苗代を作り始めたら伯父がやってきて私をいやらしい目で見てくれてお兄様が切れそうになりました
寝ぼけたお兄様に私の大切なファーストキスを奪われたのに、お兄様のファーストキスを私が3歳の時に奪ったから最初にしてきた私が一番悪いと言われてしまって、釈然としなかった。
「私のファーストキスなのに、信じられないわ」
私がセイラに文句を言うと
「まあ、子供の頃はアデライン様はませていらっしゃいましたから。どこに行くのもオーガスト様の後を追いかけていらっしゃって、キスは何回もされていらっしゃいましたよ」
「えっ、何回も?」
私はセイラの言葉に青くなった。
「奥様の前でもされて、奥様がアデライン様に酷く怒られて、それからはされないようになりましたけれど」
経緯をセイラが説明してくれた。
そうか、お母様に酷く怒られたのか!
それでキスするのはいけないと頭に入っていて、キスしていないんだ。
考えたら、メリンダが現れる前は何度かエドワードにキスされそうになっても避けていた気がする。
メリンダが現れてからは、そんな事になったことは無いが、二人がしているのを見て不潔だと不快に思った記憶があった。
そうか、お母様に怒られたからキスはいけないことだと思っていたんだ。
お母様にキスはいけないことだと怒られたから、その時のことを忘れようとしてお兄様とのキスを忘れていたんだ。
「お兄様、大好き」
そう言ってキスしていた気がする……
今かすかに思い出した。
「ああああ」
私は頭を押えたくなった。
なんていう黒歴史だ。
もう穴が開いていたら入りたかった。
「まあ、子供の頃には良くあることではないですか? 小さい時からオーガス様は格好良かったですからね。アデライン様が好きになられたのも判ります」
セイラが頷いて好きに言ってくれるが、
「実の兄を好きになっても仕方が無いでしょう!」
「えっ、いや、アデライン様は……」
何かセイラが言おうとした時にお兄様が入ってきて、セイラは黙ってくれたんだけど、何なんだろう?
「アイン、昨日はよく眠れたか?」
「はああああ! よく言うわね。お兄様が私のファーストキスを奪ってくれたから全然眠れなかったわよ」
能天気なお兄様に私が食らいつくと、
「よく言うな。俺が少し覗いた時は大きな口を開けて幸せそうに寝ていたぞ」
「勝手に人の寝顔を見ないでよ!」
近くのナイフをお兄様目がけて投げそうになって慌てて私は思いとどまった。
レディの寝顔を見るなんて信じられない!
「というか、お兄様と続きの部屋なんて、おかしいわよ。私の部屋を移してよ!」
「駄目だ。お前は王家に狙われている可能性がある。俺の傍にいないといざという時に守れないぞ」
「うーーーー」
お兄様にそう言われるとなんとも反論できなかった。
確かにお兄様が傍にいないと王家の景が襲ってきた時に対処は難しいかもしれない。
何しろお兄様は暗黒竜が襲ってきても私を護ってくれた、最強の護衛騎士なのよ。
手放す訳にはいかない!
それはそうだけど、寝顔をお兄様とはいえ覗かれるのは嫌だ。
ウーーーー!
私が心の中で考えていた時だ。
チュッ
私の唇がまた奪われたのだ。
ええええ!
「ちょっとお兄様、何するのよ!」
私が目を見開いて文句を言うと
「なあに朝の挨拶さ。昔よくお前にそう言われてキスされたぞ」
お兄様は平然として反論してくれたけれど、
「昔の黒歴史持ち出さないでよ」
怒った私は手元のふきんをお兄様に投げつけた。
お兄様にはびくともしなかったけれど!
信じられない!
そのまま朝食を終えると私はお兄様達と開墾地に向かったのよ!
絶対にお兄様に何か仕返しをしてやる!
私は心に誓っていた。
今日は苗代作りだ。
苗代は種籾を撒いてそれを田植えする前の稲になるまで、1ヶ月くらい育てるところだ。
田起こしした田んぼの一部、所々の一反分を苗代にするのよ。まあ、苗代は田んぼとは別にビニールハウスなんかを作ってやった方が良いんだけど、そこまでの時間が無かった。
この一反部分は苗代用に何回も田起こしをしたうえに、池を削った灰の混ざった土も少し混ぜていた。
失敗する訳にはいかない。
そこに昨日のうちに水を浅く張っていた。
「ようし、これから代かきをするぞ。この馬鍬を使って田んぼの土を砕くんだ。特に苗代は種籾を撒いて田植え前の苗に育てる大切な所だ。これが米の取れ高を左右するといっても過言では無いぞ」
ちょっとお兄様! それ私の言うところだから!
勝手に言うな!
私が口出そうとしても既に遅かった。
「アイン、何か付け加えることはあるか」
あるか!
お兄様の一言にそう反論したかったが、それでは領主では無い。
「騎士の皆は、お兄様も含めてがさつなところがあるから、くれぐれも丁寧に何回もやってね」
「どれくらい丁寧にやるんですか?」
フォルスが尋ねてくれた。
「そうね。土の塊が無くなって土がさらさらになるくらいよ」
「さらさらになるくらいですか?」
「さらさらというか土が細かくなってねっとりした感じになるくらいかな」
横からお兄様が補足してくれた。
「ねっとりですか?」
「まあ、取りあえずやって見るぞ」
判らなそうにしているフォレスにお兄様が見本を見せると言い出した。
一反の浅く水を張った田んぼに馬が5頭並ぶ。
その横の一反も5頭並んだ。
まず、計二反分を苗代にするのよ。
「よし、アイン、行こうか」
私が馬の轡をとった。そして、ゆっくりと歩き出した。
お兄様が馬に引かせた馬鍬を押えて、ついてくる。
各大隊長が一緒に動き出した。
10頭の馬が一斉に馬鍬を引いて歩くのも結構迫力があった。
でも、どう考えてもお兄様には馬は必要ない。
と言うかお兄様が馬になって馬鍬を引けば良いのに!
そのお兄様に轡を付けて私が引いても良いかもしれない。
そのお兄様の格好を想像して私が笑いそうになった時だ。
天罰が当たったのよ。
「伝令!」
峠のところに関所を設けて騎士団の一部を待機させて警戒するようになったんだけど、その中の一人が馬に乗って駆けてきた。
皆一斉に止る。
「どうした?」
お兄様が伝令に尋ねると
「急遽エイブラム様がいらっしゃって面会を希望されています」
「エイブラムがか」
お兄様が嫌そうな顔をした。
私の天敵のエイブラム伯父様だ。
私の事を役立たずと言ってお兄様にボコボコにされた伯父様だ。
何しに来たんだろう?
「やあ、こんなところにいたのか」
私はその声を聞いて怖気が走った。
騎馬の後ろから来た馬車から伯父様が降り立った。
後ろでついてきた騎士達ががこちらに頭を下げて謝っている。
関所で待たせようとして、我が儘な伯父様は待たなかったんだろう。
伯父様は記憶よりも更に太っていた。
ガマガエルのような顔をした瞳がこちらをニタリといやらしい目で見てきた。
私はさっとお兄様の陰に隠れたのよ。
「なんだ。アデラインは役立たずだから農婦になったのか? その薄汚れた格好にも惹かれはするが」
いやらしい目が私を舐め回すように見てくれた。
私は背筋がぞおーっとした。
「何だと!」
その瞬間だ。お兄様が暴発しそうになったのだ。
ここまで読んで頂いて有難うございます。
怒りのお兄様の前にいやらしいエイブラムの運命や如何に?
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