5.気付いたら私の喉元に大きな牙をキラリと輝かせたドラキュラがいました
「もう遅いですから、今日はこちらに泊まられたら!」
私たちの事を心配して、必死に止めようとする村長を、
「なあに、化け物など、もし、現れたとしても俺が瞬殺してやるから」
お兄様のやる気満々の一言で、私たちはその化け物屋敷に向かう事になったのよ。
本当に最悪だった。
でも、セイラも侍従のセバスも、私みたいに脅えた風には全く見えなかった。
そもそも我がダンプリーズ公爵家はこの国建国当時から、武に特化した家柄だった。
我が家の始祖は領地にいた古代竜を三日三晩戦って退治して剥製にしたと教科書に載っているし、代々公爵家当主は騎士団長だった。
当然侍女も侍従も戦闘タイプで普通の兵士よりは強かった。
私の専属侍女のセイラも私の護衛も兼務していて、恐らく王宮の近衛よりは強いし、セバスは我が家の陰の総まとめ役で、王国の陰とも互角にやり合うと聞いていた。
我が領地の騎士団は我が国最強で、今は北方の国境でノルディンの蛮族に睨みを利かしているそうだ。
ということで、その化け物屋敷に化け物がいようがいなかろうが私以外は全然気にしていなかった。
まあ、この国最強騎士のお兄様がいるし……
公爵家の中で戦闘できないのは運動神経の悪い私だけなのよ。本当に。
私一人くらいならば、お兄様が一人いれば守りきってくれるのは判っているし……
ただ、私がお化けとか怪談が苦手なだけで……
なのに、いつもそんなところにお兄様が無理やり連れて行ってくれるのよ!
一度無理やり連れていかれたダンジョンに古代竜がいて、本当に大変だった。
お兄様と古代竜の戦いは凄まじく、この世界最後の戦いか! というほど酷くて、この国最大のダンジョンは半壊、負けた古代竜が、這う這うの体で逃げていった。
私は戦ったことなどないけれど、お兄様の戦いは嫌ほど見せられていた。
一つだけ判っているのはお兄様が私に付いてくれていたら、例え古代竜が相手でも安全だという事だ。
ただ、その戦いで間違って少しでも私が傷つけば、怒り狂ったお兄様の怒りが爆発してダンジョンが消滅するのが決定してしまうだけで……
私達はデルタ地帯の真ん中にある、化け物屋敷、もといドラクエ伯爵の元屋敷を目指したのよ。
でも、名前からして変な名前だし、私は行くのは嫌だったんだけど……
ドラクエ伯爵ってどう考えても前世のドラキュラ伯爵よね!
森の中に建っていた屋敷は寂れていて、見た感じがいかにも幽霊屋敷という感じだった。
「何だ。化け物屋敷と言うからどんなに酷いのかと思ったら、ちゃんとした屋敷じゃないか!」
少しがっかりしたお兄様がいたんだが、いやいやいやいや、どう見ても今にもお化けが出そうな変な屋敷よ。
まあ、建物自体はしっかりしていて、メンテナンスもされているみたいで、雨漏りの跡もなかった。
「ようし、行くぞ!」
ウキウキするお兄様を先頭に直ちに屋敷内の探検が始まったのだが、端から端まで歩いても何もいなかった。
探検を終えて私達は二階のリビングに集まっていた。
椅子も机も古いがしっかりした作りでまだ十分に使えるしろものだった。
「何だかつまらん」
お兄様はがっかりしていた。
「何もいなくて良かった」
ほっとした私は疲れ切っていた。
二階建ての建物は結構広かったのよ。
「あれ、アイン、この屋敷の見取り図を知らないか?」
お兄様が途中で見つけた見取り図が無いと言い出した。
「えっ、さっき、お兄様は机の上に置いたと思ったけれど」
私が振り返って見ると見取り図はどこにもない。
「変だな?」
お兄様と周りを探すと、
「オーガスト様、ベッドの上にありました」
セイラがベッドの上に置かれていた見取り図を持ってきた。
「変だな。確かに机の上に置いたと思ったんだが」
お兄様が首をかしげたが、
「気のせいではないですか?」
セイラがあっけらかんと首を振ってくれた。
まあ、気のせいという事もある。
私はそう思うことにした。
二階の主寝室には扉で繋がっていて二部屋にベッドが1つずつあったので、お兄様と私が使うことにした。
締め切られた屋敷にあったにしては布団は乾燥していたし、今からでも十分に使えた。
まあ我が家は戦闘一家だったからここまで野宿で、十分にやってこれたので、問題は全くなかったけれど。久々の布団はありがたかった。
簡単な食事をセイラとセバスが用意してくれて、それを私達は食べた。
古いパンにお肉が挟まったホットドッグみたいな感じだったが、私には十分だった。さすが私の専属、私が好きなのをよく判っている。
お腹がいっぱいになった私は疲れ切っていたので、自分のベッドに潜り込むと、怖いも何も忘れて寝てしまったのだ。
本当に馬鹿だった。
そして、夜中に私は寒気がして目が覚めた。
半分寝ている私の目に何かが浮かんでいるのが判った。
お化けだ。
私はもう一度目を閉じようとして、それがドラキュラだと気付いた。
それは半分目を瞑った私の恐怖に震える喉元に大きな口を開けてガブリと噛み付こうとしてくれた。
失敗した!
昔みたいに怖くなった時に、お兄様の布団の中に潜り込んでいれば良かった!
そうしたらこんな事は無かったのに!
私は恐怖に打ち震えた……
絶対絶命のアデラインの運命や如何に?








