国王視点 兄の遺児と息子を婚約させて邪魔な公爵家を葬りさる事にしました
「兄上!」
「どうした?」
俺は振り返った兄のアーサーに抜いた短剣を思いっきり突き刺していた。
ズブリ!
嫌な感触がてから伝わった。
「ぐっ!」
兄はまさか俺に剣で刺されるなんて思ってもいなかったんだろう。
胸に剣を突き刺されたまま、目を限界まで見開いて俺を見てくれた。
「ウィリアム!」
俺を見る兄の顔が驚きにゆがめられていた。
そして、俺の肩を握ってくれた。
兄の目は怒り狂っていた。
いや、俺が気付かなかっただけで、嘆き悲しんでいたのかもしれない。
実の弟に剣で刺されたのだ。
本来は俺は止めを刺さないといけないのだが、兄に止めを刺すなんて出来なかった。
俺は思いっきり兄を突き飛ばすと同時に、はっと目が覚めた。
「はあ、はあ!」
息が荒い。
「大丈夫ですか? うなされておいででしたが」
どんな時でも冷静沈着な宰相のキップフォードが俺に話しかけてきた。
「ああ、また兄の夢だ」
俺はそう言うと首を振った。
「殿下の呪縛は解けませんか?」
「ああ、全くだな」
宰相の言葉に俺は皮肉な笑みを浮かべるしかなかった。
あの後は、俺の側近だったキップフォード、今目の前にいる宰相が全てを取り仕切ってくれた。
捏造した兄の反逆の証拠を取り出して、皆の者に示し、兄の側近達は側に控えていた我らの騎士が無力化してくれた。俺の妻は当時の最大勢力を誇っていたヨーク公爵家の出だったから、貴族達の制圧も容易かった。
兄に忠実だったダンブリーズ公爵は丁度ノルディン族が暴れていたので王都から遠征で出ており、何一つ出来なかった。
帰ってきた公爵は不満な顔をしていたが、俺に逆らうことの不利を思い、忠誠を誓ってくれた。反乱さえ起こしてくれなければ、それで良かった。何しろダンブリーズ騎士団はおそらくこの世界最強だ。王家の剣となり周辺諸国に睨みをつけてくれるだけで、良かったのだ。
兄は生き残って、最果ての地に幽閉した。
しかし、ほどなく死んだと聞いていた。
おそらくキップフォードかヨーク公爵が手を下したのであろう。
俺は我が家の春を謳歌した。
今までは、優秀な兄に比べて全てに劣るだとか、兄のスペアの癖にスペアの役目も果たせそうにないとか散々言われていたのだから。
病におかされていた父は兄の失脚を聞いて、病が篤くなり亡くなった。
俺から見るとヨーク公爵かキップフォードが何か盛ったとしか思えなかったが……
宮廷には莫大な権力を握ったヨーク公爵とその一派が闊歩していた。
俺をたまに呼び出しては、俺の権力を使って、貴族達に示威していた。
妻も俺が国王になれたのは自分のお陰だと後宮でも威張っていた。
俺はそれが儘ならなかった。
その当時俺は女官の一人を気に入っていた。出来たら側室にしたかったが、そのような事を公爵が認めるわけはなかった。
俺は、細心の注意を払って、その女官と逢瀬を楽しんだ。
でも、それはいつしか王妃の耳に入ったようだ。
その女官が城の側の川に浮いていたのだ。
女官は素っ裸に剥かれて、暴行の跡も顕だった。
俺は悲しみと怒りにうちひしがれた。女官の腹の中には新たな生命があったとキップフォードが淡々と報告してくれた。
「キップフォード、俺は何の力もない王だな。自分が愛した女も守れない」
俺はポツリと呟いた。
「お悔しいですか?」
淡々とキップフォードが、尋ねてきた。
俺は頷いた。
「公爵を倒しますか?」
「今公爵を倒して、この政権を続けられるのか?」
「ダンブリーズ公爵家と組めば問題は無かろうかと」
「ダンブリーズが俺と組むか?」
俺には信じられなかった。
「ダンブリーズ公爵がどこからか、養女を連れて来て養子にしたと聞いております。その養女と第一王子殿下の婚約を結べば、公爵はこちらに靡きましょう」
キップフォードは俺さえ知らない情報を掴んでいた。
「その養女は幾つなのだ?」
「年は三歳くらいかと。黒髪のきれいな女の子と聞いております」
「黒髪だと!」
俺はその言葉で兄の事を思い出した。兄は黒髪の貴公子として若い女達に有名だった。
「おい、その子は兄の子なのか?」
「確約は出来ませんがおそらくは」
キップフォードは淡々とその子の特徴を話してくれた。
俺は直ちに王家の陰に命じてその子の事を調べた。どうやら本当に兄の子供らしかった。
俺は年始の王宮の集いに久しぶりに出てきたダンブリーズ公爵と話をした。
最初は取りつく島もない様子だったのが、公爵の養子と我が息子の婚約の話をしたら、途端に態度が変わった。
「ダンブリーズ公爵。俺もヨーク公爵に担がれて仕方なく兄に逆らったのだ。兄の娘にまで手をかけようとは思わん。それよりも俺と兄の子供の子孫がこの国の王家を継げば兄も少しは許してくれるのではないか?」
俺の言葉に公爵は黙っていた。
「俺の愛妾ですら惨殺するヨーク公爵だ。兄の子供が生きていたと知ればどうなるだろうな」
公爵は剣の柄に手をかけて俺を睨み付けていたが、
「その婚約の話しは事実ですか?」
「約束する。ヨーク公爵を無き者にすれば必ず、我が息子と婚約させる。対外的には筆頭公爵家と我が息子の婚約がなされるのだ。これ程めでたいことは無かろう」
俺はそう言って笑うと、少し考えさせてくれと言った公爵を見送った。








