とある男爵視線 最果ての地の小娘に米を供出させるために出発しました
「ゴダード、殿下がお呼びだ」
「エドワード殿下がですか?」
俺は上司の言葉に驚いた。
儂はこのグレナン王国が建国当時から王家に仕えるゴダード男爵家の当主だ。
男爵家当主と言えども領地がある訳ではない。
我が国の男爵家の多くは爵位だけで国からある一定の金額が毎年付与されるだけの領地無し男爵だ。
まあ、その金だけで生活していくのはこの不景気の中では中々難しいので、領地無し男爵の多くは王宮に勤めるか、騎士団に入って、そこからも給与を得ていた。
その職制上宮中貴族ないし、貴族騎士と呼ばれていた。
その中でも我が家は王宮に勤めることが多かった。
俺は今は農務省に勤めていた。
農務省は農民から税を取り立てるのが大きな仕事だ。
我が王国を土台から支えるとても大切な部署だった。
王宮の部署の多くは我々宮中貴族か学園を優秀な成績で卒業した平民で構成されていた。
それは農務省も同じだ。
まあ、その中でも大体役職を得るのは我々宮中貴族が多かったが……
しかしそんな俺でも王子殿下と直接お話しすることなんてほとんど無かった。
殿下と直接話せるのは大臣の農務卿を務める侯爵閣下くらいだ。
そんな中、俺に殿下が何の用なんだろう?
別に横領や職権乱用などはしてはいないはずだ。
部下が何か不手際をしたのか?
いやそんな報告は受けていないが……
俺は不安を抱えて御前に伺った。
「貴様がゴタード男爵か?」
エドワード王子が執務机から顔も上げずに声だけかけてくれた。
「農務卿が貴様を推薦してくれたのだ」
その横には宰相閣下のご子息のビリー・キップフォード伯爵令息が口添えしてくれた。
農務卿が俺様を推薦してくれただと……あの老人なかなかやってくれるではないか、俺は嬉しくなった。
「その方は今年作物が凶作なのは知っているな」
殿下が手を止めて俺を初めて見てくれた。
殿下の目は血走っていた。
仕事が結構大変みたいだった。
「はい」
税金を取り立てているのは我が部署だ。
取れ高の5割を集めるのに今農務省は四苦八苦していたし、取れ高が極端に少ないのだ。
下手したら昨年の3割という所もあった。
現地に行って確認している実務官は本当に苦労しているようだった。
まあ、俺はその現地から上がってきた税を集計して上に伝えるだけだが……
上がってきた税はいつもの半分だった。
「貴様は最果ての地は知っているか?」
いきなり殿下が話題を変えられて俺は目を白黒させた。
「はい。サウス山脈の向こうにあるという暑い地域と聞いております」
「そこにアデラインが追放されたことも聞いているか?」
「はい」
アデラインは殿下の前の婚約者で、今の婚約者である聖女様に嫉妬して、八つ当たりというか言葉にも出来ない事を色々と画策した罪で、婚約破棄の上最果ての地に追放されたと聞いていた。
「そのアデラインが最果ての地で米を大量に作って隠匿しているというのだ」
「米をですか?」
俺は米という穀物があるのは知っていた。
しかし、米は税としては集めていない。
俺達農務省が税として集めるのは主に小麦だ。
残りの穀物や野菜は農民達が好きに作って良いことになっていた。
小麦は他の穀物に比べて高値で取引されるのだ。
農民達も高価な小麦を作りたがっていた。
それにそもそも米は家畜の餌だ。売っても二束三文にしかならないだろう。
そんなに沢山の家畜の餌を作ってどうするつもりだろう?
俺にはよく判らなかった。
「その米を税として半分納めさせろ」
俺はその言葉に目が点になった。
「しかし、米には税を課しておりませんが……」
「そんなのは判っておる。だから貴様を呼んだのだろうが」
殿下が眉間にしわを寄せて気色ばまれた。
俺はびくりとした。
「ゴダード男爵。我々は米が税の対象外というのもよく判っている。しかし、ここまで凶作だと飢饉が起こりかねん。それだけは何としても防ぎたい。例え家畜の餌だとしても食べ物が無いよりはましだろう。農務卿に相談したら、貴公ならうまく出来るだろうと推薦されたのだ」
宰相の息子が温和に教えてくれたが、税のかからぬものに税をかけろというのはとても難しいのではないのか?
俺は戸惑った。
「ゴダード、難しいのは我らも判っている。今回の件が上手くいけば、その方を子爵に昇爵させよう」
「誠にございますか?」
俺は思わず座った椅子から立ち上った。
ここ50年ほど宮中貴族が昇爵したというのはきいたことが無かった。
それに子爵になれば、領地持ちになれる。今まで領地無し男爵と蔑まれることも無くなるのだ。
その上王子殿下の覚えも目出度くなるだろう。
良いことずくめだ。
なあに、相手は高々学園を卒業したての小娘だ。
王国の窮状を泣いて訴えれば、家畜の餌など即座に供出してくれるだろう。
「判りました。直ちに最果ての地に行きまして、徴税して参ります」
俺はエドワード殿下に跪いた。
「そうか、騎士団の一部を貴様に付ける。王国の民の為だ。よろしく頼むぞ」
「はっ」
俺はエドワード殿下に頷くと直ちに最果ての地に行く準備を始めた。
ついに俺に運が巡ってきた。
俺は失敗する可能性など全く考えてもいなかったのだ。
徴税官が行く先には扱いやすいアデライン?
と世界最強騎士のお兄様がいるのですが……
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