ご飯は本当に美味しい3 炊けたご飯は本当に美味しかった!
「セイラ、癒し魔術師を呼べ」
火傷した私の指がお兄様の氷で少し冷えたときだ。
お兄様が突然指示してくれたんだけど……
「ちょっとお兄様、大丈夫だって、こんな火傷くらい!」
「はああああ! アイン、以前はちょっとの怪我でも、手が取れたくらいの大騒ぎしてたじゃないか!」
お兄様の声に皆頷いてくれるんだけど、それは記憶が戻る前よ!
私は余程叫びたかった。
確かに記憶の戻る前はちょっとした怪我で大騒ぎしたかもしれないけど、前世の記憶が戻ったんだからそんな小さな怪我で騒がないから!
私はそう思ったけど、癒し魔術師がすぐにやって来た。
癒し魔術師は慣れているのか、何も言わずにさっと癒してくれた。
ても、その目が戸惑っているんだけど、なんでだ?
「今日はお嬢様がやけに静かですが、どうかなさったのですか?」
お兄様に質問してくれているんだけど……こんなちっぽけな怪我で大騒ぎするはずないじゃない!
私がムッとしたら、
「アデライン様はお兄様が戻っていらっしゃって、喜んでいらっしゃるんですよ」
アリスが余計な事を言ってくれた。
それは嬉しいけど、胸でか聖女に誑かされて私を見捨てた点は許していないんだから!
「おい、アイン、そろそろ竈から鍋を下ろしても良いか?」
鍋から吹き出る蒸気が減ってきたし……
不承不承私は頷いた。
「そ、そうね、少し待って!」
私はお兄様の過保護にムッとしていたが、そろそろ良いだろう。
「おい、アイン!」
お兄様が私をとめようとしたが、私はその前に、一掴みの藁を竈の中に放り込んだ。
ボオーッ
藁が盛大に燃える。
凄い、こんなに燃えるんだ?
私は少し驚いた。
藁はすぐに燃え尽きるが、この火力で最後の水分を飛ばすのよ。
「本当に無茶するんだな」
お兄様があきれてくれたが、藁を入れるくらいは私でもできるわよ!
お兄様が、鍋を竈から下ろしてくれた。飯盒だったら、布に包んでひっくり返すんだけど、さすがにこの大きな鍋は無理だ。
10分間ここで蒸らそう。
あとたった10分の我慢だ。
私はドキドキした。
前世の記憶が蘇ってからまだ1ヶ月も経たないが、この世界で生まれてから私はずっとパン食だった。
16年ぶりのご飯だ。
私は待ちきれなかった。
「アイン、まだ食べたら駄目だぞ」
「そんなの判っているわよ」
お兄様の言葉にむっとして私はお兄様を睨み付けた。
「なら良いんだが、赤子が泣いても蓋取るなだからな」
お兄様が念押ししてくれた。
その声が旺雅兄ちゃんにの声に重なって聞こえたんだけど……
私は我慢出来なくて蓋を取ろうとして、お兄ちゃんによく怒られていた。
他人のそら似だと思うけれど、とてもよく似ていた。
顔は似ていなかったけれど……何しろゲームの攻略対象のお兄様はとても見目麗しくて到底旺雅兄ちゃんには似ていなかった。
まあ、それを言うと私もとても美人に転生していたけれど……
私は10分経つのをじっくりと待った。
ここは我慢だ。
「ようし、アイン、よく待てたな。10分経ったぞ」
お兄様が教えてくれた。
うーん、しかしこれではどちらが米の炊き方を教えているか判らないじゃないの!
お兄様はどこで学んだのだろう?
「お米の炊き方は聖女に教えてもらったの?」
私は尋ねていた。ヒロインはゲームではお米の育て方や食べ方を知っていたからおそらく転生者のはずだ。
そうか神からの啓示で知ったかだけど、あのヒロインに神からの啓示があるとは思えなかった。
「えっ、いや、そんな事はないぞ。そうだ。アインと同じで図書館で学んだんだ」
お兄様はそう言い張ってくれたが、私以上に脳筋のお兄様が図書館なんて本当に行っていたのか?
