異世界 ー聖女王国ー
この国の中心にそびえ立つ教会様式の大きな
お城…聖女王国の城。
そして、その背後に鎮座する大樹…その幹の太さは前面に建っているお城と同じ大きさだった…
人々はその樹を『聖大樹』と呼び敬った。
お城の中では聖女王を中心に会議が続いていた。
出席者は皆同じ質素なシスター服を着ていた。
「どの調査を見ましても…やはり寿命かと…」
「そうなのですね…あの『聖大樹』が…」
襟に金色のリボンを付けた老女がつぶやいた…
聖女王ヤルタナである。
ここ数年…この国の領地が魔草原や魔森林に
侵食されている…
『聖大樹』それは聖なる力を宿し、その聖なる
パワーを発散させている。
その聖パワーの影響が有るトコロまでがこの国
『聖女王国』の領地なのだが…
「やはり、聖樹の種子を手に入れるしか解決
方法は無いかと…」
会議場がザワついた。
「アレは伝説のお話しでは無いのですか?」
その伝説とは…遥か昔、聖女アホンタレヤが
東方遥か彼方へ苦難の旅の末に聖樹の種子を
持ち帰る、と言うモノ。
「研究機関が行っている、挿し木や培養は
どうなっているのですか?」
「どれも結果は芳しく有りません。」
「失敗と言うコトですね…」
会議場が静まりかえった。
聖女王が口を開いた。
「誰か他に良い案は有りますか?」
「………」
「無ければ『種子の旅』を行います。」
会議場がどよめいた…
『種子の旅』とは…あの前出の伝説の聖女
アホンタレヤが行った旅程を再現する呼び
名である。
再び聖女王が
「希望者を募ります。3日経って希望者が
現れ無ければ、くじ引きを行います。」
会議が終了し足早やに聖女たちがそれぞれの
部署に帰って行った。
この国には貴族はいない…政務は聖女たちが
執り行っておりそれぞれに部署が有った。
財務部のカシアスが執務室に戻って早々に
「各部署に通達して!緊急勉強会を開くと。」
部下が
「ハイ、クレイ派はどういたしましょうか?」
「アチラも集まりたいはずよ。声をかけて。」
組織が古くなればなるほど派閥と言うモノが出来
権力争いが起こる…この国でも例外では無い。
そして、暗黙の中、カースト制も出来ていく。
正規の身分では、聖女王を頂点に正聖女、次に
準聖女、その下に聖女見習いと4段階なのだが…
実際は正聖女には上級聖女、中級聖女、下級聖女と有る。準聖女には候補、除外と有る。そして
その下の聖女見習いは聖女とは名ばかりで実の
ところ…雑用や奴隷と呼ばれている。
緊急勉強会で招集された各部署の長たちは
今日の会議の結果に不満を漏らしていた。
「『種子の旅』ですって!あんなお伽話を
実行しようなんて、バカげてるわ!」
「絶対に誰も手を挙げないでしょうよ!」
「アラ、アナタたちクレイ派の誰かが手を
お挙げになれば…出世のチャンスよ。」
「まさか…私たちはか弱い乙女です…アナタ
たち魑魅魍魎の類が魔獣を相手にする方が
よろしいのではないでしょうか?」
「誰が魑魅魍魎ですって!」
「もう、その辺でよろしいでしょう…」
カシアスが声をあげ制止した。
この国ではカシアス派とクレイ派で2分されて
いた…
「クレイさんアナタのお考えはどう…?」
「『種子の旅』?まっぴらですワ。ドコぞの
アホゥが行けば、よろしいのですワ。」
「私も同意見よ。多分この3日間で希望者は
現れないでしょね…」
「問題はその後の…くじ引きですワネ。」
「そう、それが厄介…女王様を除く全聖女に
引かせる…誰が当たるわからない…」
「それは困りますワ。ワタクシ、決まった
ベッドでしか寝られませんもノ。野宿なんて
まっぴらですワ。」
「それで私からクレイ派に相談です。今回の
件ではアナタたちと手を組みたいのです。」
「よろしいですワ。その相談が利に叶うモノであれば、喜んで乗りますワ。」
「コレはアナタたちと私たちが手を組まないと
