国王視点 愚かな息子のために最後の力を振り絞ることにしました
俺は病気の傍ら政務も行っていた。
原因不明の病だからと言っても、まだ学生のエドワードに全てを任せるには無理だ。
いくら宰相のキップフォードがしっかりしていても難しいだろう。
そんな中だ。
聖女の力が少女に発現したと報告があった。
その聖女は直ちに教会が保護したという。
「いやあ、陛下。聖女様のお名前はメリンダ・エグモントというのです。聖女様は歴代の聖女様の中でもとても珍しいピンクの髪をしていらっしゃって、とても可愛いお方ですぞ」
教会の大司祭が喜び勇んでやってきて聖女の自慢をしてくれた。
俺はそれを聞いて少し嫌な予感がした。
息子と聖女は同い年だという。
息子のエドワードが好きそうな出で立ちだった。
案の定、息子は聖女に夢中になった。
「ダンブリーズ公爵令嬢をないがしろにするんじゃないぞ」
俺は何度も注意した。
俺はダンブリーズ公爵家の離反を気にしたのだ。
息子は最初は頷いていたが、
「オーガストも、アデラインの聖女様に対する行動は我慢ならないといっているのです。アデラインを婚約破棄しても良いですよね?」
俺はエドワードがそう言ってきた時には瞠目した。
俺はアデラインを溺愛するオーガストの動向をとても気にしていたのに、この息子ときたら何も考えていないのではないかと。
そんな事がありうる訳はないだろうか?
あの誰も相手にならないだろうと恐れられた暗黒竜にすら、オーガストはアデラインの危機を感じるや、はるか離れていた所にいたにもかかわらず、習いたての転移で移動して叩き潰したオーガストだ。
アデラインに対する溺愛ぶりは本物だった。
だが、陰に調べさせると確かに最近はオーガストもアデラインと距離を置いていて、エドワードの言う通り聖女にべったりだった。
教会に確認すると聖女の力でオーガストですら聖女の虜になっているとのことだった。
何人もの男が聖女の虜になっているがあれで良いのか?
俺が実際にオーガストが聖女に魅了されている様を見て、仕方なしにエドワードの案を了承したのだ。
それが間違いだった。
ボケ息子がやらなくていいのに、オーガストの目の前でアデラインの顔を蹴り飛ばして血まみれにしてくれたのだ。
何故そんな愚かなことをする!
そんなのはオーガストが見ていないところでやれ!
俺は息子を殴り飛ばしたかった。
その瞬間オーガストにかかっていた聖女の魅了が解けて、オーガストはアデラインの元に帰ったそうだ。
俺はそれを聞いて気絶しそうになった。
息子はアデラインを始末するとかほざいていたが、絶対に無理だ。
案の定、王家が送った陰は尽くオーガストの返り討ちに遭った。
教会が手札の水竜を派遣したが、二度とも返り討ちに遭ったそうだ。
俺はその頃、体が更に悪化していた。
ダンブリーズの離反が体に響いたんだと思う。
古代竜ですら叩き潰すオーガストの前に勝てるものなどいなかった。
その上更に長雨がたたって凶作になってしまった。
聖女は長雨による凶作を予言していたが、雨不足が続いていたので、聖女に雨ごいさせたらそれからバケツがひっくり返ったように雨が降り出して止らなくなったそうだ。
本当に周りは馬鹿しかいないのか?
王都周辺は大雨で洪水が起こり、甚大な被害を受けた。
穀物も長雨と疾病が蔓延して半分採れたら良い方だった。
そんな時に息子のエドワードが何をトチ狂ったのかオーガストとアデラインの討伐令を出したのだ。
この飢饉で軍を動かす余裕などどこにあるのだ?
案の定、ほとんど兵達は集まって来なかった。
更にはダンブリーズに食料があると知るやそちらに走る始末だ。
エドワードも呆然としているという。
「陛下。ここは陛下が出られませんと収まりません」
キップフォードが言い出した。
「今更出てどうしろというのだ?」
俺は切れた。
もう体も言うことをきかない。
兄の呪いかヨーク公爵の呪いか、嫌これはダンブリーズ公爵の呪いだろう。
もう引導を兄とダンブリーズ公爵の遺児に渡すしかないのか?
「陛下。最果ての地のジルに頼みましょう」
キップフォードが言い出した。
そうだった。最果ての地にはまだ王家の陰を引退したジルがいた。
「しかし、奴は引退してから10年以上経つぞ」
俺はキップフォードを見た。
かつて兄に仕えていた男だが、キップフォードによって兄を裏切って俺についた男だ。
今では最果ての地で村長をしていると聞いていた。
「私が独自に調べましたところではアデラインとも親しくしているそうでございます」
「果たしてジルは俺に付いてくれるのか?」
「私との誓約はまだ続いています」
淡々とキップフォードは何でもないように言ってくれた。
キップフォードとその男ジルの間に何があったか知らないが、未だに細ほぞと交流はあるらしい。
「判った。ではキップフォード頼んだぞ」
「かしこまりました」
俺の前にキップフォードは跪いてくれた。
この危機に対処出来なかったエドワード達に、この後国を任せて良いのかと俺は一抹の不安を感じたが、出来ないエドワードは俺の息子だ。
出来ないほど可愛いと言うが、施政者が無能では残された国民が苦しむ。
しかし、情は残っていた。
この失敗を糧として、成長してくれれば良い。
父として出来ることをやってやるまでだ。
俺は残った侍女達に命じて着替えさせた。
この混乱を正すために。最後の力を振り絞って執務室に向かったのだ。
最後の奥の手の発動です。
アデラインの運命や如何に?
お楽しみに!








