8.村で家畜用の米の種籾を集めました
私達は馬車に乗ってラストヴィレッジに向かった。
馬車には交渉役に最適の執事のセバスと用心棒のお兄様と私専属の侍女のセイラと言い出しっぺにかかわらず付いていくだけの役回りになった私がいた。
付いていくだけなら必要ないのではとセイラには指摘されたけれど、私も絶対に役立つところはあるんだから!
セイラは最後まで「家畜と一緒のものを食べるのはどうか」とブツブツ言いながら一緒の馬車に乗ってきた。
館ではドラちゃんがお留守番だ。
取りあえず最果ての地のラストヴィレッジは全部で300戸くらいが生活しているとのことだった。
少し高台に小麦畑と米などの穀物畑と農耕用の牛と卵を得るための鶏とか後放し飼いの豚を飼っているそうだ。ドラちゃんによると昔は500戸ほど住んでいたそうだが、高温多湿で中々小麦も育たなくて出て行った家も結構あるとか。その村の下には大河のデルタ地帯になっていて広大な湿地帯が手つかずで放置されていた。私としてはここを開拓してお米を育てて広大な米作地帯にしたいのよ。
取りあえず、お兄様とセバスと相談して買えるだけの種籾を買うことにした。
私達を乗せた馬車が村の村長の家に近付くと、
「あっ、お姉ちゃん達が来たよ」
「本当だ」
「お姉ちゃん!」
子供達がまた集まってきた。
お兄様が馬車を降りて私を下ろしてくれた。
「お姉ちゃん、今日は何しに来たの?」
馬車を降り立った私に昨日の女の子が聞いてきた。
「そうだ。貴方のお名前はなんて言うの?」
私はこの子の名前も知らなかった。
「私の名前はメイよ!」
女の子が元気に答えてくれた。
「じゃあ、メイちゃん。今日は村長さんにご用があって来たんだけど、案内してくれるかな」
「えっ、おじいちゃんに? じゃあ、こっちよ」
メイは村長の孫だったみたいで、私の手を引くと他の子供達と一緒に私達を少し大きな掘っ立て小屋に案内してくれた。
「これはこれは領主様。いかがされました?」
村長はお兄様に向かって尋ねていた。
「いや、村長。この地の領主はアデラインだ。今は俺はその護衛騎士なんだ」
お兄様が変な事を言い出してくれたが、お兄様は一応ダンブリーズ公爵家の跡取りのはずだ。だからお兄様の方が偉いはずなのに!
最果ての地の領主なんてそれで爵位をもらった訳ではないし、領地はとてつもなく広いけれど、大半が湿地帯だし、下手したら男爵よりも下だと思う。
なのに、村長の向かいの席に私を座らせるとお兄様は護衛と称して私の後ろに立ってくれたんだけど……セバスもその横に立っているし……
「ああ、アデライン様がこの地の御領主様でしたな」
村長は思い出したみたいだ。
村長の奥さんとおぼしき人がコップに入れたビールを出してきた。
この世界では水はあまり飲めたものではないので、平民はビールやワインを飲むのだ。私は前世でもビールは飲んだことが無いけれど、この世界のビールはあまり飲めたものではないのは知っていた。お兄様が過保護で飲ましてもらったことは無かったが……まあ、私は貴族令嬢だったから紅茶がメインの飲み物だったし……
「いや、村長。アデラインは未成年だからアルコールは少し」
お兄様が断ってくれた。
「領主様は未成年ですか?」
村長は驚いたように私を見てきたが、この世界では平民も子供の時からアルコールを薄めて飲むのよ。だから未成年と言われても村長はピンとこないらしい。
「申し訳ありません。紅茶などと言う高級な茶葉はここにはありませんで」
村長は少し考えていたが、奥さんに何か言われて今度は謝りだした。
「あの別に飲み物はいりませんから」
私は断ったが、平民の子供もアルコールを飲むのは良くないだろう。
米栽培が落ち着いたら、井戸を掘るか何かして水を飲めるようにした方が良いのかもしれないと私は思いついた。
まあ飲料水の改良は米が落ち着いた後だ。
「アイン!」
お兄様が私を促した。
「あのう、村長。こちらで家畜の飼料に米を植えていらっしゃるって聞いたんですけど」
「確かに米を使っていますが、それがどうかされましたか?」
村長は心配そうに尋ねてきた。
その様子に貴族に無理難題を言われたら嫌だなという思惑が垣間見えた。
