お兄様とほとんど口移しで氷を受け取っていたら、嵐の雲が迫ってきました
「あぢい!」
私は麦わら帽子を被って長袖長ズボンの作業着を着て呟いていた。
田植えが無事に終わって、順調に稲は育っていた。
湿原は広大な田んぼに様変わりしていた。
燦々と降り注ぐ太陽の光に向かって順調に苗は育っていた。
今日も暑い中、雑草取りだ。
これが本当に大変なのよ。
裾を捲くって田んぼに入るんだけどどうしても汚れてしまうし、それにこの暑さだ。
夏の太陽が燦々と嫌になるほど降り注いでいた。
その上、ジメジメして、ムシムシする。
本当に前世の日本の夏と同じだ。
まあ、そのお陰で稲はちゃんと生長しているんだけど……
半袖半ズボンにしたいとセイラに言ったら、
「貴族令嬢が何を言っているのですか!」
と怒られてしまった。
本当にお貴族様は面倒だ。
農婦だったら何言われずに涼しい格好で農作業が出来るのに!
半袖半ズボンで走り回っているメイが羨ましい。
「よいしょっと」
田んぼの水につかる前にズボンの裾を大きく折っていたら
「アイン、はしたないぞ!」
とお兄様に叱られてしまった。
「ええええ! だってお兄様、暑いもの」
私がぶーたれたら、
「ええい、アイン。周りの男どもに見せるな」
上着を私の足回りに捲いてくれるんだけど……
「周りの男どもって……」
そんなの気にしないだろうと周りを見たらジム等が真っ赤になって横を向いていた。
この世界では素足を見せるのはあんまり良くないらしい。
でも、そう言っても、水に入らないと雑草取りは出来ないし、長靴は暑くて嫌だ。
水が冷たいのでまだ雑草取りは許せるのよ。
「本当になんて暑いの!」
「夏が暑いのは仕方が無いんだ」
「えっ?」
お兄様の声が昔聞いたことのあるような気がして私はお兄様を二度見した。
「どうした、アイン?」
「ううん、何でもないわ」
私は首を振った。
昔夏に暑い暑いと文句言っていたら旺雅兄ちゃんに言われた言葉なのよ。
まあ、旺雅兄ちゃんが転生してお兄様になっているなんて都合の良いことがある訳はないとは思う。
「アイン!」
私はお兄様に再び呼ばれた。
「えっ、何よ!」
お小言はもういらないわよ!
と思って振り向いたら、口の中に何か放り込んでくれた。
冷たい!
氷だ!
「あひがほう」
氷を頬張りながら私がお礼を言うと、
「少しは涼しくなったか?」
お兄様の言葉に私は大きく頷いた。
でも、あっという間にお兄様が作ってくれた氷は溶けてしまった。
ゴクリと飲み込む。
のどごしに冷たい水が流れ込んで気持ちが良い。
「お兄様、もっと」
私がねだると
「これでも食うか」
お兄様が自分の舌先に大きな氷を出してくれたんだけど……
「あ、お兄様、酷い」
「ほひいか?」
口に頬張りながらお兄様が言い出してくれて、私は何も考えずに頷いていた。
「ひかたがはいな」
お兄様は舌先に氷を出してしゃがんでくれた。
私の口のすぐ先だ。
私は誘惑に勝てなかった。
思わずパクリとその氷を食べたのよ。
「ああああ、お兄ちゃんとお姉ちゃんがキスした!」
それを見ていたメイに大声で言われて私は気付いた。
氷をお兄様から譲ってもらっただけだけど、どう見てもキスだった。
口の中に氷があって言い訳できないし私は真っ赤になった。
「これ、メイ、余計な事を言うんじゃありません!」
お母さんがメイちゃんを叱ってくれたが、めいちゃんの前でそんな事をした私が悪いのよ。
いや、メイちゃんの前で無くても悪い。
つい氷の誘惑に釣られてしまった。
「あっ、ご免なさい。お兄ちゃんとお姉ちゃんがイチャイチャしていたら無視しないといけなかったんだ」
「メイ!」
お母さんの叱責にメイは慌てて駆けて行ったんだけど……メイの言葉に私は目を見開いた。
ちょっと待って、メイちゃん。私とお兄様は実の兄妹であって、キスって言っても兄妹間の親愛なキスで恋人同士では無いのよ!
決してイチャイチャなんてしていないわ!
氷を口の中に入れて、涙目になって私は心の中で叫んでいた。
平然と私を見て笑っているお兄様をみて私はムカムカした。
お兄様の弁慶の泣き所を思いっきり蹴っていた。
「痛い!」
でも、悲鳴を上げたのは私だった。
靴も履いていない素足でお兄様を蹴って、つま先に激痛が走ったのよ。
「何をしているんだ」
呆れてお兄様が私を見てくるんだけど……
「お姉ちゃん!」
逃げていったメイが私の方に駆け戻ってきた。
「お姉ちゃん、あの雲やばくない?」
慌てて私の目の前に来たメイが遠くを指さした。
「えっ?」
私はそちらを見て目が点になった。
「んっ? なんだあの雲は?」
お兄様も目を見開いた。
そこには渦巻いた真っ白な雲がとてつもなく高く聳え立っているんだけど……
青空の中に聳え立つそれは悪意というか、なんかとてもおどろおどろしい感じがするんだけど……
白い雲の中でピカピカ光っているのは雷なんじゃないだろうか?
あんな巨大な雲は初めて見た。
そして、それがこちらに向かってゆっくりと近付いてきているんだけど……
「嵐です。直ちに屋敷に戻りましょう」
セバスが進言してくれた。
私達は直ちに農作業を中止して屋敷に戻った。
迫る来る巨大な嵐の雲。
最果ての地はどうなる?
続きをお楽しみに!








