第1章 第13話 日本ハンター協会プレスリリース
日本ハンター協会の公式ウェブサイトが更新されたのは、その日の午後八時だった。
トップページに掲載されたのは、「重要なお知らせ」と記された一本のプレスリリースだった。
六甲山ダンジョン完全踏破者との接触及び暫定ハンターランクの新設について
日本ハンター協会は、本日、六甲山ダンジョンを完全踏破したハンター、真神幸一郎氏との接触を確認いたしました。
本人確認及び過去の登録情報との照合を行った結果、真神幸一郎氏本人であることを確認しております。
また、健康状態についても、現時点において緊急の対応を必要とする状態ではないことを確認しております。
今回の完全踏破を受け、日本ハンター協会及び未生物対策省は、既存のハンターランク制度では完全踏破者を適切に評価することが困難であると判断いたしました。
このため、完全踏破者を対象とする特別区分として、暫定的に以下のランクを新設いたします。
暫定EXランク
六甲山ダンジョン完全踏破の実績に基づき、真神幸一郎氏を暫定EXランクとして登録いたしました。
なお、本区分の正式な運用基準、既存ランクとの関係及び今後の認定方法については、現在検討を進めております。
また、真神氏の現在の所在地、今後の活動予定、保有する技能及び六甲山ダンジョン内部に関する情報については、本人の安全及びプライバシー保護の観点から公表いたしません。
真神氏本人への取材、面会その他の接触に関するお問い合わせについても、日本ハンター協会ではお答えいたしかねます。
関係各位におかれましては、本人及び関係者への過度な接触を控えていただきますようお願いいたします。
日本ハンター協会(JHA)
掲載から一分も経たず、アクセス数が跳ね上がった。
三分後には全文のスクリーンショットがSNSへ転載され、五分後には「真神幸一郎」「生存確認」「暫定EX」がトレンド上位へ並んだ。
反応は、当然ながら一つではなかった。
『生きてたあああああ!』
『8年だぞ。8年間六甲の中で生きてたってことだよな?』
『とりあえず無事だったのは本当に良かった』
『世界初クリアなんだからEXくらい当然だろ』
『Fランクで入って8年後EXになって帰ってくるとか漫画かよ』
『JHA、今回はちゃんと本人守ってくれ。マスコミに住所とか絶対漏らすなよ』
一方で、別の反応もすぐに増え始めた。
『いや待て、能力測定もしてないのにいきなりEX?』
『完全踏破=戦闘力最強とは限らなくね?』
『本人確認したって書いてるけど、どうやって確認したんだ』
『8年間ダンジョンで生活して健康状態に問題なしって時点で意味わからん』
『情報非公開多すぎ。攻略方法くらい公開するべきだろ』
『税金使ってる組織なんだから説明責任あるだろ』
そして、八年前の事件を知る者たちの間では、別の意味でざわめきが広がっていた。
『ていうか、本人は冤罪確定したこと知ってるの?』
『半年後に冤罪確定だから、知らないまま8年潜ってた可能性あるんだよな』
『帰ってきた瞬間、昔叩いてた連中全員胃が痛そう』
『家族とは会ったんかな』
『会う必要ある? 俺なら一生会わん』
『いや家族まで叩くのは違うだろ。当時の状況考えろよ』
『それ本人の前でも言える?』
さらに時間が経つにつれ、別の疑問が浮かび始めた。
『ところでさ』
『今日接触したんだよな?』
『そう書いてあるな』
『六甲の出口、一週間ずっとマスコミ張ってなかった?』
その投稿を境に、流れが変わった。
『……あ』
『確かに』
『帰ってきた映像なくね?』
『各局ずっと出口映してたよな』
『俺、地元の配信者のライブ見てたけど、それらしい奴出てきてないぞ』
『じゃあJHAはどこで接触したんだよ』
『別の出口ある?』
『それはそれで大ニュースだろ』
誰かが一週間分の報道映像を遡り始めた。
別の誰かが、現地から配信していた動画を確認する。
だが、どこを探しても真神幸一郎らしき人物は見つからなかった。
午後八時十分。
アクセス集中に耐えきれなくなったJHA公式サイトが落ちた。
それすら新たな話題になり、スクリーンショットだけがさらに拡散されていく。
八年間、生死すら分からなかった男は確かに生きていた。
世界初のダンジョン完全踏破者として帰還し、新たに作られたEXというランクを与えられた。
それなのに、世間が本人について知ることのできた情報は、ほとんど増えていなかった。
どこにいるのか。
八年間、何をしていたのか。
どうやって六甲山ダンジョンを踏破したのか。
どうやって、誰にも見つからず帰還したのか。
そして――これから何をするのか。
答えを知る本人は、その頃にはもう、ネットの騒ぎから遠く離れた場所にいた。