「村長。別に村長に無理言うつもりは無いのよ。ただ、もし宜しけれげばそのお米を分けて頂けたら嬉しいなって思って」
「家畜に与える米をおわけすれば宜しいのですか? やはり無料で?」
村長は青くなっていた。
「まさか、当然対価をお支払いいたしますわ」
私が首を振った。
「さようでございますか。それは有難うございます」
村長は少し安心したみたいだった。大分前にこの地にいた領主は村人に無理難題を言って困らせていたらしい。私は腰掛けの代官では無くてこの地に定住するつもりなので、現地の人とは仲良くなりたかった。ここで無理は言いたくない。
私がセバスを見ると、
「米の種籾を10キロで銀貨1枚で仕入れたいのですが」
「米の種籾10キロで銀貨1枚も頂けるので」
村長はとても喜んで私達を見た。
「でも、宜しいのですか? 種籾10キロで銅貨60枚ほどだと思うのですが」
村長がわざわざ正直に申し出てくれた。
「良いのです。その代わり出来たら量が欲しいのです。全て私達が買い占めたら家畜の飼料が無くなって困ってしまうかしら」
私が心配そうに尋ねると、
「いや、それは他の大麦やトウモロコシで代用できると思いますから大丈夫ですが、我が家では米はこれからの種籾も入れて600キロくらいありますが、全部引き取って頂けるのですか?」
「当然です。頂けるのでしたら。出来たらもっとあれば良いのですが」
「もっとですか? そんなに多くの家畜を飼われるので?」
村長が使い道を気にしてくれた。
「湿地帯で未耕作地が沢山あるでしょう。そこを開拓して米を育てたいのです」
「あの湿地帯を開拓されるのですか?」
村長は驚いて私を見た。
「あの地は水はけが悪いですし、川もよく氾濫を起こしますから、何人も挑戦して上手くいかずに、皆諦めているのですが……」
村長は言葉の外に止めた方が良いと言外に忠告してくれた。
「心配してもらって有難う」
私は村長にお礼を言った。
「でも、色々と計画していることがありますから、大丈夫です」
「まあ、力仕事ならいくらでもやるからな」
力仕事なら任せろと兄様が横から口添えしてくれた。
「さようでございますか」
「はい。それに村の人々にも協力頂けたら有り難いですし」
私がニコリとして笑うと、
「まあ、できる限りはお手伝いはいたしますが……」
村長は少し心配そうに私を見てきた。
強制的に無償で労働をさせられるのではないかと恐れているのだと思う。
「もしお手伝い頂ける時は、当然賃金もお支払いしますから」
私の横でセバスも大きく頷いてくれた。
「俺は無償で良いぞ」
お兄様が言いだしてくれたが、
「当たり前でしょ。私のお兄様なんだから」
私は余計な事を言うなとお兄様を睨み付けた。
「当然、村の人にはちゃんと賃金払いますから」
私が村長を見て微笑むと、
「そうですか。村で暇なものはあまりいないとは思いますが、できる限りのことはさせていただきます」
少し警戒しつつ、村長は頷いてくれた。
まあ、最悪は我が家のものにさせれば良いし、もうじき後発隊も到着するはずだ。
「だからあればあるだけ買い取ります。村の人達にも話して頂けますか」
「それは構いませんが、宜しいので?」
「大丈夫です。屋敷まで運んで頂ければ全て買い取ります」
「屋敷と言われますとあの化け物屋敷にお住みになられたのですか? 何も出ませんでしたか?」
村民の間では化け物が出ると有名だったらしい。
まあ実際にドラちゃんがいたけれど……今はお兄様の子分だし、問題はなかった。
「判りました。お金は現物と交換で屋敷で支払いますから」
「さようでございますな。屋敷の倉庫の前までお持ち頂けたら、そこで私が払います」
セバスが村長と支払い方法とか細部を詰めてくれた。
化け物屋敷には自棄に大きな倉庫があったのだ。
ドラちゃんが住む前の領主は100年前にいて、その時は100人以上があの屋敷では働いていたらしい。
もっとも度重なる洪水と食物も思った以上に取れずに、10年もせずに撤退したそうだ。
米の種籾は各村民が結構米を家畜の餌として育てているみたいで、その日は村長を皮切りに、付近の村民が大挙して種籾を運んでくれた。
取りあえず、種籾を集めるのは成功したのよ。








