7.最果ての地の最後の村にお米の種籾を買いに行くことにしました
その夜はそのままお開きとなって、私は眠い目を再び閉じたのだった。
お兄様が私を護ってくれると言ってくれたからそれを信じて寝たのだ。
まあ、お兄様は無敵だし、ドラキュラ言うにはこの屋敷にも周りにもドラキュラ以上の魔物はいないとのことだったので、私は安心して寝たのよ。
そして、朝になった。
何か暖かいものがある……
この暖かいものは……
はっとして、私は布団の中で目を覚ました。
そして、目の前には真っ赤な髪を持つお兄様の見目美しい顔があったのだ。
それも、私に抱きついているし……
「きゃーーーー!」
私は悲鳴を上げてお兄様の顔を引っ叩いたのよ!
「何をするんだ?」
お兄様はむっとして私を見てきたけれど、
「だって淑女の布団に勝手に潜り込んでいたし、更には私に抱きついていたじゃない!」
私が文句を言うと、
「いや、そもそもこの布団は俺の布団だぞ」
お兄様が教えてくれた。
「えっ、嘘?」
よく見ると本当にお兄様の布団のようだった。
どうやら、あの後、安全だからという理由でお兄様の布団で寝ることになったらしい。
私はその時はもう半分寝ていたからよく聞いていなかった。
「でも、何も私を抱きしめて寝ること無いでしょう」
私が一抹の抵抗して言うと、
「何を言っている。元々抱きついてきたのはお前だぞ! 『お兄様。助けて』って叫んで俺に抱きついてきたんだぞ」
「えっ、本当に?」
「それにお前の寝相が悪いから落ちないように抱いてやっていたんだろうが!」
「…………」
そう言われると私は何一つ言い返せなかった。
確かにいつもベッドから落ちているのは私だ。
昔はお兄様と一緒に布団に入ったら落ちないようにお兄様が通路側でいつも寝てくれた。
そのお兄様を乗り越えて落ちそうになっていたぞと寝相の悪い私はいつも注意されていたんだった。
「まあ、良いけどな……」
そう言うお兄様は少し不機嫌だった。
まずい!
お兄様が聖女の元に帰るなんて怒りだしたら私の生命の危機だ。お兄様がいるから聖女達は私に手が出せないのよ。怒ってお兄様が出ていったら、即座に王家の陰が私を拐いに来るはずだ。
「ごめんね。お兄様」
私は命がかかっているのだ。
私は必死に持てる全てをかけて満面の笑みを浮かべて謝った。
「アイン、何だその気色の悪い笑みは、気持ちが悪いから止めろ!」
私の渾身の笑みはお兄様に気持ちが悪いと言われてしまった! 何で!
何か横でセイラが必死に笑うのを耐えているし、何なのよ!
さすがの私もムッとしたが、ダメだダメだ。命がかかっているのよ!
ここは押さえて!
「アイン! 別に怒っていないから変な事はしなくて良い」
更にしなをかけてお兄様にすがろうとしたら、それすらも止められてしまったんだけど……まあ、怒っていないのなら良いけど……
「それよりも、アイン、今日はラストヴィレッジに行きたいとか言っていたが、何の目的で行くんだ?」
お兄様が話題を変えてくれた。良かった。お兄様は怒ってすぐに王都には帰るつもりはないらしい。
「あのね、東方の国にはお米という穀物があるらしいのよ。それが高温多湿のこの最果ての地の気候に合いそうなの。だからこの有り余っている土地を開墾してそこで育てたいんだけど、この辺りでも家畜の餌用に使っていないかなと聞きに行こうと思って」
ゲームではどうやったか判らなかったけれど、聖女が神からの授かり物でいきなり米を出していたけれど、そんなの私ができる訳ないし、村で家畜の餌に使っていたらそれを少し高値で買い取れば良いかなと私は思ったのよ。
「家畜の餌を我々が食べるのですか?」
セイラが嫌そうに私を見てきたけれど、
「セイラ、お米は料理方法によってはとても美味しく食べられるのよ。ご飯という物でお釜で炊くんだけど、それはそれは美味しいのよ……」
私はセイラを説得しようとした。何しろ私は前世は日本人だから前世の記憶が蘇ってからは是非とも米の飯を久々に食べたいと私のおなかが求めていたのよ。
「アデライン様のお話を聞いてもそんなに美味しそうに思えないんですけど……」
でも、何故かうまく伝わらなかった……
「米か、そう言えばここは高温多湿の地だったな」
でも代わりにお兄様が米の事をさも知っているような事を言い出してくれたんだけど……学園ででも習ったんだろうか?