出来無い事です。ソレはくじ引きに細工をする
と言う事です…いかがかしら?」
「ワタクシたちには…当たら無い様にする。と言う事ですワネ。喜んで乗りますワ。」
カシアスとクレイは手をとり合い、ほくそ笑んだ。
3日の間、希望者は現れ無かった。くじ引きが
決定となり、見習い聖女も含めての全聖女が
大広間に集められた…
聖女王室に、隠れ聖女王派の1人が訪れ…
「聖女王さま、カシアス派とクレイ派が手を
組んで、くじ引きに細工をしたとの事です…」
「そうですか…では、次にくじ引きを見習い
聖女から引かせる様に願い出るでしょうね。」
「え…?どう言う事でしょうか?」
「くじ引きを全部当たりに細工しておけば…
最初に引いた見習い聖女が当たりくじを引く
事になりますよね…」「でも、それで良いのです。」
「そんな…なぜですか…?」
「『種子の旅』は過酷な旅になるでしょうね…
お嬢様出身の正聖女や準聖女の方たちが、そ
の旅に耐えられるでしょか…」
「アナタはどうです…手を挙げ無かったでしょ」
「………」
「見習い聖女の娘たちは肉体的にも精神的にも
私たちより強いでしょうね…」
「確かに…おっしゃる通りかと…」
「さて、どんな強者が現れるかしら…さあ、大広間に参りましょうか…。」
大広間では大勢の聖女たちがザワザワしながら
整列していた…半分以上が見習い聖女だった。
掃除、洗濯、調理等…肉体労働全般を見習い
聖女が担っていた。正、準聖女たちは個室を
与えられ温々とお嬢様生活を継続させていた。
対照的に見習い聖女たちは過酷な労働の上に
雑居房で雑魚寝状態だった。
聖女王が大広間に現れると今までザワついて
いたのがウソの様に静まりかえった。
カシアスが聖女王に歩み寄り深々と頭を下げ
「聖女王様にお願いがございますが、よろしい
でしょうか?」
聖女王はうなづいた。
「くじ引きですが…この尊い機会を下の聖女たちにも与えてあげたいのですが…」
「何か良い方法が有るのですか?」
「くじ引きの順番を下の者たちから始める事
が賢明だと思うのですが…」
「おっしゃる通りね。その様に計らいなさい。」
カシアスはニンマリと笑った。
手押し台座に乗せられた花瓶には花の代わり
に沢山の細い棒が立てられていた。
準聖女の1人がその手押し台座を見習い聖女
たちが並ぶ列へ押して行った。
見習い聖女たちは今日この大広間に来て、始め
て『種子の旅』のくじ引きの事を聞かされて
いた、希望を募っていた事すら知らなかった。
「さあ、お前たちからこの尊いくじが引ける
事になったよ。並んで1人づつ引きなさい。」
その時、1人の見習い聖女が大きな声で…
「あの〜今でも応募は出来るのかな〜募集して
たの知らなかったんで〜…」
「何を言ってるんだい。もうくじ引きは始まっ
てるんだよ!」
「でも〜まだ誰も引いてないし〜…」
聖女王のところからでも見習い聖女の列で何か
ザワついているのがわかった。
「どうしたのです?何を騒いでいるのです?早くくじ引きを始めなさい。」
正聖女の1人が騒ぎの内容を聞きつけて、それを
聖女王に報告に来た。
「何やら見習い聖女の1人がくじ引きの前に
立候補が出来るなら、したいと…」
聖女王はうなづくと見習い聖女たちの列へ足早
に歩いて行った。
聖女王が現れると見習い聖女たちは驚愕し、一斉に膝まづいた…1人を除いて…
「アナタが立候補したい方ね…でも、もう
くじ引きは始まってしまったの。」
「でも〜あの〜…」
「アナタの志しが本物なら、神はアナタの志しに応えてくれるでしょう…さあ、引いてごらんなさい…」と聖女王はニコリと笑った。
そして、その見習い聖女はうなづくと細い棒の束から1本の棒を掴んで引き上げた…
その棒の先には真っ赤な色が塗られていた…
当たりくじである。
引き当てた見習い聖女の名は…ラーナと言った。




