-43- 渡されたもの
恋バナで盛り上がっていると、あっという間に執務室の前に来ていた。もっと話がしたかった……。ちょっと残念だったけど、これからもっと話す機会もあるかもしれないと思うと、やっぱりドキドキしてきた。
「アリス、もう執務室入るから、その顔どうにかして……」
「ごめん、治すよ」
パチンッと頬を叩いて緩んだ顔を引き締めた。はぁと隣からため息が聞こえてきたけど、人の恋バナは楽しいんだからしょうがない。
リュカは一度首を振ってから執務室の扉を叩いた。
「リュカです」
「入れ」
「失礼します」
許可の声を聞いてから、リュカは執務室の扉を開けた。その後ろから、私も執務室に入る。
「朝早くにすまなかったな」
「いえ、大丈夫です」
「リュカも座ってくれ」
「はい」
隊長さんに進められ、私たち二人は並んでソファーに座った。
「王都に行ってからの事なんだが、リュカの実家の店で世話になるかもと、以前アリスに聞いていた。昨日の話しでもそんなことを言っていたので事情を聞いておきたくて呼んだのだ」
「はい。ちょうど姉が出産で、人を探していたのでアリスに話を持ちかけました。先日手紙も書いて母に送ったので、大丈夫かと思います」
「隊長である私からも礼を言う。保護した後を任せる形になってすまんが、よろしく頼む」
すごく不思議な気分だった。自分の事なのに隊長さんがお礼を言うなんて。立場上、保護先を探すのはもしかしたら隊長さんだったのかもしれない。と思ったら、勝手に決めて来てしまって申し訳ないと思った。
「私の方こそ事後報告になり申し訳ありませんでした。店の方でも急いで探さなきゃいけない時になかなか見つからず、僕は遠征に出発してしまったので、気がかりだったんです」
「あ、私も王都でどうしようかと思ってたので、リュカには感謝してるんです。すみません、隊長さんに相談もなしに決めてしまって……」
二人で隊長さんに平謝りだ。そんな私たちを見て、ちょっと複雑そうな顔をした隊長さんだったけど、すぐにいつもの爽やか笑顔に戻っていた。そして、2枚の封筒をテーブルに置いた。
「これは、アルトー商会長宛と、リュカの母君に宛てたアリスの紹介状だ。身分証の発行手続きは先日王都に出しておいた。なので王都に着いた時に渡せるだろう。リュカを信じていないわけではないが、私からの紹介状があれば問題は無いだろう」
なんという厚待遇なんだろうと私は驚いた。リュカも驚きを隠せない様子で私を見ていた。
いや、リュカさん。私も驚いてるんですよ。
「ありがとうございます、アリスの事情と性格とかを書いただけだったので助かります。隊長からの紹介状なら、文句無しで受け入れてもらえます!」
えーー、リュカさんテキトー……。長男の特権でごり押しした手紙だったんだろうなと予想がついた。普通に考えれば、こちらで成人したとはいえ、まだ16才だもんね。危なかったー。
「こんなに良くしてもらって、本当にありがとうございます」
深くお辞儀をすれば、隊長さんも優しく微笑んでくれた。おもわずドキッとするくらい。
「これから出発の準備があるだろう。話しは以上だ」
「はい。確かにお預かりします。それでは、私は失礼いたします」
手紙を懐にしまい、すっとリュカが立ち上がる。私も一緒に出ようと腰を上げようとすると
「アリスにはもう少し話がある」
「あ、はい」
そう言われて、腰を落とした。リュカが退出するのを見送って、隊長さんに向き直るとテーブルに見慣れたピアスケースを置く隊長さんと目が合った。
「あ、リゲル!」
「あぁ、昨日は頑張っていたみたいだ。疲れて寝てしまっているみたいなので、後で魔力を注いであげるといい」
「ありがとうございます!」
たった一日会えなかっただけなのに、もっとずっと会えてなかったみたいに、手元に戻ってきたコレが嬉しかった。
『この子、自分で魔力を補充できないみたいだだから、ちょいちょいあげた方が良いわよ』
ふわっと光の玉が現れて、リゲルが入ったピアスケースに降り立った。
「それってどういうこと?」
『普通精霊って、漂う自然の魔力を自分に取り入れて魔力を補充したりするんだけど、この子寝ないと回復しないのよ。たぶんまだこっちの魔力に体が慣れてないからかもしれないし、もともと取り入れるのが苦手なのか、どっちかだけど』
「そうなんだ、だから良く寝てるのかな? それってそのうち良くなるの?」
『さぁ、こればっかりはこの子次第だからね、心身ともにこっちを受け入れてくれれば変わるかもね』
「フィー、リゲルの為に色々とありがとう。図々しいかもしれないけど、リゲルにお友だちっていないから、これからもよろしくね?」
なんだかんだ世話好きの精霊さんにそうお願いすれば、ピアスケースに座っていたフィーが跳び跳ねるように空中に移動した。
『と、友だち?! そ、そんなんじゃないわよ! ただ何にも知らないから教えただけよ!』
なにやらあわてた雰囲気でフィーが捲し立てながら言ってきた。あ、ツンだ。可愛い。
「そっか、うちのリゲルがすみません、本当にありがとうございました。もしこれから何かわからないことがあったら、また教えてもらえると助かります」
『そうよ、ほんと、なにも知らないんだから! 教えて欲しいんなら、教えてあげても、良いわよ。と、友だちだって、なりたいって言うなら、なってあげても、いいんだから……』
あ、デレた。めっちゃ可愛い。これ実体化してたら、もっと可愛いんではないだろうか……。
そんなやりとりを、微笑ましいと言った様子で見ている隊長さんを見てしまい、目が合ってお互いに顔を反らした。顔熱い……。まだ慣れないなぁ、隊長さんの笑顔……。パタパタと手で扇いで顔の熱を冷ます。
「それと、アリスの鞄なんだが、これに入れておいてもらえるか?」
先に立ち直った隊長さんが、これと大きめの麻袋を出してきた。一応背負える形になっている。
「これにですか?」
「ああ、アリスの鞄は特殊だからな。隠しておいた方が良い」
そうだった。この普通のリュックがこっちには無いものだった。
「王都に行ったら、今使っている紙とペンもあまり使わない方がいい。必要ならこちらで用意する」
「何から何まですみません。書き留めるのは癖みたいなものなので、あると助かります」
「ここでの給金は、王都に行ったら支払われる。それで服などは用意できるだろう。今着ているものはリュカに渡してもらえればいい。他には何か必要なものはないか?」
すっかりお世話になってしまって、これ以上望めばバチが当たりそうだった。
「いえ、これだけ用意してもらえれば大丈夫です。後は自分でどうにかします」
「そうか」
隊長さんは少し悩んでから、何かを思い付いたように机に向かい、引き出しから何かを出してきた。
「これをアリスに」
そう言って手渡されたものは、以前リュカが隊長さんから借りてきた懐中時計だった。
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