ドラちゃんが何故か皇太子殿下に代って私を守ってくれました
私は短剣を村長に突き刺されたんだけど痛くなかった。
私と村長の間にドラちゃんが入ってくれたのだ。
「グウォーーーー!」
私の代わりにドラちゃんが悲鳴をあげてくれた。
お腹からどす黒い血が流れ出ているんだけど……
「えっ、ドラちゃん、大丈夫!」
私は慌ててドラちゃんを抱えようとして、失敗した。
私なんかで抱き上げられるほどドラちゃんは軽くなかった。
「きゃっ!」
そのままドラちゃんを前に抱えて、私は下敷きになって倒されていた。
私は起き上がろうともがいたが、ドラちゃんが重くて動かなかった。
「ドラクエ伯爵、久しぶりですね」
そのドラちゃんに村長が笑いかけてくれたんだけど……
「ジル、貴様、俺を狙ったのか?」
苦しそうな息をしてドラちゃんが尋ねていた。
どうやらドラちゃんと村長は知り合いらしい。
「王家の陰の多くが吸血鬼になってしまったと聞きましたからね。その犯人は貴方しかいないと思ったのです。アデライン様の味方に貴方がなったのならば、アデライン様をこの地に置いてオーガスト様が遠征に出られた理由もわかるのです。オーガスト様はアデライン様を溺愛していらっしゃいますから。ドラクエ伯爵が守っているから安心して出られたのですよね!」
村長が笑って答えていた。
「ドラクエ伯爵。さすがに銀の杭は堪えましたか? ドラキュラには銀の武器と杭だと思ったので、遠慮なくさせていただきました」
村長が淡々と説明してくれた。
「貴様、俺を裏切るのか?」
「裏切るとは人聞きの悪い。いつ私と貴方が手を組む話をしました?」
ドラちゃんの声に村長は肩をすくめた。
「前王朝の末裔である貴様とは共存共栄だと思っていたが……」
「前王朝の末裔?」
私は思わず声を出していた。
グレナン王国の前というとサウス王国という国がこの地を中心に栄えていたと歴史で習った記憶があった。グレナン伯爵が前王朝の失政で飢饉が起こったので、立ち上って、そのサウス王国を倒したと聞いていた。
どうやら村長はその末裔であるらしい。
「まあまあ、ドラクエ伯爵は余計な事を話してくれるのですな。それをきいたということはアデライン様のお命をもらわないといけないのですよ」
村長が淡々と話してくれるんだけど……村長は前王朝の末裔で、なおかつ王家の陰も兼ねているという事なの?
「な、何の話なの? 私は何も聞いていないわよ」
私は必死に誤魔化そうとした。
「アデライン様。そのように知らん顔をされても困ります」
「本当に!」
「何も聞こえていないから」
ドラちゃんと村長の言葉に私は必死に反論した。
生き残ってなんぼだ。
私はできる限り時間を稼ぐことにした。
私の危機には、絶対にお兄様が駆けつけてくれるはずだ。
どれだけ話を引き延ばせるかが勝負だと私は思った。
「アデライン様。オーガスト様を待っておらられるのなら無駄ですぞ。この塔は我が祖先が昔建てた塔で、障壁が張られて転移は出来ない造になっています」
「えっ!」
村長の説明に私は固まってしまった。
ドンドンドンドン
下の階で扉を叩く音がする。
「アデライン様! 大丈夫ですか?」
セイラ達が何か怪しいと動き出したんだと思う。
でも、下の扉から奥には入れないみたいだ。
「私が扉を閉めたのです。魔術で攻撃しようが何をしようがびくともしないのですよ」
村長が笑ってくれた。
じゃあお兄様が転移してきても中に入れない?
やばい!
私は焦りだした。
「前王朝の末裔の貴方が何故王家の陰をしているの? 本来王家は憎しみの対象ではないの?」
私が思わず尋ねると
「前王朝の末裔とはいえもう遙か昔のことです。民も前王朝の事はほとんど覚えてはいますまい」
村長が否定してくれた。
「私は元々皇太子殿下に仕えていたのです」
「国王陛下のこと?」
「違います。現国王陛下のお兄様です」
村長は否定してくれた。
「皇太子殿下と現国王陛下は王位を争っていらっしゃったのです。私は皇太子殿下の陰を務めておりました。そんな時に現陛下の側近のキップフォードが私を訪ねてきたのです。現陛下に味方しなければお前の出自をバラすぞと。当時はまだ前王朝の王族は見つけ次第処刑せよという昔の法律が残っていたのです。皇太子殿下にその事がばれたら私は殺されます。私だけならまだしも、妻や子供達が殺される訳には行かなかったのです」
「それでお前は皇太子殿下を裏切ったのか?」
ドラちゃんが村長を睨んでくれた。
「やむを得なかったのだ。宰相は残っていたその下らない法律を廃案にしてくれた」
「ジル、何故その事を皇太子に話さなかった」
「話して許されなかったら処刑だ。そんなギャンブルは出来なかった」
村長は首を振った。
「何故だ! ジル。それだけ俺が信じられなかったのか?」
ドラちゃんの口調ががらりと変わった。
「こ、皇太子殿下!」
村長が目を見開いてドラちゃんを見た。
ドラちゃんの髪がいつの間にか真っ黒になっていた。
「何故ドラクエ伯爵が殿下に!」
そう呟いた村長は後ずさりした。
「ジル。俺は貴様を信頼していたのだ。その貴様に裏切られたのはショックだったぞ」
そう言いながらゆっくりとドラちゃん、いや、皇太子殿下が立ち上ったんだけど……
「貴様は一度裏切りながら、また主を裏切るのか?」
ゆっくりと銀の杭を胸に突き刺して黒い血を流しながら黒髪の男が村長に向かって歩き出す。
「私の主は国王陛下だ」
村長が必死に言い訳したが
「しかし、直属の主は領主だろうが……それも私の血を引く、我が娘アデラインだ」
「えっ?」
私はドラちゃんが、いや前皇太子殿下が何を言っているかよく判らなかった。
我が娘って私は皇太子殿下の娘だってこと?
「いや、私は皇太子殿下を裏切った時から国王陛下の部下なのです。それは今も同じです」
「ほおおおお、それでまた我が娘を殺すというのか?」
おそらく皇太子殿下はニタリと笑ってくれたんだと思う。
何故笑ったかは判らないけれど……
「娘を殺させる訳にいはかない」
また一歩皇太子殿下は前に進んだ。
「ウォーーーーー!」
いきなり村長が叫んで皇太子殿下に剣を突き刺していた。
もう一本の銀の杭だ。
それが皇太子殿下のお腹に突き刺されていた。
黒い血がまた大量に流れる。
村長ははあはあ言っていた。
私はなんとか座り込んだが、それ以上は動けなかった。
「ジル、アデラインだけは殺させん!」
皇太子殿下は気力で立っているみたいだった。
「そのような体で何が出来るのです?」
村長が叫んでいた。
「ふん。こういうことだ!」
そう叫ぶと皇太子殿下が大きく光った。
ドカーーーーン!
皇太子殿下を中心にして凄まじい爆発が起こった。
爆風が村長を吹き飛ばしてくれたのだった。








