村の若者達が手伝いに来てくれるようになりました
お兄様が一人で水竜退治して、村の皆は初めてお兄様の偉大さが判ったみたい。
皆は私には時たま小娘めって顔しているのが判るけれど、お兄様を見る目が違う。
皆お兄様には慇懃に頭を下げているし……
何しろお兄様はほとんど一撃で竜を退治したのだ。
普通は竜は騎士団一つでも対処出来ない。
それを楽々と退治したお兄様を皆尊敬と恐れとが合わさった目で見ていた。
領主は私なんですけど……まあ、お兄様がエドワードを脅して分捕ってきた領主だから何も言わないけれど……
なんだかな……
「お兄ちゃんがあんなに凄いなんて知らなかった」
メイなんて尊敬を通り越して憧れの英雄を見るようにぼうっとしてお兄様を見ているし……
「でも、そんなお兄ちゃんを顎で使っているお姉ちゃんはもっと凄いね」
なんかとんでもないことを言ってくれるんだけど……
お兄様が私の田んぼをめちゃくちゃにするから悪いのよ!
「子供は嘘つきませんから」
セイラなんかぼそりと呟いてくれたけれど、何か違う!
あれから普通に植えた種籾も育ったので皆して田植えをした。
今は辺り一面田植えの終わった田んぼが広まっていた。
今はその横の新たな地を開墾している。
そんな中、時たまメイとそのお母さん達が私達におやつを持ってきてくれるようになった。
焼いた素朴なそばせんべいだ。
私はその素朴な味が好きなので喜んでもらっていた。
「公爵家令嬢のお嬢様がそばせんべいなんて」
セイラが呆れていたけれど……
「お貴族様に食べて頂ける物ではありませんが」
メイのお母さんが恐縮していたけれど、私がメイが食べているそばせんべいを見つけて一つもらったのだ。私の前世のおばあちゃんがよく作ってくれて、私はよく食べていたのよ。
「美味しい」
私が久々のおばあちゃんの味に喜んでいたら、
「おお、そばせんべいか」
何故かお兄様も喜んで食べてくれて、以来、時たまおやつを持ってきてくれる時に、メイのお母さんが持ってきてくれるのよ。
今もお兄様が「毒味だ」と言ってそのせんべいを半分食べて残りを私の口に放り込んでくれるんだけど……
毒味って次期公爵様がして良いのか?
と思わないでも無かったが、お兄様は毒にも耐性があるらしい。
「ほら、アイン」
そう言われて私が口を開けるとその中にぽんとお兄様がそばせんべいをほうりこんでくれた。
「餌付けされていますね」
ぼそりとセイラなんかは呟いてくれたが、餌付けって何よ、餌付けって!
私はペットでは無いわよ!
私はへそを曲げた。
まあ、でも本当にお兄様は万能だ。
使えないのはいやし魔術くらいで、剣も出来、大半の魔術を使えて、一家に一人いればとても便利なのよ。
今もぬるくなった水に、氷を作って入れてくれた。
「美味しい!」
私がニコリとお兄様に微笑むとお兄様の口元が少しほころんだ。
機嫌の良い証拠だ。
お兄様は顔がいいのに、貴族の令嬢達に塩対応であまり人気はなかったのよ。
もう少し柔らかく説したら良かったのに……もっとも聖女にはにやけた顔をしていたから……そうじゃないか……本当に許せなかった。胸押しつけられて喜んでいたから……
私も胸を大きくした方が良いんだろうか?
「アデライン様。このビスケットですか、とても美味しいです」
村の農民のジムが喜んでくれた。
あの収穫祭の後で農地をもっと増やしていくという話をしたら、村の次男や三男が働きに来てくれるようになったのよ。今までは村では痩せ細った土地しか与えられていなかったらしい。
今までは湿原で使い道が無かったのが、私達が開墾してお米が植えられるのを見て、次々に手伝いたいと言い出してくれたのよ。
騎士団の面々を延々と働かせる訳には行かないから、人出はいくらあっても良いのよ。
一応大方田植えは終えたので、今は騎士団の半分の面々がいない。
北方の砦が占拠されて、エドワードは動員令をかけたらしい。
多くの騎士が取られて、各地で治安が悪くなって、派遣の依頼がお兄様に来たのよ。
それをセバスが選抜して100人の大隊ごとに派遣していた。
今は取りあえず雇っているけれど、いずれはこの土地を区画して少しずつ渡していっても良いと思っている。
「いやあ、本当にアデライン様の作られたビスケットは美味しいですな」
ジムらが喜んで食べてくれる。
「そう」
私は少し嬉しくなった。
お兄様は嫌いではないと思うがはっきりと美味しいとは言ってくれないのよ。その点ジム等農民は純粋らしい。思ったことをそのまま褒めてくれるのよ。
「それで狸が出て来て……」
ジムが元気よく話していたのに、急に静かになった。
どうしたんだろうと思ったら、不機嫌そうなお兄様がそばに来ていた。
せっかく住民等と仲良くなっていたのに……お兄様は威圧感があるのか、それまで雄弁に話していたジム等はお兄様の前では萎縮して話さなくなるのよ。
村の噂話とか聞いていたのに!
「お兄様、食べる?」
私はそう言うとビスケットを持ってお兄様の口の中に入れた。
パクってお兄様は私の指ごと食べてくれるんだけど……
「ちょっと、何をするのよ」
私がむっとしてお兄様を見上げた。
「旨いな」
珍しくお兄様が褒めてくれたけれど、
「私の指まで食べること無いでしょ」
眉をつり上げて文句を言うと
「まあ、そう言うな。それよりも苗代が整ったから、またアインが種籾を蒔いてくれ」
「ええええ! またやるの? せっかく村の人達と話していたのに、キャッ」
そう文句を言う私をお兄様は強引に抱き上げてくれたのだ。
「ちょっとお兄様」
抗議する私を無視してお兄様は強引に歩き出してくれた。
「嫉妬されていますな」
後ろでセイラがぼそりと言ってくれたけれど、私はよく聞こえなかったのよ!
若い男達に囲まれているアインに嫉妬したお兄様でした……
続きをお楽しみに!








