-32- この世界は私に優しい
「リュカというと、アルトー商会か?」
「アルトー商会?」
アルトー商会。王都でも一二を争う商会で、国外からの輸入品から貴族御用達、王族御用達の高級品、平民も買える日用雑貨に冒険者が使う品まで、なんでも揃う大商会なんだそうだ。そんなところで働くの?! と、ビックリしたけど、どうやらアルトー商会を立ち上げたのは母方のお祖父さんのお祖父さん、つまりリュカの高祖父さんで、王都にも数件。他の領地にも店を出し、戦争が終わってからは隣国にも店を広げたとか。全てのお店の経営は一族が担っていて、この中でも平民で冒険者のお父さんと結婚したお母さんが経営するお店は、平民・冒険者向けの商品を取り扱うお店なんだとか。良かった、高級品とか怖くて触れないし、マナーとかも全然だったからどうしようかと思った。ってか、リュカ君よ、そんな実家とは聞いてませんよ……。小さいって言ってましたよね……。
「まぁ、確かにリュカの実家の店は、他のアルトー商会に比べれば小さい方だが、普通の店よりは大きいな」
こっちの普通の店がわからない以上、どの程度の規模なのかさっぱりわからない。そんな有名な商会なら、コンビニ程度な訳が無いだろうと思い、ちょっとひきつってしまった。
「そんな大きなお店だったんですね、お姉さんが使っていたお部屋も空いているみたいで、住み込みも大丈夫ってリュカが言っていましたけど、私がお世話になっても大丈夫なのでしょうか……」
「大丈夫だよ、母君もおおらかで家族も皆いい人ばかりだ。あの店は雰囲気も良い。そう気負うことはない。そうか、それなら安心だな」
急に不安になって、少し前から気になっていたことを、隊長さんに聞いてみた。
「どうして身元もわからない私に、みんな優しくしてくれるんですか?」
「……そうだな。きっと皆も誰でも優しくするわけではないと思う。ここ数日アリスと寝食を共にして、皆アリスの人となりを理解した上での判断だと思う。私や事情を知る皆も、聖霊に好かれている人物に悪い人はいないと知っているからなおさらだ。戦争や魔物の被害に合い、親を亡くす子供も以前は多かった。今でさえ戦争は終結したものの、孤児も街にはいる。そんな現状もここにいる隊員達は皆知っている。手を伸ばしたくても出せない歯がゆさもあるんだ。自己満足かもしれないが、孤児たち全員を救うことは困難でも、今ここで君を見捨てるという選択をするやつはいない。手を伸ばせる現実があるなら、皆は喜んで手を貸すだろう。うちの隊員達は皆そう言う奴らばかりなんだよ」
この砦のみんながすごく暖かい人達なのは分かった。そして、事情を知ってる人たちの理解もありがたかった。普通なら身分証明も常識も何もかも無い私なんて、ポイッと捨てられても仕方ないのに。この世界は優しさに満ちていて、ちっぽけな私を受け入れてくれようとしている。そんな風に思えて、精一杯頑張ろうと心に留めると、ピチョンっと心の真ん中に小さな雫が落ちてきてそれが波紋のように身体中に広がっていった。
……? なに今の? すごい不思議な感覚……。
「どうかしたか?」
「いえ、なんでもないです。自己満足だなんて、皆さんの優しさにすごく救われています。私は落ちてきたのがここで良かったです。きっと他の場所だったら、もう死んでるかもしれないです」
「厳しい言い方をするようだが、王都や街にも悪い人間はいる。まったく知識の無い君がいいように扱われる事だってあったかもしれない。ここが最善だったかは私にもわからないが、アリスがここに現れてくれて、私自身がアリスを助けられて本当に良かったと思うよ」
最後の言葉の意味が分からなかったが、それを気にする余裕も無くなるほど、隊長さんは優しく微笑んでいた。な、な、なんて顔してるんですか! これは私でなくても赤面ものですよ!
「出来れば、王都に行っても時々会う事を許してもらえないか?」
「は、はい?!」
突然の話の展開に声がうわずってしまった。
「私もアリスの力になりたいのだ。い、いや、聖霊と契約したことでお互いに情報の交換も必要になるかもしれない、もちろんリュカのところにいれば不自由はないかもしれないが、何か困ったことがあれば、頼ってもらっても構わない、なにしろアリスを助けたのは私だからな。せ、責任もある。そ、そう言う意味だ」
途中からものすごく早口で、少し頬を赤らめてしゃべる隊長さん。ちょっと勘違いさせたと思ったのか、恥ずかしそうにそう言いきった。
「助けてもらっただけでも感謝しかないのに、そこまでしてもらうのは、なんだか悪いような……」
助けてもらったのは私なのに、責任感じて面倒みてくれるとか、どんだけ良い人なのか……。悪いと言えば、隊長さんは慌てて訂正するように
「事情を知る人間も少ない、知り合いもいないだろう。ゆ、友人の様なものだと思えばいい」
貴族の友人とか、一般人には恐れ多いんですけど……。そう思ったけど、なんだか必死に訂正するもんだから、ちょっとおかしいくなってきてしまった。無責任なことはしたくない性分なのだろうか。これ以上否定するのも失礼な気がして、ちょっと心苦しい気もしたが、提案を受け入れることにした。
「隊長さんがそう言ってくれるのなら、私も心強いです。リゲルもフィーに会えると知ったら喜ぶと思うので、これからもよろしくお願いします」
そう、私の事だけではく、リゲルにとっても隊長さんと契約したフィーと会える機会があるのは嬉しいだろうと思い承諾すれば、隊長さんもほっとした表情になり、ふと目が合えばはにかんだ笑顔をみせ、私もおかしくなって一緒に笑ってしまった。
柔らかい雰囲気が執務室に流れ、優しい気持ちになっていると
『アリスーーーーーー!!』
大声で叫びながら、リゲルが隣の部屋から扉をすり抜けて飛び込んできた。
読んでいただきありがとうございました!
次回更新6/6 夕方ごろ
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