-30- 移動と秘密の特訓
「おはようございます、今日はマルクさんが当番なんですね」
「おはよー、アリスっち。よろしくねー」
先に洗い場に来ていたマルクさんが、井戸からロープを使わずに水を汲んでいた。あれが移動かな? と、近くまで行きまじまじと観察する。
「ん? アリスっちどうしたの?」
「あ、移動の魔法ってどうやってるのかな? と思って」
「アリスっち、移動使ったこと無いの?」
またしても、使ったことの無い事に疑問を持たれた。やっぱり普通は使えるんだよね……。設定上無理の無いように考えて答える。
「はい、両親があまり魔法得意じゃ無かったみたいで……」
「そうなんだ、大変だったんだね」
ジェロームさんと同じような反応に「へへ」っと困ったように笑い、曖昧に返事をしておく。突っ込まれたらボロが出そうで困るのだ。
「リュカから、マルクさんは生活魔法が得意って聞きましたけど、お洗濯、全部魔法でやらないんですか?」
「んー、出来ないことはないけど、僕は水系統の適正少ないから、他より魔力をたくさん使っちゃうんだよ。この後討伐行くし、少しでも魔力は残しておきたいんだ。やり方だっけ? やり方って言っても、こっちこーいって、魔力で引っ張るだけだけど」
うわぁ、すっごあ適当だ……。本当に人それぞれだなぁ、と少しあきれ顔だったのは、許して欲しい。それくらい、マルクさんの言うやり方は、適当だったのだ。
昨日の水球浮かすのも念じるだけだったし、
魔力があれば本当に何でも出来ちゃうんだなぁ。いっぱい勉強したり修行したりしなくちゃ使えないとかじゃなくて、ホントに良かった。
この世界の魔法が、私にとって優しいもので本当に助かった。それもこれも、想像力豊かな日本の文化のおかげだ。
こっちの人たちは習得するまでに、それなりに時間がかかるものなんだって。コツをつかめば簡単なんだけど、それまでが大変らしい。生活魔法は日々の暮らしで見る機会が多いから比較的簡単に覚えられるけど、それでも適正が左右するみたいだし、攻撃魔法なんて、身近じゃないからもっと大変なんだそうだ。
危険な分、理解も制御も操作も必須なんだって。
洗濯しながら魔法についてあるこれ教わって、最後に干すのを移動の魔法でやってみた。集中切れると落ちちゃうから、洗濯物の下でキャッチできる状態でってのがちょっとカッコ悪いけど、それでも浮かせてロープに乗せてって、普通にやった方がはるかに早く出来そうなスピードだったけど! 頑張って移動出来るようになったのは嬉しかった。
「アリスっち、覚えるの早いね。使えば使うほど早くなるし、制御も感覚だから。頑張ってね」
「はい! ありがとうございました!」
マルクさんに元気にお礼を言って洗い場を後にすると、今度は厨房に向かった。いろんな所で魔法に触れて覚えていく。今はそれが楽しくて、どんな魔法使えるようになるかなぁと、考えるのを止められなかった。
「おはようございまーす!」
「おぅ嬢ちゃん、今日もよろしくな!」
「アリスさん、おはようございます」
すでに下準備に取りかかっている二人に声をかけて厨房に入る。
「メディさん、今日隊長さんに朝食持って行くの、私が行ってもいいですか?」
「別にいいけど、何かあったの?」
「ちょっと用事があったので、ついでに」
「わかった、じゃあよろしくね」
「ありがとうございます」
朝食運びの了承をもらって、私も下準備の手伝いを始めることにした。
準備が進むにつれ、だんだんと食堂の方も賑わってきていつもの朝が来たんだなと思う。こっちに来てまだ一週間だけど、いろんな事がありすぎてあっという間だった気がした。色々と覚えることも多くて、魔法なんかも使えちゃったりして、新しい自分が着々と出来上がっていく感じがしていた。
どんどんお料理が出来ていき、カウンターへ並べいつものように隊のみんなとお喋りしながら渡していけば、時間はあっという間に過ぎていった。
「そろそろ隊長とこに朝食もってってやんな」
「え? もういいんですか?」
「何か話しあんだろ、こっちは後片付けだけだから、ついでに自分の分の飯も持ってけ」
「ええっ! 一緒に食べるんですか?! それっていいんですか?!」
「別にどこで食ってもかわんねーだろ、その食器洗っといてくれりゃー、こっちも手間が省ける」
「はぁ、それでいいならいいんですけど……」
いきなりの隊長さんとの朝食。ちょっとハードルが高すぎやしませんかね……。ドキドキする気持ちを押さえながら、二人分の食事をトレーに置いて私は厨房を後にした。
ジェロームさんって、隊長さんと仲良いのかな? っていうか、ここの人たちみんな気安いよね……。上下関係が緩いって言うか。家族みたいな感じって前に聞いたけど、信頼し合ってるんだろうなぁ。でも、それと私が隊長さんと一緒にご飯を食べるのは違うと思うんだけどな……。
さて、またしても両手が塞がっている。私はノックなしに声をかけようと、スーッと息を吸い込み
「すみま「待っていたよ」せ……」
被せ気味にまた扉が開いて隊長さんが出てくる。本当にこの人、気配とか分かるんじゃないんだろうか……。
「あ、あの。ジェロームさんが、ここで一緒に食べてこいって、私の分も持ってきちゃったんですが、良いでしょうか……?」
「あぁ、構わないよ。フィーとリゲルもまだ話しをしているからね。先に食べてしまおうか」
「あ、ありがとうございます……」
断られたらどうしようかと思ったけど、案外あっさりと承諾をもらえて、ほっとした反面少しだけドキドキしてしまう。
隊長さんって、本当に格好いいんだよね。こんな人とご飯とか、私の人生じゃ絶対あり得なかったことだよ……。
隊長さんが静かに扉を閉めると、自然にトレイを取り上げられてしまった。いや、ホントに自然にね。めっちゃスマートだよこの人。
「あ、そんな、私が運びますっ」
「二人分じゃ重たいでだろう、ここまで運んできてくれてありがとう。さぁ、そちらに座って」
「はぁ、ありがとうございます……」
ちょっと申し訳ない気持ちがしたけど、たぶん拒否する方が失礼なんじゃないかと思い、その行為に甘えることにした。
ソファーに座り辺りを見回しても、二人の姿が見えず、キョロキョロとしてしまう。
「ああ、あの二人は隣の部屋だよ」
「隣ですか?」
「秘密の特訓があるらしい」
「秘密の特訓……ですか」
ん? いや、ちょっと待って。ってことは、今この部屋に私と隊長さんの二人だけってこと?! イヤイヤイヤイヤイヤ、マジ無理ですって!
正確には、扉一枚隔てた隣にリゲルとフィーがいるんだけど、それでもこの空間には私と隊長さんの二人だけってことに、本気で焦ってしまうのであった。
リゲル! フィー! 早く戻ってきて!
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