使者はお兄様の剣幕の前に話すことすら出来ませんでした
お貴族様の私の朝は優雅なモーニングティーの一杯から始まる領主生活のはずだった。
食卓には白いパンが置かれてコーンスープの良い匂いがして……
そんな生活も良いとは思ったけれど、たまにはご飯とお味噌汁が食べたいと思った私も罰は当たらないと思う。
そんな私は目の前に出て来たものを見て唖然とした。
お茶碗に入った白いご飯。
これは判る。
お米を収穫しているからね。
でも、その横に出て来た茶色い液体は……この色は……香ばしい香りがして
「嘘! お味噌汁だ」
私は歓喜の声を上げた。
「そうだ。バーモント商会が東洋とつながりある商会を知っているというのでダメ元で取り寄せたんだ」
お兄様が自慢そうに言ってくれるんだけど……何で私がお味噌汁を食べたいって思っていたと判ったんだろう?
「ご飯にはやはり味噌汁だな」
平然とお兄様が言っているんだけど……
普通西洋人はそんなことを知らないはずだ!
お米の作り方もよく知っていたし、絶対におかしいんだけど……
何で知っているのって聞いても本で調べたとのことだったし……味噌汁なんて書かれている本なんか学園にあったんだろうか?
絶対に変だ!
まあ、でも、今はそれどころではない。
久々のおみおつけだ。
私はわくわくして味噌汁を口に含んだ。
「美味しい」
口の中にお母さんの味が広がる。
でも、お母さんは共働きだったからお兄ちゃんがよく味噌汁作ってくれていた。
これはその味だ。
「お兄ちゃんの味だ」
そう呟いてゆっくりと味噌汁を飲む私を、熱い視線でお兄様が見ているのに私は気付かなかった。
私がお味噌汁を堪能している時だ。
いきなり、お兄様の横にドラちゃんが現れたんだけど……
「どうした、ドラの助?」
「実は……」
ドラちゃんの声が小さくてよく聞こえなかった。
「何だと、王都から農務省の役人が来たというのか?」
「はい」
農務省の役人なんか何しに来たんだろう?
うーん、小麦の徴税だろうか?
村長のところにでも来たのかなと思っていたのだ。
「誰宛に来たんだ?」
「御領主様にお会いしたいとのことです」
「アインにか」
ドラちゃんの言葉にお兄様の目つきが険しくなる。
そのまま私を見るのは止めてほしいんだけど……
「えっ、私の所?」
すっかり自分が領主だと忘れていた。
だってお兄様とセバス達がほとんど決めてしまって私は頷くだけなんだもの……
領主だなんて忘れてしまうわよ……
そう愚痴ったらセイラに呆れ果てられたんだけど……
謁見の間なんて無かったから急遽部屋一間を改造したそうだ。
別に応接でいいと思うんだけど、お兄様が良くないと一言で却下してくれたんだけど……
そして、その日の午後だ。
部屋は使われていなかった大きな部屋の家具を取っ払ったらしい。
お兄様の先導で中に入ると部屋に入ると官吏らしい男が真ん中に立っていた。
右足をトントンついてなんか貧乏揺すりしている。
立ったままでも貧乏揺すり出来るんだと私は下らないことで感心した。
私達はその奥にある領主の椅子……いや、普通の椅子だに向かって歩いた。
私が椅子に座ると、
「高々、最果ての領主に過ぎないのにもったいぶっているのだな」
官吏が呟いていた。
お兄様が鋭い視線を向けると、
「私はエドワード殿下の命令でここに来ている勅使だ。普通は勅使が上座では無いのか」
男がわーわー喚きだした。
「男爵風情が大きな顔をするな!」
私の横でお兄様が一喝した。
その声の大きさに男はビクッとした。
「あ、赤い悪魔!」
男は驚きのありまり声に出してしまったみたいだ。
赤髪のお兄様はそのように言われているんだ?
私がお兄様を見るとお兄様は今にも爆発しそうだ。
やばい、屋敷が壊れる。
慌てて私はお兄様の腕を掴んでしいた。
「ほおおおお、殿下は我がダンブリーズ公爵家のアデライン様に狼藉を働いたと聞いております。やっと謝罪されるおつもりに成られたのですかな」
セバスが横から言いだしてくれたんだけど……
我が公爵家の面々は王家には思うところがあるみたいで、皆鋭い視線で使者を見ていた。
そう、私は今はこの辺鄙な最果ての地の領主だが、元々はこの国最強の武のダンブリーズ公爵家の姫なのだ。そんじょそこらの貴族令嬢では無い。
それにそもそもここには世界最強騎士のお兄様もいるし、我が国の主力のダンブリーズ騎士団もいるのだ。
この使者は辺境の地の一領主に挨拶するのとは訳が違うのを今まで判っていなかったらしい。
唖然として立っているんだけど……
そもそも、絶対王政のフランスのルイ14世の時代ならいざ知らず、ヨーロツパの王権で国王の力が強かったのは絶対王政の時だけだ。
他の時代はそこまで強くはない。
国王と言えども領主の親玉みたいな感じだ。
普通はその国最強の公爵家の令嬢の私を軽々しく婚約破棄なんかしたら反乱を起こされても仕方が無いのだ。
あの時はお兄様自体が王家についていたから無理も押し通せたけれど、お兄様がこちらにいる時には余程注意して来ないと無理なのだ。
「いや、その時の事は金貨1万枚の慰謝料でおわっているかと」
男は言い訳しようとした。
「愚か者! そのようなはした金でアデラインを傷つけた賠償には成らんわ!」
「ヒィィィィ」
お兄様の一喝に男はそこに腰を抜かしてしまった。
「あの金は手付金だ。エドワードにはそのように伝えろ」
「し、しかし、」
「話がしたければもっと上役を連れてこい。話はそれからだ!」
お兄様はぎろりと使者を睨み付けるんだけど……
「何をいつまでもぼやぼやしている。燃やしてほしいのか」
「ヒィィィィ、ご勘弁を」
お兄様が火の玉を手にこしらえたのを見て、男は慌てて逃げ出しのだった。
徴税の件は話し出すことも出来ませんでした……








