-16- 助言はほどほどに
「なんか、本当に、色々と、ありがとうございました……」
「いや、大丈夫だ。飛んだことには驚いたが、間に合ったのだから、精霊のしたことは正しかった。アリスが気にすることじゃないよ」
隊長さんは少し引きつりながらも、笑顔でそう言ってくれた。精霊さんにかかれば、空でも飛べるんだ……。隊長さんにはちょっと悪いけど、空、飛んでみたいなぁ。なんて思ったりもした。
「それにしても、隊長さん精霊さんに気に入られてるって言ってましたけど、もしかして……」
「あぁ、この声に間違いはないな。いつもの精霊だろう。名前を知ったのは今だが……」
『えー、私言わなかったっけー?』
「ずいぶんと前からの付き合いだが、一度も聞いたことはない。そして、こんなに長く居たことも喋ったこともない」
『あれ? そうだったっけ?』
お気に入りだって言うから、結構な付き合いかと思いきや、フランクさんの言っていた通り、振り回されていたんだろうなと、二人の会話から想像できた。
「フィーと隊長さんって、いつから一緒なんですか?」
「一緒と言うかなんと言うか……。私がまだ騎士学校にいた頃からだ。演習で森に来ていたときに魔物に食われそうだった精霊を助けたんだ」
『そう! あの時は本当にダメかと思ったの! クロードが助けてくれなかったら、私食べられちゃってたわ!』
「魔物って精霊さん食べちゃうんですか?」
「好んで食べると記載がある」
『本当に食い意地はってて嫌な奴らよね! 私たち、魔力の塊みたいなもんだから、あいつらにとっては、ごちそうみたいなのよ』
「ごちそうって……」
自分も食べられそうになったから、背筋がゾワッとした。
「騎士学校って、何歳から通えるんでしたっけ?」
「一般的には成人前の3年間だから13だな。演習に行ったのは2年の時だったか」
えっと、入学できるのが13歳で、次の年だから14歳の時か! で、隊長さんが今25歳だから……。
「ずいぶんと長いですね」
「あぁ、あれから11年になるか」
『えーまだほんの少しじゃない』
精霊と人間の流れる時間の早さは尋常じゃないくらい違うっぽい。そりゃほぼ不死ってくらいだから、感じ方は全然違うよね……。それにしても、その間に一度も名前を言ってないって。
『助けてもらったし、クロードの近くって居心地が良いから、一緒にいたのよ?』
「……」
ちょっと隊長さんが真顔になった。
「フィーは隊長さんに何をしたの?」
『何って、すぐに契約まではさすがにできないから、大したことはしてないわよ。でも、お礼はしたかったから、危ないときとか教えたり、良いこと教えたり?』
あれ? 聞くだけじゃ良いことしてるんじゃない? なんで振り回されてるって言ったんだろう?
「ちなみに、どんな?」
『んー、そこの角から人が出てくるから気を付けて。とか、あっちに強そうな魔物がいるよ。とか、あの令嬢は家でクロードの髪の毛入れた人形を可愛がってるか注意して。とか、あっちの令嬢は、クロードが見てないところでグラスになんか入れたわよ。とか?』
前半は良いとして、後半が……。
『角のパン屋さんに新作が出た時とか、広場の近くにケーキが美味しそうなカフェがオープンした時とか、店員さんがクロードのを見る目が普通じゃないとか、クロードを見てる女の子の隣にいる男の子が怒ってるとか、服屋の見習い君が赤い顔してこっちみてるよ、とかよ?』
どうでもいいし、出来れば知らない方がいい事ばかり……。最後のとか、絶対に聞きたくない。そして全部、善意なんだろうなぁ。
「た、大変なんですね……」
「あぁ……」
二人でなんとも言えない顔をしてしまった。
『ねぇねぇ、リゲル? だっけ? アンタこのアリスとか言う人間と契約してるの?』
小声でフィーがリゲルに訪ねる。小声だけど、近すぎて私には丸聞こえだけどね。
『契約? 契約ってなに?』
『契約も知らないの?! はぁ、アンタって本当におこ……』
『じーー』
『いや、何でもないわ。契約っていうのはね……』
フィーが【おこちゃま】と言おうとして、抗議のジト目をしたであろうリゲル。言いなおしてフィーは精霊たちの契約について教えてくれた。
人間と精霊の契約は、精霊側が提案をしてそれを人間が承諾することで成立する。逆は絶対に無いそうだ。借りに人間側が提案をしたとしても、それを受け入れる精霊はまずいないんだって。持ちかけられた時点で、お気に入りからも除外されもう姿を見せないようになるらしい。ごくごくすごーく稀に、いい加減な性格してる精霊が、まいっか。程度で契約しちゃうってのも、過去にあったらしい。
契約は精霊にとって大事なことで、人間側の人生にも影響があるから慎重にするようにって、精霊の偉い人? にも言われてるらしい。気まぐれって聞いてたけど、こっちの事情を考えてくれるなんて上位の精霊はとても良心的なんだなと思った。後はフランクさんの言っていた通り、契約すると力の増加(魔力とか筋力とか)と、その契約した精霊の能力・得意とする事が契約者にも扱えるようになって、都度契約者が精霊の承諾を得れば、もっと力を貸してあげることも可能になるらしい。
『へぇー、そうなんだー。なんかボクってすごいかも?』
『すごいかも? なんてもんじゃないわよ。違う世界の精霊ってあまり聞いたこと無いけど、私たちとは違う能力持ってたりするから、アンタも変わってるんじゃないの?』
『そうなのかな? 自分の能力って言われてもよく分かんないけど、ボク、スピードなら超早いよ!』
リゲルが『超』とか使ってる。聞きなれた言葉と使い方が可愛くて、思わず笑ってしまう。
『そうなのね、超? がなんだかわかんないけど、早いのね。でも風の精霊である私よりは遅いでしょうね』
『そんなこと無いと思うなー。ボク本当に早いよ? それとね、超って、すごーくすごーくってことなの!』
『嘘よ! 精霊の中でも風を司る私たちは、誰よりも早いんだから!』
『えー、じゃあ競争してみる?』
『いいわよ! やってやろうじゃない!』
途中から、小声が普通の声になり、最後は大声にまで変わっていた。
かくして【第一回・フィー対リゲル、どっちが砦一周早いか選手権】がここに開催されたのだった。
「隊長さん、なんかよくわからない展開なんですけど……」
「あぁ、私もこの状況に付いていくのが
やっとだ……」
ここの魔物は精霊を食べるらしい、ですよ。
そしてクロードさん。女難の相が出てますね(*゜Д゜)
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