でも、米は食用としてはこの世界の西欧側にはまだ広まっていないはずなのに……お兄様は何かの本で見たことがあるそうで、聖女のところで見たんだろうか?
聖女もこれからに向けて色々と準備していたんだろうか?
「そういう事はドラの助に尋ねれば良いんじゃないか?」
お兄様の一言に、私はお兄様にドラちゃんに聞いてもらうことにした。
ドラの助、ドラちゃん、ドラキュラに対するお兄様と私の呼び方だ。
名前なんて判れば良いのよ。
「主の想い人様」
話を聞いたドラちゃんは私の方を向いて、私の事を変な呼び名で読んでくれるんだけど……
「ドラちゃん。私はアデラインというちゃんとした名前があるんだからそちらで呼んでよ」
「そうか? 別にそのままでも良いと思うが……」
お兄様が何故か残念そうに言うんだけど、何でよ?
「ドラちゃん?!」
私からそう呼ばれてドラちゃんは少し絶句していたみたいだが……
「承知いたしました、アデライン様」
ドラちゃんはすぐに呼び方を直してくれた。
「ラストヴィレッジでは、家畜の餌に米を育てていると思います」
ドラちゃんによるとこの村では豚や鶏や牛などの家畜を結構飼っているみたいで、その餌を作るために米を直撒きしているらしい。
でも、米を沢山収穫するには直撒きよりも稲で植えた植えた方が収穫量は多いはずだ。
水が無いのならばいざ知らず、ここには大河も流れているし、水は有り余っている。
「餌は別に米で無くても良いはずだし、出来たら家畜用の米を全て買い取りたいのよね」
「買い取りか? でもそれだけの金がすぐにあるのか?」
お兄様の言葉に私は少し青くなった。
そう言えば、追放されたというか気絶していたので王都の屋敷からは殆どお金を持ち出せなかった。
「アデライン様、どれほどご入り用なのですか?」
ショックを受けた私に執事のセバスが尋ねてくれた。
「それは多いほど良いのよね。お米は売っているのはおそらく一俵だから60キロで金貨一枚もしないと思うんだけど……」
「アデライン様、おそらく家畜の餌なので10キロで銀貨一枚もしないかと」
金貨一枚に銀貨50枚、銀貨1枚が銅貨100枚と交換できる。銀貨1枚で千円くらいだ。
「えっそんなに安いの?」
「それでも高いくらいかと」
さすが我が家の執事、こういうことにも長けているんだ! 私は感心した。
「金貨は千枚は持ち出しましたから、取り敢えずは問題ないかと」
「さすが、セバス、凄いわ」
私がセバスを褒めると、
「俺もお前が婚約破棄された件でエドワードから慰謝料として金貨千枚は踏んだ食ったからな」
お兄様も何故かセバスに対抗して言ってくれるんだけど、
「オーガスト様、お言葉ですがあの場なら金貨1万枚は分捕れたかと」
「えっ、そんなに?」
セバスの指摘に私は驚いた。
金貨1万枚あれば1万人が一年間最低限の生活が出きるはずだ。
「一万枚もか?」
お兄様も驚いた。
「当たり前でございます。そもそもこの婚約は前陛下からの肝いりで結ばれた物でございます。それを聖女様とはいえ、王太子殿下は婚約している時からアデライン様を蔑ろにしていました。挙げ句の果てには我が家のお嬢様のアデライン様を足蹴にするなど、公爵家に戦争をふっかけたと言っても過言でございますまい。金貨1万枚でも少ない位です。それがしなら金貨10万枚は分捕れたかと」
「以降、交渉事はセバスに任せよう」
お兄様の言葉に私も頷いた。
こういうことは適材適所だ。
戦闘は特化したお兄様が当たり、交渉事はそれに慣れたセバスが当たる。
私はその結果を粛々と受けるだけよ……私に存在異議がないように思えるんだけど……
「お嬢様はただそこにおられるだけで、周りは和みます」
セバスが言いだしてお兄様とセイラが大きく頷いてくれたけれど、それって単なる道化じゃ無い!
私も土魔術が使えるから今回はみているだけでなくて私も役に立つんだから!
私がそう言うと
「はいはい、さようでございますな」
「皆の邪魔をするんじゃ無いぞ」
セバスとお兄様の生暖かい視線が帰ってきたんだけど……
国内最強の騎士のお兄様の護衛と交渉事のプロのセバスとこの世界のゲームをして知識だけはあるアデラインの三人が村長との交渉に臨みます。
お楽しみに!








