お兄様が嵐の元凶の巨大水竜を退治しました
「ギャオーーーー!」
竜巻の中から雄叫びが聞こえた。
「あの中に何かいるぞ」
お兄様が竜巻を睨み付けた。
台風の暴風の中に巨大な竜巻があるのも驚いたが、その中から竜の雄叫びが聞こえるのには更に驚いた。
なんか禍々しいものが竜巻の中にはいるような気がする。
竜巻は堤防を破壊しながら川をそのまま遡上してきた。
台風の中の竜巻なんて絶対に変だ。
それにそのまま遡上してきたら、私達が作った田んぼが全滅する。
「ふんっ、中に何が入り込んでいるかわからんが、俺が退治してやる」
お兄様はそう言うと土手の堤防の上によじ登った。
「お兄様、頑張って!」
私は私の田んぼの運命をお兄様に託した。
「任せとけ!」
私が後ろからお兄様に声をかけると、お兄様が振り返りもせずに片手をあげてくれた。
まあ、お兄様に任せておけば大丈夫だ。
中に古代竜がいてもなんとかしてくれるだろう。
「行くぞ!」
私の信頼の元、お兄様が宝剣村雨を抜き放つ。
暴風の中でも稲光を反射してキラリと村雨の刀剣が光る。
そして、お兄様は剣を両手で持つや上段に構えた。
竜巻を睨み付ける。
「ギャオーーーー!」
また雄叫びが聞こえた。
「喰らえ!」
お兄様はそのまま剣を振り下ろした。
ズドーン!
凄まじい風切り音を残してお兄様の剣がソニックブレードを発生させた。
台風の暴風の吹く中お兄様のソニックブレードが竜巻にぶつかる。
バシン!
しかし、お兄様のソニックブレードは竜巻に跳ね返された。
竜巻はびくともしていない。
そのままの勢いのまま竜巻が徐々に遡上してくる。
「嘘!」
お兄様のソニックブレードがびくともしないなんて……
私は目を見開いた。
「おのれ! 許さん!」
お兄様は叫ぶと雨降りしきる台風の中を竜巻に向けて駆け出した。
横殴りの台風の風と竜巻の風が前からお兄様に襲いかかる。
お兄様はそれをものともせずに前に突き進む。
凄まじい風と雨が正面からお兄様に叩きつけられた。
駆けていたお兄様の足が徐々に遅くなってきたんだけど……
「お兄様!」
私には信じられなかった。
前に走るお兄様を止めようとするなんて……
それもお兄様が止められるなんて!
「ギャオーーーー!」
竜の雄叫びが聞こえた途端だ。
竜巻がお兄様を巻き込んだのだ。
ドシーーーーン!
お兄様は田んぼの真ん中に弾き飛ばされていた。
「ギャーーーー」
私の悲鳴が暴風雨の中に響いた。
私の田んぼが……
お兄様が落ちたのだ。
一反分の稲は壊滅しただろう……
また私が特注の種籾を蒔かないといけないのかもしれない。
「お兄様! もっと前で戦って!」
こんなところから叫んでも到底お兄様には届かないと判っていても私は叫んでいた。
お兄様が心持ち手を上げてくれたような気がしたけれど、どうなんだろう?
お兄様が首を振って立ち上った。
「おのれ、良くもやってくれたな」
そう叫んでお兄様が竜巻目がけて駆け出した。
竜巻から暴風と大雨がお兄様に横殴りに襲いかかる。
でも、今度はお兄様はしゃがんでそれを回避する。
でも、立ち上ったところを、風に煽られて吹き飛ばされていた。
ドシーーーーン!
「ギャーーーー、またやった!」
私の悲鳴が響いた。
また田んぼが……
お兄様が立ち上がるや、またしても駆けつけるが、また弾き飛ばされた。
私の悲鳴が暴風に負けじと上っていた。
「ちょっとお兄様、いい加減にしなさいよ。風や雨で吹き飛ばされるなら、いっそ川に飛び込んで近付きなさいよ!」
「アデライン様。いくらオーガスト様でもさすがに大水の川に飛び込んだら、不味いですって」
私の罵声にセイラは慌てて注意してくれた。
そうだ。いくらお兄様が無敵でもそれは無理だった。
「お兄様、今のは冗談よ」
私が叫んだが、お兄様は手をあげてくれたのよ。
そして、そのまま竜巻目がけて走るんじゃなくて、川目がけて真横に駆け出してくれたんだけど……
「いや、お兄様。いくらお兄様でも無理よ!」
でも、私の叫び声は聞こえないみたいだった。
「ギャオーーーー!」
暴風がお兄様の真横から吹き付けた。
お兄様が吹っ飛ぶが、風に乗ったみたいで、そのまま巨大な濁流となった川に飛び込んでくれた。
「お兄様!」
「「「オーガスト様!」」」
私達の悲鳴が響いた。
確かに私が言うように川に飛び込めば流されて竜巻の元に確実にたどり着ける。
しかし、竜巻の中心部には何がいるのか判らないのだ。それにこの凄まじい濁流。
私だったら一瞬で溺れて死んでしまうと思う。
いくら無敵のお兄様であっても、流れに乗るなんてことは出来ないと思う。
翻弄されて竜巻の中心部に到達しても戦えなかったら意味がない。
ただ殺される為に流されるだけだ。
最初は川に流されて竜巻に向かうお兄様が見えたけれど、あっという間に濁流に呑み込まれて、見えなくなった。
「お兄様!」
「「「オーガスト様!」」」
私達の悲鳴が再び響いた。
「そんなお兄様。私が余計な事を言ったが為に……」
私は泣きそうになった。
「大丈夫です。アデライン様。オーガスト様は特別ですから」
ドラちゃんが私を慰めてくれた。
何が特別なのかよく判らなかったが、魔物が言うんだからそうかもしれない。
私は少しだけ安心した。
何しろお兄様は怒り狂ったらダンジョンを破壊するなんて朝飯前で、竜を4匹も退治しているんだから。
おそらくこの世界の最強騎士だ。
いくら竜巻の化け物でもお兄様の方が勝つ可能性は十分にあずだ。
でもいくら待ってもお兄様は現れなかった。
「ギャオーーーー」
竜巻お化けの雄叫びが大きくなって、前進を始めただけだった。
「総員戦闘配備」
バージルが叫んでくれたが、お兄様がやられたのなら、最強騎士団と言えども厳しいのではないか……
私が危惧した時だ。
「ギャーーーー!」
竜巻化け物の悲鳴が聞こえた。
ドカーーーーン!
そして中心部が爆発したのよ。
お兄様の火炎魔術だ。
竜巻が弱くなる。
暴風も弱くなり、雨も小雨になる。
雲が切れだして所々太陽が差し込みだしたんだけど。
「ギャオーーーー」
竜巻が亡くなった後には真っ黒になった巨大な水竜が仁王立ちしていた。
「死ね!」
お兄様の大声が聞こえた。
スパン!
光った剣筋がはっきり見えた。
「ギャーーーー!」
水竜の悲鳴が聞こえて、水竜は真っ二つに割れたのだ。
ドシーーーーン!
大きな音がして水竜の死骸が倒れた。
そして、その上にはお兄様が立ち上っていた。
空を覆っていた黒雲が晴れてそこから一条の光がお兄様を照らした。
そう、そこには剣を片手にした英雄が仁王立ちしていたのよ。
無敵のお兄様。
教会の派遣した巨大水竜を退治しました
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