-36- 隊長さんとの魔法練習
「身体強化は一度かければ意識的に切らない限り、魔力量にもよるがだいた歩く程度なら半日はもつ。昨日の報告で魔物の討伐もほぼ済んだようだし、走って逃げなければならないような魔物はでないので、先程のように走る必要はまったく無い。普通に強化をして一緒に行けばいい」
「分かりました」
ちなみに、今度は別の練習ってことで、さっきかけた身体強化は意識的に切っていた。
私が折ってしまった打ち込み台を、腕を強化した状態の隊長さんが軽々と地面から引っこ抜きながら話してくれた。けっこう深く刺さっていたみたいなのに、スポッと抜くから大変じゃないのかと思って、私ももう一本を抜こうとしたけどびくともしなかった。
「腕全体にかければ、簡単に抜ける。くれぐれも力の入れすぎには……」
言いかけの言葉の続きは、隊長さんの視線で分かってしまった。腕だけ魔力を纏わせてーと、隊長さんの真似をして強化をかけた状態で折れた棒を掴んだまでは良かったけど、力加減が分からなくて見事粉砕。それを絶妙なタイミングで見られてしまった。
「アハハッ……、す、すみません……」
力の入れすぎには注意して。と言いたかったのだろうと、粉々になってしまった木屑を見ながら乾いた笑いしか出なかった。
「力加減って難しいですね!」
と、やってしまったことを誤魔化そうと、いやもうすでに誤魔化せないけど。地面近くに残った棒を粉砕しないように引っこ抜いた。ちょっとづつ加減を見ながら引っこ抜いた。
「出来ました!!」
引っこ抜いた棒を見せると、若干隊長さんが引いていた……。木を粉砕しちゃうような女の子って、そりゃ引くよね……。
「制御を覚えた方がいいのか、強化自体使わない方がいいのか……」
眉間にシワを寄せぶつぶつと考え込んでしまった隊長さん。力加減は慣れしかないよね……。物を壊しまくらないようにするには、魔力を少なく使えばいいかな?
「ちなみに、どのくらい魔力って使えばいいんですか? あまり考えないで使ってるから、たぶん魔力の量が多いのかな? って思って……」
「そこからか……」
あれ? なんかその台詞ジェロームさんにもいわれた気がする……
「身体強化につかう魔力は少なくていい。むしろ魔力量が少ない人でも使える魔法なんだ。生活魔法と一緒で、ごく僅かでも効果はある」
「おぉ、そうだったんですね」
聞いておいて良かった。危うく非常識怪力少女になるところだった……。今度はごく微量の魔力を足に纏わせ、ジャンプしてみようと、事前に隊長さんに聞いてみた。
「飛んでみても良いですか?」
「と、飛ぶのか!?」
「いえ、跳び跳ねるってことです!」
慌てた隊長さんに訂正して「ほんの少しでいいから」と釘まで刺され、なぜか隊長さんも全体の身体強化をして受け止める気満々の体制までとっていた。いや、どんだけやらかそうとしてると思われてるんだろう……。
「いきます。せいっ!」
変な掛け声になったことは、この際気にしないでもらいたい。ごく微量の魔力を纏った私の足は、ジャンプ力が通常より少しだけ上がっていた。少しだけって言っても、プロのバスケ選手やバレー選手が試合中に見せるあのくらいのジャンプ力だ。私にしたらすごい方だった。
「今度はちゃんと制御出来たようだな」
心底ほっとしたように隊長さんは脱力していた。
「本当に少しでできるんですね」
「他にも色々と出来るんだが、アリスは使わなくていい。むしろ使わないでくれ。冒険者としてやっていくつもりなら教えるが、そうではないのだろう?」
「まだ良く分かんないですけど、あんまり危ないことはしたくないですね。でも身を守れるくらいにはならないと。とは思います」
こっちに飛ばされた直後にあった魔物を思い出し少し震えてしまった。王都にいれば魔物と会うこともないかもしれないけど、良くない人はいるみたいなことを隊長さんも言っていたし、日本ほど治安の良い場所ではないんだろうなと思った。だから護身術くらいは覚えておかないと、怖くて外も歩けそうにない。そう隊長さんに伝えれば
「護身術か……。そうだな、相手を殺さないように制御を覚えた方がいいだろうな……」
「いや、さすがに殺さないですよ。って言うか、殺せないですよ怖くてっ」
つつーっと、粉砕された残骸を見る隊長さん。
「あ、あれは無機物ですからね! 人ではないです! 不意をついて逃げるとか、振り払って逃げるとか? とにかく走るのは早いので、逃げるための隙を作るやり方とか、そういうのを覚えたいですね!」
「冗談だ、何をするにも制御は必要になるからな。生活魔法をうまく制御できるようになれば、他の魔法も加減が分かってくるだろう。生活魔法で覚えていないのは後は火だけだったな」
ちょっと笑いながら冗談だと言う隊長さん、笑った顔が可愛くて少し落ち着かなくなるから不意打ちとかやめてください……。
「厨房じゃ危ないからって、ジェロームさんに教えて貰えなかったです」
「懸命な判断だな」
色々とやらかしてる私は、なにも言えず口だけ尖らせた。ちょっと評価が不満だ……。
「生活魔法での火は、攻撃のそれとは違い威力も火力も小さい。火ダネ程度だったり、使い方が上手ければ何かを燃やすことも可能だ。アリス。威力は最小限に留めることだ。それが生活魔法だ」
なんか物凄く注意されてる……。ジャンプは上手くできたのに……。
「じゃあ、隊長さんやってみてくださいよ……」
少しむくれた言い方になってしまったのは仕方ないと思う。
「良く見ておきなさい」
隊長さんは掌を上にして、パチッと火を起こした。すごく小さな火だ。
「これが火ダネ程度だ。そしてこの程度までが生活魔法の範囲……」
そこから、ボワッとコンロで使っていた用な中火か、強火程度の火が上がった。
「わぁ、凄い。熱くないんですか?」
「この程度なら……、いや、火を起こす時に自身を傷付けないように意識はしている」
それがこちらの生活魔法を使う上での当たり前の常識なのだと教えてくれた。その常識さえ知らないだろう私に、隊長さんはしっかりと言葉にして伝えてくれた。危うく自分を焦がすとこだったと思うと、魔法も便利なだけじゃなくてちょっと怖いものなんだなと思うことが出来たのだった。
生活魔法に使う魔力は微量ってことで。
魔力量を間違えたら大変ですね(汗)
次回更新 6/9 夕方頃です




