村長に塔の上で短剣で突き刺されました
「昔はこの村にも人がもっといました。最近でこそ、アデライン様やオーガスト様のお陰で人が増えてきましたが、本当に最近は寂れていたのです」
村長が昔をなつかしがっていた。
「この村も今では結構使われていない家屋も多いのです」
そう言うと村長はとある白い建物の前に私を連れてきた。
その建物は村の外れにあった。
その建物は石造でこの村にしては立派なたたずまいだった。
「この建物は昔は尊き方がお住まいでした」
村長は遠くを見てくれた。
昔を思い出しているようだ。
「アデライン様失礼しました。実はこの建物はこう見えて白い塔になっておりまして、白い塔が隠れているのです」
「えっ、そうなのですか?」
どう見ても普通の古い白い建物だ。
この上に塔があるなんて信じられなかった。
「人をあげてはいけないと言われているのですが、アデライン様はこの領地の御領主様でいらっしゃいます。もしアデライン様さえ良ければこの塔の上から景色をご覧頂けますが」
私は高いところが好きだ。
領地でも館の天井裏が一番景色が良かったので、お兄様に無理言ってよく連れて行ってもらっていた。
「判りました。よろしくお願いします」
私は速攻頷いたのよ。
村長が古い扉の鍵穴に手に持っていた鍵を差し込んだ。
カチャリと音がして、ゆっくり重い扉を開けてくれた。
「では参りましょう」
村長は先頭でゆっくりと中に入った。
私が後に続く。
中はかび臭い匂いがした。
あまり人の気配がしない。
何年も誰も入っていない時の匂いだ。
今の屋敷も最初に入った時に似たような匂いがした。
少し懐かしかった。
光は魔力灯のようなものが天井にあって輝いていて、暗くはなかった。
そして、私達がその建物の真ん中の柱の所に行く。まん丸のこの建物にしたら大きな柱が廊下の突き当たりにあった。
村長がその壁の一角を探ると鍵穴が現れた。
その鍵穴に鍵を入れて回すと、ゆっくりと柱の一部が開いたのだ。
「凄い」
私は思わず声を出してしまった。
「懐かしいですな」
私の反応に村長が笑みを浮かべてくれた。
「あの方も同じ反応でした」
昔を思い出すように村長が呟くと扉の奥を見た。
中は少し薄暗いがらせん状の階段が上に続いていた。
上からは日の光が差しているようだった。
「では参りましょう」
村長が歩き出してくれた。
ゆっくりと石の階段を登り出す。
私も慌てて続いた。
中々きつい階段だった。
登っても登っても上につかない。
こんな高い塔だとは外から見ていても気づかなかった。
と言うか外からは平屋の建物に見えたのだ。
隠蔽の魔術にでも遮蔽されていたのだろう。
この塔自体が古代文明か何かの遺跡かもしれない。
そう思えるほど階段が長かった。
その階段を村長は年寄りのくせに平然と登っていくのよ。
「村長、待ってください」
ふうふう言いながら私が後ろから頼むと、
「これは失礼いたしました。御領主様は深窓のご令嬢でしたな」
村長が嫌みを言って揶揄ってくれるんだけど……
「……」
年いった村長が平然と登っているのに年若い私が簡単にバテているようでは駄目だ。
ふうふう私が息をしていると
「始め登る時はあの方もそんな感じでしたよ」
村長はそう言うと笑ってくれた。
「あの方ってどなたなんですか?」
私は思わずきいていた。
「申し訳ありません。その方の事は御領主様と言えども話す訳にはいかないのです」
村長が首を振ってくれた。
「そんな方の事を何故話すのかって顔をなさっていますな」
村長はそう言うと笑ってくれた。
「申し訳ありません。その方はアデライン様と同じ濃い黒い髪でしたので、つい思い出してしまいました」
村長は私に謝ってくれた。
「あと少しです」
「判りました。頑張ります」
私は村長の声に必死に返事していた。
私もダンブリーズ公爵家の娘だ。これくらいの階段で根をあげているようでは駄目だ。
私は村長について必死に階段を登った。
「やっと着いた」
私は最後の階段を登り切るとため息をついた。
「ご覧下さい、ご利用主様」
村長の声に私が顔を上げると、そこはガラス張りの景色が本当に360度広がっていたのだ。
「うわーーーー」
私は馬鹿みたいに口を開けてしまった。
そこからは村は元より、最果ての地を端から端まで眺められた。
遠くに聳え立つ白い雪を抱いたサウス山脈から、近くでは村の家々や畑が一面に広がっていて、その向こうは私達が灌漑した田んぼが一面に広がっていた。更には先は海が見えて海の水平線も遙か彼方に見えたのだ。
こうしてみるといかに最果ての地が広い領地だという事がよく判った。
私は窓にへばりつくようにして景色を眺めた。
完全に油断していた。
「あっ、お屋敷も見える。こうしてみるととても小さく見えるんだけど……」
私達の住んでいる大きな屋敷もこの塔の上から見ると本当に米粒みたいに小さく見えていた。
「ご領主様!」
「何ですか?」
私はそう呼ばれて振り返った時だ。
ブスリと何かが肉に突き刺さる音がした。
「えっ?」
下を見ると村長の手には短剣の柄が握られているのが見えたのだった。
絶体絶命のアイン 続きは今夜です。
今週中に完結予定です。
お楽しみに!