皆もぽかんとしてお兄様を見ていた。
私には信じられなかったが、私も図書館と言ってしまったからこれ以上突っ込めなかった。
「よし、じゃあ開けるぞ」
お兄様はどこから見つけてきたのかしゃもじそっくりの物を手に持つ手いるんだけど……
「えっ、お兄様、しゃもじをどうしたの?」
「作ったんだ」
私の質問にお兄様は平然と答えてくれた。
しゃもじを作るってお兄様も相当なお米マニアになっている。
私は何も教えていないのに!
私は少し剥れた。
「アイン、蓋を開けるか?」
お兄様はそんな剥れた私にお構いなしに、私の手に再び軍手をはめてくれた。
「当然よ」
私はお兄様に嵌めてもらった軍手で蓋を取った。
開けたお釜からは少し湯気がたって、その下には夢にまで見た白いご飯が見えた。
「じゃあ、ほぐすからな」
お兄様はそう言うとしゃもじを鍋に突っ込んでご飯を軽く混ぜてくれた。
「うわー、美味しそう」
私が声を上げる。
さすがにセイラは何も言わなかったが、絶対に美味しいって言わせてやるんだから!
真っ先にお兄様が私にお茶碗に似た深皿によそってくれた。
「アデライン様、その棒状の二本の物は何ですか?」
セイラが尋ねてくれた。
「これが東洋で言うところのお箸で、ご飯を食べる時に使う物よ」
私はこれもホレスに作ってもらったのよ。
「皆は取りあえずスプーンで良いと思うけれど……」
私は皆に話しておいた。
初めてのお箸をすぐに使うのは無理よ。
「アイン、まず食べてみろよ」
お兄様が私を促してくれた。
「頂きます」
私はそう言うとパクリとご飯にぱくついた。
「美味しい!」
私は感激した。
芯飯にはなっていないし、ご飯粒が立っていて、この歯触りといい、本当に最高だった。
美味しい。久しぶりのご飯だ!
私は涙を流して感激したのよ。
「アイン、どうした。涙流して、そんなに上手いのか」
久々のご飯だからと言えずに、私は首を振った。
旺雅兄ちゃんやお父さんやお母さんのことを思い出していた。
なんかとても懐かしく思えたのよ。
涙は中々引っ込まなかった。
「大丈夫か、アイン」
お兄様に背中を撫でられて、私は頷いた。
久々のご飯だ。今はご飯食べることに集中しよう!
私はなんとか心を切り替えた。
「うん、我ながら上手く炊けたな」
お兄様も自画自賛して食べていた。
でも、何故か普通にお箸を使っているんだけど……
えっ?
何で?
私は混乱した。
「オーガスト様。これでよろしいですか」
料理長のグスタフがキュウリの塩漬けを厨房から持って来てくれた。
「嘘! これ最高のおかずよね」
私はお兄様の箸の件よりも目の前のキュウリに目がいった。
「美味しい!」
ご飯にキュウリの塩漬けは最高のおかずよ!
「そんなに美味しいんですか?」
「本当に美味しいから、セイラも是非とも食べてみてよ」
セイラの質問に私はそう答えていた。
「アデライン様が涙を流すほど美味しいみたいだぞ」
「俺も頂くぞ」
周りにいた騎士達も食べ出してくれた。
こちらはスプーンを使っている。
「どう、セイラ、美味しいでしょう?」
私がセイラに聞くと
「まあ、家畜の餌でないのは理解できました」
なんともな答えが返ってきたけれど、まあ、取りあえずは良いだろう。
「アデライン様。これ良いです。お肉にも最高に合いますし」
料理長のグスタフが焼いた豚肉を出してくれたので、ホレスが喜んで食べてくれていた。
でも、それだけでは到底足りないので、精米してくれたお米で第二陣をお兄様が炊き出してくれた。
ちょっと待ってよ、それ私のお米なのに!
思わず私が叫びそうになったが、
「また精米くらいいくらでもしてやるから」
お兄様に言われて私は黙った。
そうだ、今日は皆にご飯の良さを知ってもらうのがメインだった。
皆に楽しんでもらわないと……
私は我慢したのよ。
でも、三回目に炊けたご飯を一膳頂いて、今度はキュウリの塩漬けをおかずにおなか一杯食べて私はとても満足したのだった。
ここまで読んで頂いて有難うございました。
ご飯がやっと食べられたアインでした。
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