-31- 二人きりの食事
カチャカチャと食器の音が部屋に響き渡る。食事を始めて早20分。体感じゃ1時間くらい経ってるかと思えるくらいの緊張感の中、私は隊長さんと向かい合って食事をしていた。
この人、顔が綺麗なだけじゃなくて、食べ方も綺麗なんだよ。さすがお貴族様って感じ。会話もそれなりにあったんだけど、ほぼ内容は頭に入ってこない……。「はい」とか「そうですね」とかしか言ってない気がする。
隊長さんの事を直視出来ないでいると、突然ぷっと吹き出すような笑い声が聞こえてきた。
「そんなに緊張しなくてもいいと思うよ」
「えっ、いや、その……」
しりすぼみに否定はしてみるものの、全然説得力がない。指摘され、ただでさえ熱かった頬がさらに熱くなる。
「それとも、私と話しているのはつまらないかい?」
「そ、そんなことないです!」
あわててこちらも否定する。ブンブンと手を振って全否定だ。つまらないなんて事は全然ない。ただ、何て言うか、推しのアイドルとご飯食べてるみたいな、そんな気分なのだ。
そんなこと無いと言っても、隊長さんの顔は優れない。気分悪くしちゃったか……と思い、恥ずかしかったけど、思いきってハッキリ言葉で伝えることにした。
「た、隊長さんは、私の世界でいうと、アイドルみたいな感じで……」
「アイドル?」
「あ、アイドルっていうのは、有名人っていうか、実際には会うことの無い雲の上の存在って言うか、すごくイケメンだし……」
「イケ、メン? とは何だ?」
ぎゃーっ! さらに説明求められてるー! しかも本人を前にイケメンを説明とか、恥ずかしすぎるんですけど!
下を向きぎゅっと手を握り混み、恥ずかしさに耐えながら、私は隊長さんにイケメンの説明をする。何の罰ゲームですかこれ……。
「イケメンというのは、その、あの……、か、格好いい男の人のこと、です……」
プシューっと顔から湯気が出そうなくらい熱い。すっごく恥ずかしくて、握り混んだ手がプルプルと震えていた。反応が怖くて恐る恐る顔をあげると、少し照れたように顔を反らす隊長さん。うわぁ、これ、いわれた方も恥ずかしいよね……。
「……ああ、そ、そうなのか」
隊長さんも返答に困りながらも、なんとか納得してくれたようだった。
「い、いつもは気にしないように、して、るんです……、アハハ、なんか勝手にすみません。こっちの人たちって、私がいた日本とは顔立ちが違いすぎて、ちょっと気後れしちゃうんです、不快だったらごめんなさい」
「いや、そう言うことならいいんだ。そのうち慣れるだろう。そうか、だから時々……」
「え? なんですか?」
「いや、何でもない」
最後の方は聞こえなかったけど、少し隊長さんの顔も和らいでいた。というか、笑っていた。「だから、あまり気にしないでもらえると助かります」と、付け加えれば「わかった」と笑顔で答えてくれた。
「そ、そういえば、王都まで5日かかるってリュカに聞いたんですけど」
話題を変えようと、思い付きで明後日からの事を聞いてみた。
「あぁ、そうだな、なるべくアリスには負担のかからないように行くつもりだが、それでも5日はかかってしまうな」
「いえ、た、体力には自信がありますし、ついていけるように頑張ります」
「身体強化が使えれば、だいぶ違うのだが……」
「それって、どうやってやるんですか? あ、今ジェロームさんやリュカに色々と魔法を教えてもらってて。覚えるのが早いって言われてるんです」
へへっと照れながら笑えば、隊長さんも優しく微笑んでくれる。
「何を覚えたんだい?」
「えっと、リュカに魔力循環のやり方を教わってから、ジェロームさんには水と風を出せるように教わりました。後、マルクさんに移動のやり方を聞いたところです」
「色々と頑張っているようだね、生活魔法は使えるようになれれば便利だし、王都ではその年でほぼ当たり前に使う人が多い。これからの為にも練習を怠ってはいけないよ」
「はい、頑張ります」
「身体強化だったね、これは一般的に騎士や冒険者、傭兵や力仕事をする人が使うことの多い魔法だ。でも、ここから王都に向かうために、覚えておいてもいいかもしれない」
「難しいんですか?」
「いや、どうだろうな。こればかりは、個々の問題だからな。魔力を体に纏わせることで、強化をはかるんだ。部分的に集中して纏わせることが出きれば、部位を効率よく強化することも可能になる」
つまり、指先なら、石に穴をあけたり、デコピンが強くなったり。腕なら持ち上げたり引っ張ったり殴ったりが強くなって、足なら、走るスピードが早くなったり蹴りが強くなったり、高くジャンプできたりとか。お腹なら、当たってもダメージ少なくてすんだり。身体全体なら、疲れにくく足腰も強くなると。今回必要なのは、身体全体かなと思った。
「纏わせるって、表面的にでいいんですか?」
「表面的というか、それだとどちらかというと防壁になるな。それより少し内側、でも循環と違って全くの内側とも違うんだ」
「少し内側ですか……」
皮膚の内側? 筋肉とかかな? 確か生物の授業で人体構造とか習ったな。この知識、役に立つかな?
水なんかと違い、身体強化は見てもわからない。かけた本人しか効力はわからないのだ。見て覚える事が出来ないから、試行錯誤でやってみるしかなさそうだった。
「この後、訓練所で試してみます。足手まといにはなりたくないので頑張ります!」
ガッツポーズを見せれば、隊長さんにまた笑われてしまった。
「アリスの魔力は多いらしいが、あまり無理はしないようにな」
「はい!」
元気よく返事をして食事を再開する。少し話をしたおかげで、緊張も和らいでいた。食事も終わり、隣の部屋の扉を見たけれど、フィーとリゲルはまだ出てこない。何の特訓なんだか……。
そう言えば、と隊長さんが話し始め、視線を戻すと少しソワソワした落ち着かない感じの隊長さんと目が合う。
「王都に着いてからなんだが……」
「あ! それなんですけど!」
王都に着いてからの予定を隊長さんに報告していない事に気がつき、ちゃんとお知らせしておかねばと、先日のやり取りを隊長さんに話すことにした。
「なんか、リュカのお姉さんが出産で、お店の人手が足りないとかで、リュカの実家のお店で働かせてもらえそうなんです!」
読んでいただきありがとうございました!
次回更新6/5 夕方ごろ
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