お兄様に水竜退治のご褒美にキスさせられました
竜巻の中心にいた巨大水竜をお兄様が退治したら、それまで荒れ狂っていた嵐がきれいさっぱりなくなって、あっという間に太陽が顔を出してきた。
まだ川は轟轟と流れていたけれど、時間が経てば収まるだろう。
なんとか堤防の増強は間に合ったみたいだ。
田んぼの被害はお兄様が壊した所くらいだ。
「皆、怪我はないか」
お兄様がこちらに向かって歩いてきた。
「お兄様!」
私は思わずお兄様に抱きついた。
「良かった。荒れ狂う濁流にお兄様が飛び込んだ時にはどうなるかと思ったわ」
私がお兄様を見上げると、
「ふん、あのような濁流など大したことではない。それに、そもそも飛び込めと言ったのはアインじゃないか」
「ご免なさい。お兄様が田んぼをめちゃくちゃにするからつい切れてしまって」
私はお兄様に謝った。
「まあ、竜巻に飛ばされた俺が悪いのかもしれないが、つい、油断したらやられてしまった」
お兄様はそう言って自分の頭を手でかくと笑ってくれた。
「笑って誤魔化さないでよ」
私がむっとして睨むと、
「じゃあ、お詫びだ」
チュッ
えっ、ええええ!
私はお兄様にキスされたんだけど……
「ちょっと何するのよ、お兄様!」
「お詫びのキスだ」
平然とお兄様が言ってくれるんだけど……全然お詫びになっていないじゃない!
実の妹にキスするってどういう事よ!
それも唇になんて!
絶対に変だ!
睨み付けたらそれを面白そうに見つつ、私の目の前に自分の顔を持ってくるんだけど、何なのよ!
「ちょっとお兄様近いって!」
私がお兄様を押し返そうとしたけれど、非力な私ではお兄様はびくともしない。
「濁流に飛び込めって言って水竜を退治してきたんだ。お姫様の感謝のキスがないぞ」
お兄様が何か言いだしたんだけど……
「今、人の唇を奪ったじゃない!」
私が文句を言うと、
「あれは田んぼを壊したお詫びのキスだ」
なんて、とんでもないことを言い出すんだけど……
「既に抱きついて上げたじゃない」
「それだけか?」
お兄様が不満そうに言うんだけど……
ここで不満もたれて聖女に寝返られたらしゃれにならないけれど、いくら何でもそんな事はしないと思う。
うーん、でも、学園では聖女の胸に魅了されていたし……
聖女に大きな胸を押しつけられてニタニタしたいてお兄様を思い出して私はムカムカしてきたんだけど……
「ちょっとセバス、何か言ってよ」
「まあ、アデライン様。ほっぺにキスくらいは良いのでは無いですか」
セバスまで言いだしてくれたんだけど……
確かにほっぺにキスなら西洋なら当たり前かもしれないけれど……前世日本人の記憶が戻った私としてはあまりやりたくはない。
でも、お兄様を見たらそれくらいやらないと許してくれそうに無かった。
「えっほっぺにか」
お兄様は物足りなさそうにしていたが、唇にキスはさすがに憚られた。
「嫌ならやらないんだから」
私がお兄様のほっぺたにキスをしようとした時だ。
「アイン、少し待て」
お兄様が避けようとしたが、いつまでもこうしているのは嫌だ。
チュッ
私が頬にキスしようとしたら、お兄様の顔が動いていて、そのまま唇と唇が重なってしまったんだけど……
ええええ!
何で動くのよ!
「ちょっとお兄様」
「確かに感謝のキスはもらったぞ」
お兄様は笑顔で私を見てくれた。
麗しいお兄様に微笑まれると私もそれ以上言えなかった。
「ようし、お前ら、稲が水につかりすぎている」
お兄様が指摘してくれた。
確かにもう稲が穂先以外はほとんど水に浸かっていた。
これは良くない。
「この水を直ちに排水しなければならない。セバス、どうすれば一番良い?」
お兄様は一番詳しいセバスに質問していた。
「ラストリバーの水位が高すぎます。おそらく排水しても逆流するかと」
セバスが問題点を指摘してくれた。
並行して流れる小川の水位もとても増えていた。
この小川は下流でラストリバーと合流しているのよ。
「下流域はまだ灌漑していないので、この地点の堤防を切って下流の反対側に水を流せば、水位も下げられると思います。そうすれば排水出来るのでは無いでしょうか」
セバスが教えてくれた。
「でも、この濁流の中を対岸に渡るのは大変ですな」
バージルが腕を組んでくれた。
「バージル、堤防を切るのは5人くらいで良いか」
「それだけいればなんとか」
バージルが頷いてくれた。
「ドラの助」
「はい、御前に」
ドラちゃんが即座に現れた。
「お前はバージルを始め5人をこの位置に今すぐ運んでくれ」
「一人ずつでよろしいですか?」
「構わない」
「バージル5人を選んでくれ」
「判りました」
バージルが5人を選抜する。
ドラちゃんが5人を次々に対岸の堤防を切るところに転移させていった。
「ようし、他の者はアイン達が握ってくれた握り飯をまだの物は食え。食べ終わったら皆で協力して水を一気に排水するぞ」
お兄様の合図で、皆握り飯を食べ出した。
「アデライン様。これって美味しいですね」
「そうでしょう。何しろ私が握ったんだから」
ホレスに言われて私は頷いた。
「アデライン様が握ったのは歪んでいますけれどね」
「セイラ、余計な事は言わないの」
セイラに言われて私は真っ赤になっていた。
「あっ、これ歪んでいる」
ホレスが握り飯を取って掲げてくれたんだけど……
「ちょっと、ホレスもわざわざ見せないでよ!」
私が叫んだけれど遅かった。
皆どっと笑ってくれるんだけど。
「でも、お米の聖女様が作った握り飯だからな。味は保障するぞ」
お兄様がフォローしてくれた。
『お米の聖女』って呼び方が何か嫌なんだけど……
「あっ、本当だ。とても美味しいです」
ホレスが言ってくれるんだけど、本当かな?
まあ、喜んでくれたなら良しとしよう。
その後下流の堤防を切ったと報告がきた。
真夏の太陽が照り返す中を、ラストリバーにバケツリレーで大量の水を排水したのよ。
そして、なんとか稲のダメージを最低限に抑えることに成功したのよ。








