-22- かくれんぼ
6日目の朝、ルーティーンと化した洗濯から厨房の手伝い、訓練所でのジョギングを済ませた後に部屋に戻ると、胸ポケットからリゲルが飛び出してきた。
『ねぇねぇねぇ! アリス! 魔法使えるようになった?!』
「急にどうしたの?」
『なんか、起きたらアリスの中から暖かいものが溢れてて、昨日と違ったからこれが魔力なのかな? と思って!』
どうやらリゲルは、フィーと分かれてからずっとピアスの中で寝ていたらしい。外に出ると眠くなるって言ってたから、疲れたんだろう。
そして、さっき起きたら私の様子が昨日と違っていたのに気がついたらしいんだけど、周りにたくさん人がいたから、話しかけるのを我慢していたと。お約束守れるなんて、なんて良い子!
「魔法はまだ使えてないよ? 昨日エルさんに、エルさんって言うのは、この隊の魔法が得意な人なんだけどね。そのエルさんに私の中にある魔力の膜を破ってもらったの」
『破いたの? アリス大丈夫?』
「うん、私は大丈夫だよ。エルさんと隊長さんがなんか疲れてたけどね」
『そうだったんだー。アリスもフィーみたいに魔法使えるのかと思っちゃったー』
「残念、私も使いたいんだけどね。まだ教えてもらってないの」
昨日あの後、すぐにオルガンさんが飛んで来たのだ。いきなり放たれた魔法を感じ取って、急いで来たらしいオルガンさんは、事情を聞いてひとまずは安心した様子だったけど、「一歩間違えればアリスが危なかったんだぞ!」と、凄い剣幕で二人を叱りつけていた。副隊長さんに怒られる隊長さん。どちらが上だか分かんなかった……。
どんだけ危険だったかは、本当に聞きたくない。知らない方が幸せだろうと思い、突っ込んで聞くことは絶対にしなかった。
とにかく昨日はそんなこんなで、自室に戻ることになり、朝からいつも通りの運転だった。
だから、誰かに魔法の使い方を聞く暇なんて無かったのだ。
「生活魔法とか、使えたら絶対に便利だよねー」
『生活魔法て?』
「ほら、こっち電気とかガスとか無いじゃない? 料理するにも火おこさなきゃならないし、水も井戸から汲んでるし、ドライヤーも無いから髪の毛乾かすのとか大変だしさ。そこらへん全部魔法で出来たら便利だよねーって」
『それが全部魔法で出来ちゃうの?』
「ん? 知らないけど、出来たらいいねーって話し」
『なんだ、アリスもまだしらないんだ。フィーに聞いたら教えてくれるかな?』
「どうだろうね? フィーは精霊さんだから、人が使う魔法とはちょっと違うんじゃないかな?」
『そっか……。やっぱりよくわかんないね』
「そうだね、でも知らないままじゃ良くないから、二人でいっぱい知っていこうね!」
『うん! そうだねアリス! 一緒に知っていこうね!!』
自分の前でリゲルを受け止めるために、両手を皿のように広げると、ふよふよとリゲルが降りてきてくれた。
「リゲルが一緒にいてくれて本当によかったよ」
例えそれが、リゲルに連れてこられた世界であっても。たぶん私が危なかったから助けてくれたんだろうし、飛ばすだけ飛ばして放置。なんて事にならなくてよかった。幸いにもどうやらリゲルに好かれている様子だし、生まれてきた時から一緒にいてくれたなんて、なんか嬉しかった。突然家族がもう一人できたみたいに、昨日の今日だったけど、すんなりと受け入れられたのだ。
『ボクも! これからもずっとアリスといっしょだからね!』
嬉しそうに答えてくれたリゲルが、ピカーッと光っ。ちょっと眩しかったけど、すっぐに収まって普段の輝きくらいに落ち着いた。
「リゲル? どうしたの?」
『わかんないけど、前にくっついた時みたいだったね! アリスとまた近くなった気がするよ!』
「前って、私が赤ちゃんだった時の事? 近くなったってもしかして、再契約? 本契約みたいな?」
自分で言ってても意味不明だ。リゲルが近くなったと言うからには、今ので私たちの中の何かが変わったってことなんだろう。地球での契約は、魔力を感じなかった為になんの効力もなかったぽかった。なら、魔力が解放された今、お互いの意思で一緒にいる事を望み、触れあっていたのなら、昨日の隊長さんたちと同じで契約が成立したって事なんじゃないだろうか。
地球で一度契約してるから、こっちでは再契約かな? 地球での契約は仮って状態で、こっちでは本契約? みたいな?
自分の中でも何か変わったのかな? と意識を内側に集中してみることにした。隊長さんは魔力が増えたって言ってたけど……。
昨日の今日で、魔力が増えたかなんて全然分からなかった。だってもともとの量だって把握してないんだから。ただ目を閉じると、今まで物理的に目にして存在が把握できていたリゲルの事が、見てもいないのに感じられるようになっていた。
「あ、私もリゲルと気持ち的に近くなった気がする!」
『ホント?!』
「リゲル、少し離れてみてくれる?」
『離れるの? 少し?』
「この部屋の中だけね。見てなくてもリゲルが何処にいるか分かるっぽいの。試してみたくて」
『何それ! すごいねー! 楽しそう!』
「じゃあ目を瞑るから、かくれんぼね!」
『かくれんぼかくれんぼー!』
楽しそうに跳ねるリゲルを見てから、手で目を覆っていーちにーい……と数を数える。
「……きゅー、じゅう! もーいいかい?」
『もーいーよー』
ちょっと控えめに声が聞こえてきた。私は再び目を閉じて意識をリゲルに集中した。
真っ暗な、真っ黒の思考にポッと光が灯る。暗闇の中自分を中心に、灯った光が前方の左下で少しだけ揺れていた。
感じ取った光の位置と、目を開けて見た家具の配置を重ね、リゲルがいるだろう位置にそーっと近づいた。
前方左下。私から見てベッドの左奥の下だった。屈んで覗き込み小さな光を確認すると
「リゲルみーっけ!」
大きな声で言いながら、リゲルを捕まえた。
『わぁ! 見つかっちゃった! すごいねアリス! 本当にわかるんだね!』
「結構正確にわかるみたいで、私もビックリだよ。やっぱりちゃんと契約しちゃったみたいだね」
『アリスはイヤだった?』
「そんなことないよ! すっごく嬉しいよ! ただ、契約って精霊にとって大切な事ってフィーが言ってたから、リゲル的には良いのかな?って」
『ずっとアリスと一緒にいたんだもん。契約ががどんなのか分かんないけど、今までと変わんないよ。ボクがアリスを嫌いになる事なんてないんだから、良いんだよ!』
めっちゃ好かれてます。私、むちゃくちゃ愛されてます。リゲルの言葉にジーンときて、ちょっとウルっとしちゃった。
その後も、何度かかくれんぼしてみたり、他愛のないおしゃべりをしたりして過ごしていた。思いの外楽しかったらしく、いつもなら時間前に厨房に手伝いに行くところ、メディさんが部屋まで呼びに来るまで、まったく気がつかなかったのだ。いや、ホント、すみませんでした。
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