-38- やらかした感
気持ちも落ち着かぬまま、厨房に入った私はジェロームさんに「熱でもあんのか?」と心配され、食い気味に「全然大丈夫です!」と言いきり、せっせと準備に取りかかった。思ったより自分の魔法が便利というか自由自在というか、隊長さんの様子からしておかしな事になっているとは気付いたものの、イケメンの破壊力に未だ回復しきれなかった私の思考は、厨房でもまたやらかしてしまっていた。みたいだった。
「アリスさん、なに、それ……?」
「え? 何って?」
それ。と隣で大量の洗い物をするメディさんに、視線だけで【それ】と目の前の現像を聞かれる。
毎回、調理器具と食器の洗い物が多すぎて、少し効率化出来ないかな? とは思っていた。
特に何も考えず、家にあった食洗機を思い出し、同じ様なことが魔法で出来るかなぁと、ボーッとした頭で大きめの水球を出し、食器を移動で中に放り込み、洗剤も投入して、ジャバジャバと洗っていた。所々水流を調節しながら。幸いにもここの食器は木製。割れることはない。
「……えーっと、この方が楽かなーって……」
「凄い上達したんだね……」
「み、みたいですね……」
若干引き気味のメディさん。私も曖昧にしか答えられなかった。
「普段こうやって、洗ったりは……?」
「しないね……」
「で、ですよねー……アハハ……」
秘技、笑ってごまかせだ。そんなやり取りを見ていたジェロームさんは、呆れたように私を見ていた。
「色々と試すのは構わねーが、ぶっ倒れんなよ。しっかし嬢ちゃんは考え方がおもしれーな」
「倒れないように、気を付けます……」
ジェロームさんは特に驚く様子もなく、面白いと笑っていた。笑っていたと言うか、苦笑いだった気がする……。
頭の中でピピーと聞きなれた音がして、洗い物が終了する。汚れが落ちたから終了したのではなく、そんな完璧にはイメージできないし、仕組みも知らない。ずっと操作するのは面倒なので、水球と水流を固定して、時間的にこんなもんかな? ってところでピピーっとなったら便利だなーと思ったからなったのである。ちなみにピピーは二人には聞こえていない。私の魔法超便利。
流し台の中に水球を入れ、パシャんと割るときれいになった食器が出来上がりである。この後、布で拭いて棚に戻すのだが
「風で乾燥させたりなんかは……」
「普通しないね……」
「ですよねー……」
「いいじゃねーか。どんな使い方したって操作の練習になるんだ。そんなバカバカ使ってもケロッとしてるってこたー、魔力も多いんだろ」
さすがについさっき、もっとたくさん魔法を使ってたとは言えない。魔力もどれだけあるのか知らないけど、多いみたいで特に不調はない。
「ちなみに、どうやろうとしてたんですか?」
ジェロームさんの言葉で、私のやることに少し興味が出てきたらしいメディさんは、洗い物を一度中断して手を拭いていた。
「温風を出して水滴を蒸発させればって」
「オンプウ?」
メディさんが首をかしげる。ヤバい、またやらかしてる……。
「えっと、気温が高いときに吹く風を、もう少し温かくした感じ、ですかね? ほら、暑いと洗濯物とか良く乾くじゃないですか」
「あー、そう言うことですか」
なんとか納得してくれた。ドライヤーやエアコンなんてこっちには無いもんね……。温風じゃ分かんないか。危ない危ない。
「なので、こうやって食器を浮かせて温かい風をあてて……」
次から次へと食器を浮かせ、温風で乾燥させていき、ゆっくりと重ねるように食器を下ろす。
「はい、終わりました」
「おぉーー」
感心したようにメディさんが声を上げた。
「嬢ちゃんは初心者とは思えねーな、まったく」
片眉を上げながらジェロームさんは苦笑いしていたけど、すぐにメディさんと一緒に食洗機もどきの魔法と乾燥の魔法を試していた。野外での食事の時に役に立つとか。でも1度見たかといってすぐに出来るものでもないらしく、何度か私に実演してくれと頼まれ、この日はリュカの勉強の時間ギリギリまで教える羽目になったのだ。
「っていう事があってね、遅れちゃってごめんね」
急いで会議室に向かったけど、やっぱり少し遅れてしまった私は、リュカに事情を説明して謝った。
「そうだったんだ、それにしてもアリスの世界は凄いんだね。本当に魔力がなくてもなんでも出来ちゃうんだね」
「便利さを追及した家電が多かったね」
「でも、そんなに魔力使って大丈夫?」
「あー、魔力かどうかは分かんないけど、少し疲れてるよ」
「それダメだよ! ちゃんと休まないと!」
急に大声を出されて少し驚く。
「大丈夫だよー、まだ走れるくらいの体力は残ってるよ」
「体力じゃなくて魔力! ダルくなるのは魔力が残り少ない証拠だよ! どれだけ魔力使ったんだよ!」
「え、えーっと……。朝、隊長さんと一緒に身体強化の練習もしました……」
さすがに、攻撃魔法の練習は言えなかった。怒っているリュカに、肩をすぼめながら答えると、その場を片付け始める。
「え? え?」
私が広げたノートやらペンをさっさとまとめて、「ほら」と押し付けられてしまった。
「今日は休む! 覚えてばかりの魔法を使うのが楽しいのは分かるけど、自分の限界は知っておいた方がいいよ」
「ちなみに、魔力が無くなるとどうなるの?」
「倒れる。……最悪死んじゃうから」
「え?! 死んじゃうの!?」
リュカの言葉に驚いたのは私だけじゃなかった。
『アリス! 死んじゃダメ!!』
「え?! なにそれ!」
「は?! リュカ見えるの?!」
驚きの展開だった。あわてたリゲルが無意識に姿を現してしまったみたいで、リュカにも見えるようになっていた。
「アリス、それって……」
『アリスー! 死んじゃやだよ! 早く休んでー!』
「あ、いや、これはね、ちょ、ちょっとリゲル、落ち着いて!」
聞く耳持たないリゲルは必死に私を休ませようと、ぐいぐい洋服を引っ張って部屋から出ていこうとしていた。だから、リゲル力強いって!
「リュカごめんっ! この事は内緒で! 後でちゃんと説明するからっ!」
『早くー! 早くー! アリス! 寝てー!』
暴走気味のリゲルに『寝て!』と言われ、突然眠気が襲ってきた。訳も分からず体の力が抜けていき、立っていられずその場で倒れ込んでしまった。
『キャー! アリスー!』
「アリス?! ちょ、大丈夫!?」
「だ、ダメ、みた、い……、すっごく、ねむ、い……」
『イヤー! どうしようっ! クロード! フィー! 助けてー!!』
「え? 隊長?! ちょっと落ち着こうか、大丈夫だよ、なんか眠いだけみたいだし、ね?」
倒れ込む私の上をぐるぐると回る実体化してるリゲルを、優しくリュカが話しかけていた。
状況的に放置するのは絶対に良くない事だとは分かっていても、この眠気を払うことができず、私は混乱するリゲルとそれを必死あやすリュカの声を聞きながら、意識を手放した。
次回更新 6/11 夕方頃です。




