王家の陰に捕まった私をドラちゃんが助けてくれたのに、怒り狂ったお兄様がそのドラちゃんを叩き斬ってくれました
本当にお兄様は信じられない!
私が渾身の魔術を発揮して作った畦道なのに、それを目印って何よ、目印って!
「もう絶対に許せないんだから」
私はお兄様とは反対方向に駆け出した。
「おい、アイン、待て!」
お兄様の声が遠くから聞こえたが、私は全く無視した。
そのまま川を飛び越えて目の前の林の中に飛び込んだ。
中に隠れてしまえばお兄様はすぐに探しだせないはずだ。
でも、私はそこに先客がいるなんて思ってもいなかったのよ。
「わああああ!」
「キャッ!」
飛び込むとそこにいた人にぶつかりそうになって、私は驚いた。
「貴方はこの地の御領主様」
男の人が驚いて私を見た。
「貴方は?」
「私はこの村の住人でジョージと申します」
男は私に挨拶してくれた。
「アイン! どこだ?」
遠くから私を探すお兄様の声が聞こえた。
ヤバい、隠れないと!
そう簡単にお兄様を許すつもりはないわ!
「ちょっと、どこかに隠れるところがある?」
「隠れるところですか?」
ジョージは逡巡してくれたが、
「それなら、少し行ったところに、小さいですが洞穴がありますが……」
「そこに案内して」
「判りました。こちらでございます」
ジョージは私を連れて低い姿勢で移動してくれた。私もそれについて行く。むかつくお兄様から逃げる逃走劇に私は少しワクワクした。
洞穴はそこから少し移動したところにあった。
「こちらにございます」
木の根本に穴が空いていた。
ジョージに続いて中にはいると、中は、想像したよりも広かった。
「ここなら、大丈夫ですよ。外から見つかることはないですから」
ニタリとジョージが笑ったような気がした。
再度見直すと普通にニコニコしているだけだった。
私の気のせいのようだ。
「ありがとう。ところでジョージはあんなところで何をしていたの?」
私は単純な質問をした。
「そうですな、騎士の方々が、何をしているか気になったのです。米なんて家畜の餌を大量に育てて、大規模な養豚場でも作られるのですか?」
「それは考えていないわ。お米は家畜の餌でないわ。お米を人間が食べても美味しいのよ」
「人が食べるのですか?」
ジョージは驚いて私を見た。
「確かに食料の乏しい東洋では人間が食べている国もありますが、我が国は小麦が十分に取れますからな。米など家畜の餌を食べるのは中々難しいのでは?」
ジョージが不審そうに私を見てくれたが、
「そんなことないわ。御釜で炊いたご飯は本当に美味しいんだから」
私がジョージに主張した。
「ご飯?」
「炊いたお米をそう言うのよ」
「アデライン様は本当に変わったお方ですな。ダンブリーズ公爵家のご令嬢ですのに、家畜の餌を食べられるなんて!」
ジョージは私を馬鹿にしてくれたのよ。
「何言ってるのよ。あなたもセイラと同じね。食べたことないのにそんなこと言って! ご飯は絶対に美味しいんだから」
私がムッとしてジョージに言い張った。
信じられないわ。今日会ったばかりで、あまり親しくもないのに、この領地の領主である私を馬鹿にしてくれるなんて!
お兄様が聞いたら首を刎ねられるかもしれないのに!
私が改めてジョージを見直すとその顔がニタニタしているんだけど……
それが領主に対する態度か?
そう言えばこのジョージの事をあまりよく知らなかった。
そんな奴についてきて良かったのか?
私はその時になって初めて少し後悔した。
「しかし、アデライン様も愚かですな」
私はそのジョージの言葉に唖然とした。
「聖女メリンダ様に酷い事をされたことといい、何も知らない男についてひょこひょことこんなところについてくるなど、愚の骨頂ですな」
何を言うのとさすがに温厚な私も切れようとした時だ。
気付いたら男は私の胸にナイフを突きつけてくれていたのよ。
「死にたくなければ静かに願います。アデライン様」
私はゴクリと生唾を飲み込んだ。
失敗した。
こんな見も知らない男なんかについてくるんじゃなかった。
こいつは絶対に王家かメリンダの配下の者だ。
私は唖然とした。
「あっはっはっ、本当にお前も馬鹿だな。オーガストの傍にいれば守ってもらえたものを。貴様に手が出せないからどうしようとモンモンとしていたら、そちらからかもがねぎを背負って歩いてきてくれたんだからな」
ジョージは高笑いしてくれた。
私は本当に馬鹿だ。
私は心底後悔した。
お兄様の傍にいればこんな奴が寄ることさえ出来なかったのに!
このままでは本当に不味いわ。
私は青くなった。
こうなったら一か八か呼ぶか!
私が大声でお兄様を呼ぼうとした時だ。
「さあて、どちらが鴨葱なんだか?」
「ドラちゃん!」
私は男の後ろに現れたドラちゃんを見て声を上げて喜んだ。これで逆転だ。
「き、貴様、何奴だ。どうやって俺の後ろを取った?」
ジョージは唖然としていた。
「ふん、貴様とはもともと経験が違うのだよ」
ドラちゃんが自慢してくれた。
「な、何だと、王家の陰が公爵家の陰に負けたと言うのか……そんな馬鹿な」
ジョージは王家の陰だと自分でばらしてくれたんだけど……それだけドラちゃんに負けたのがショックだったんだろう。
まあ、ドラちゃんは公爵家の陰でなくて、魔物なんだけど……わざわざ教えてあげる必要はないだろう。
「くっそう!」
ジョージが、
「おっと、動くと俺様の牙が貴様に首に突き刺さるぞ」
ドラちゃんはちゃんとジョージに警告してあげていた。
なのに馬鹿なジョージはドラちゃんに勝てると思ったみたいだ。
「死ね!」
グサ!
振り向き様ドラちゃんにナイフを突き刺してくれた。
でも、ドラちゃんは普通の武器では全く傷つかないのだ。
びくともしていなかった。
「な、何でだ? 何故毒付きのナイフを刺して利かない?」
「ふん、貴様とは修行のレベルが違うのだよ」
「くっそう、無念だ」
首筋にドラちゃんの牙が、突き刺さったままでジョージはそう叫ぶとバタリと倒れた。
「あっはっは。我輩に抵抗しようなど1万年早いわ」
ドラちゃんは大声で自慢してくれた。
その時だ。
「そこか!」
「ギャー」
私の周りにいきなり斬撃が突き刺さった。
それはドラちゃんとジョージを真っ二つに割いていた。
「アイン! 大丈夫か」
お兄様が洞窟の中に飛び込んできた。
でも私はそれどころではなかった。
「ドラちゃん、大丈夫? 酷いわ、お兄様、私を助けてくれたドラちゃんに斬りつけるなんて」
私が倒れ込んだドラちゃんに抱きついてお兄様を睨み付けていたのだ。








