とある農民視点 領主が自分の方に駆けてきました
俺の名はジョージ、しがない最果ての地のラストヴィレッジににいる農民だ。
年は既に還暦を超えている。
俺はとある商会で働いていたが、年を取ってきたので引退して、今まで貯めた金で各地を放浪の旅に出ようと思った。
商会にいたからこの国だけでは無く、他国のいろんな地にも行ったことがあったが、何もない最果ての地だけは行ったことがなかった。引退を機に真っ先に行こうと思ったのだ。
まあ、何もないところだとは聞いていたが、そこに行く過程のサウス山脈の登りは結構堪えた。
体力に自信があったのだが、雪の山道は堪えた。
なんとか山脈を越えて、最果ての地のラストヴィレッジについたのは良いが、村に着いたところで疲労のあまり倒れてしまったのだ。
「おじいちゃん、大丈夫?」
駆け寄ってくれたのが、メイという村長の孫娘だった。
「いや、ちょっと」
俺が立ち上がれないでいると、家の人間を呼んでくれて、その家に運んでくれた。
俺は村長の家にそのまま二週間ほど厄介になった。
お礼として金貨を渡したこともあってか、待遇はとても良かった。
俺は北部と比べてとても暖かいこの地がとても気に入った。
ギスギスした王都と違って、人の当たりとても良かった。
俺がこの地で暮らしたいと村長に言うと、村はずれで人の住んでいない家が余っているという。
「10年くらい誰も住んでおらんが、手を入れれば住めるようになるじゃろう」
「ありがとうございます。おいくらくらいするのでしょう?」
「ジョージさん、金なんていらねえよ。こんな最果ての地の土地など欲しいものはほとんどいないからな。ついでに耕作放棄された畑があるから耕してくれたら、それでいいよ」
ありがたいことに村長は寛大だった。
なんでも、取れ高の半分を税として納めれば良いらしい。
家を見たら一人で住むには大きすぎる広さだった。昔は10人家族が生活していたらしい。10年間放置されたにしては手入れもなされているようで、十分に住める家だった。
俺は早速、その家で生活始めた。
村の付き合いは寄り合いもちょくちょくあって中々煩雑だったが、王都に住んでいた俺にしてみればそれが新鮮だった。
俺が村に慣れた頃だ。
「良いところに住んでいるんだな」
元同僚のシリルが尋ねてきた。
「ああ、村長に良い家を手配してもらったんだ」
俺はシリルを隣近所や村長に紹介した。
「そうか、シリルさんは商会に勤めておられるのか? もし良ければ隊商をこの地にも派遣してもらえないじゃろうか? 昔はたまに来てくれたんじゃが、最近はさっぱりなんじゃ。村人達が必要な物は山を越えて隣村まで買いに行かねばならないので結構大変なんじゃ」
「判りました。どうなるかは判りませんが、派遣できるように上に頼んでみますよ」
シリルは村長の依頼を受けていた。
「上手い具合に、村に溶け込んだな」
「ああ、何とかな」
シリルに俺は頷いた。
「アデラインの護送はどうなった?」
「それだが、状況が変った」
シリルの話では、なんとアデラインは最果ての地に幽閉されるのでは無くて、最果ての地の領主になってくるそうだ。
「おい、状況が全然変っているではないか? 元々アデラインを最果ての地に護送する途中で襲って亡き者にするという話だったぞ。俺がこの地に来たのはあくまでもいざという時の予備だったんじゃないのか?」
俺は驚いてシリルを睨み付けた。
そう、俺は元々王家の陰だったのだ。
しかし、年老いて手足が思うように動かなくなったから引退を希望したら、この仕事を振られたのだ。あくまでも予備で必要なければその地で死ぬまで潜伏するように命じられた。
そう、王家の陰はこうして引退しても生きている限り、王家のために働く。もっとも何もなければその地で好きなことをして死ぬだけだ。
俺も十分に働いたし、もう血なまぐさいことはこりごりだ。このまま、この温厚なこの地で生を終えれば良かろう。
そう思っていたのに……
中々上手くはいかないらしい。
「まあ、その予備が役立つ時が来たんだよ」
「おいおい勝手に変えるなよ。俺は引退すするつもりでこの村に来たというのに」
平然と言い放つシリルを俺は睨み付けた。
「状況の変化は往々にしてあるんだよ」
シリルがそう話してくれたが、俺は釈然としなかった。
「王都から出たアデライン一行を我ら陰が二回襲撃したが、二回とも撃退された」
「二回もか?」
たんたんとシリルが報告してくれたが、俺には信じられなかった。
「ダンブリーズ公爵家の陰とオーガストの前になすすべも無くやられたみたいだ」
「オーガストか」
俺は瞠目した。オーガストは剣術の腕の立つ、次期ダンブリーズ公爵家当主と言われているが、王家としては王家に忠誠の厚いその伯父のエイブラムが継いでくれた方が都合が良いようだ。なんとかエイブラムが継ぐように持っていこうとしていたと記憶にあった。一時期はそのオーガストを第一王子がその配下に取り込んだように聞いていたのだが、それも失敗したらしい。
取りあえず、俺はアデラインとその一行の監視役として、引き続きこの地にとどまるように命じられた。そして、機会があればアデラインを殺すようにと……
まあ、そんな機会は無いと思うが……
初めて村でアデラインとその護衛の騎士を見た瞬間、俺の実力では絶対に出来ないと悟った。
後の騎士、オーガストのたたずまいがただ者では無かった。
四方に殺気を放ちまくっているのだ。
それだけ、アデラインを大切にしているようだった。
更にはダンブリーズ騎士団がこの地に来て俺は唖然とした。
ダンブリーズ騎士団は北の守りを一手に引き受けていたはずだ。
それがこの地に来たということは、北の守りはどうなったのだろう?
国境警備隊の騎士達だけでは凶暴なノルディン族を抑えられないはずだ。
案の定、その後の情報では北方の国境の砦がノルディン族に殲滅されてさもありなんと俺は思った。
アデラインとその一行は、もの好きにもこの見捨てられた最果ての地で大規模な開墾を始めたのだ。
食物が育たないと言われて何年も前に耕作放棄されたこの土地をだ。
それも家畜の餌しか使えない米なんかを育てるそうだ。
そんなの育ててどうするんだ?
俺には理解できなかった。
遠くから監視していると、アデラインの傍には必ずオーガストがいて手の出しようもなかった。
オーガストは下手したら騎士団の連中にも鋭い視線を浴びせて、アデラインに近付けないようにしている念の入れようだった。
これでも近付きようがない。
そんなアデラインが、オーガストと喧嘩でもしたのか一目散に駆け出したのだ。
それも俺の隠れている林に向かって!
俺は千載一遇の好機が巡ってきたのを悟った。
ここまで読んで頂いて有難うございます
暗殺者に向けて一目散にかけて来るアイン。
アインの運命や如何に?
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