんたちが来てあっという間に賑やかになった。今日は隊長さんも来てオルガンさんと最後の打ち合わせをしながら食べていた。
食後はバタバタと最後の点検が行われ、私も厨房の片付けを手伝ってから砦の入り口までジェロームさんとメディさんと一緒に向かった。
既にみんな揃っていて綺麗に整列して待機していた。ささっと一邪魔にならないように一番後ろに並ぶと隊長さんが声をあげる。
「全員揃ったか、ではこれより結界を施す。魔法師班前へ」
「「「はっ!」」」
みんな背が高くてちょっと前の方が見えないけど、エルさんを始め、数名の隊員さんが前に出てきて持っていた杖を一斉に前に突き出し言葉を発した。それは何故か私には聞き取れない様で、言葉と同時に砦全体が薄い光の膜で覆われていった。
私は、ただただ綺麗だなぁと思いながらその光景をじっと見ていた。
砦編終了です。
アリスが異世界転移して11日間。一ヶ月以上かかってしまいました(汗)
次に移る前に1話はさんでから、新章突入したいと思います。
と、言うことで、次回更新は少し間をあけさせていただきます。
投稿当初は長い話しになるつもりじゃなかったのです(汗)
ノンストップで!とか言っていたのにすみません(*>д<)
なるべく近いうちに新章に入れるように頑張ります((o(^∇^)o))




