2.怒り狂ったお兄様の腕の中で気を失いました
私が小さい頃はお兄様は本当に優しいお兄様だった。
「お兄様! お兄様、待って!」
私はいつもお兄様について回っていた。
「アデラ! 可愛いアデラ!」
そんな私をお兄様は目の中にいれてもいたくないみたいに本当に可愛がってくれた。
それが変ったのはメリンダが学園に転入してきてからだった。
私は婚約者の私というものがいながらに、エドワード様にまとわりつく、メリンダが嫌いだった。
「ちょっとあなた、エドワード様には私という婚約者がいるのに、エドワード様にまとわりつくのは止めなさいよ!」
私はエドワード様にまとわりつくメリンダを見ると、後で取り巻きを使ってメリンダを呼び出して叱責した。
そして、最初はお兄様も私の味方だったのだ。
「キャー、オーガスト様。アデラ様が私を虐めるんです」
何をトチ狂ったか、メリンダはそんな私に優しいお兄様に助けを求めくれた。
「違います。お兄様! 私の婚約者にまとわりつくメリンダが悪いのです」
私はお兄様がまさかメリンダにつくなんて思ってもいなかくて、お兄様にメリンダの言葉を笑顔で否定したのだ。
「アデラ。メリンダ嬢はまだ学園に来て間なしなのだ。貴族の暗黙のルールとかも知らないだろう。そこは考慮に入れてあげる必要があるのでは無いか」
お兄様のメリンダを庇う言葉に私は唖然とした。
ちょっと待ってよ! 貴族だろうが、平民だろうが、婚約者のいる男にベタベタくっつくのは悪いのは同じじゃない! 何を言うのよ! お兄様!
切れた私は思いっきりお兄様の弁慶の泣き所をけとばしてあげたのよげたのよ!
「ギャッ!」
珍しく、色づいたお兄様が足を押さえて泣きを入れたのを見て笑ったのが私とお兄様の最後だった。
それ以降はお兄様はメリンダの傍にいるようになって、私を見捨ててくれた。
今までは花よ蝶よと大切にしてくれていたのに、それからは外を飛び回る邪魔な羽虫やゴキブリを見るように汚い者を見るような目で見てくれたのだ。
私は今まで生まれた時からずっとお兄様と一緒だった。
私が魔物に襲われた時もお兄様が命がけで護ってくれた。
どんなに私が辛い時もお兄様が傍にいてくれた。
優しいお母様が亡くなった時もお兄様が私をなぐされてくれた。
だから、お兄様をメリンダに取られたのはエドワード様を取られた以上にショックだった。
私は自分は悪くない! 悪いのは婚約者のいる男にベタベタとくっつくメリンダなのよ!
私は口を酸っぱくする位お兄様に言い張ったのに、
「平民だからってメリンダを差別する貴様は反吐が出る」
お兄様は私の主張することは全く聞いてくれないで、話を取り代えて私を虫けらのように軽蔑してくれたのよ。信じられなかった。
私に親切な兄はどこにもいなくなって、魔王が現れたのよ。
友達とかに「アデラのお兄様は怖いわ」と言われても私には意味が判らなかった。
兄は私にはとても優しかったのよ。
でも、その意味が初めて判ったわ。私を睨み付ける兄はとても怖かった。でも、それ以上に私の言うことを全く聞いてくれない兄が悲しかった。
私は前世の記憶は戻っていなかったけれども、体のどこかに覚えがあったのか、学園にいる平民を差別することは一切無かった。まあ、知り合いには平民を貴族でないと差別する者もいたけれど、私はそんな事で差別したことはないのに!
平民だからって差別していないわよ!
でも、いくら言ってもお兄様はきいてくれなかった。
そんな悪魔のお兄様が私が地面に激突する前に私を抱き留めてくれた?
それも何故かお兄様は激怒していた……私に激怒しているのだろうか?
でも、お兄様に殺されるのなら本望よ!
破落戸どもにおもちゃにされて殺されるよりもお兄様にひと思いに殺された方がまだましよ!
私は死を覚悟した。
「俺の妹に手を出したのは誰だ?」
「?」
私は聞き違えたと思ったわ。
「俺の可愛い妹を傷つけたのは誰だと聞いている!」
お兄様からは凄まじい殺気が放たれた!
昔あった事を思い出していた。
私がゴブリンに斬りつけられてかすり傷を負った時だ。
怒り狂ったお兄様が放った殺気がこんな感じだった。
その時のダンジョンは今はこの世に存在していない。
怒り狂ったお兄様によって消滅させられたのだ。
私の顔面を蹴り飛ばしたエドワードと私に足を引っかけたビリーが、ぎょっとして蒼白になっていた。
それはそうだ。
お兄様は王国最強の騎士だ。ゲームではヒロインの取り巻きの一人で破落戸を20名ほど一人で片付けていた。下手したら一人で騎士団長にも勝ててしまう腕前だった。それがいきなり私の味方についたのだ。それから凄まじい殺気を向けられたら、エドワードもビリーもビビるのは当然だった。
「オーガスト様。いかがなされたのですか? 私はその悪役令嬢のアデラインに破落戸をけしかけられておもちゃにされるところだったのですよ」
「そうだ。オーガスト。メリンダはアデラインに傷物にされようとしたのだぞ」
「俺の妹を勝手に呼び捨てにするな」
次の瞬間、お兄様は凄まじい殺気を放っていた。
「「ヒィィィィ」」
エドワードとビリーは殺気をもろに喰らってお漏らししていた。
これは兄が完全に切れている証拠だ。
周りは唖然と固まっていた。
「ふんっ、確かにアデラインが悪いところもあったろう。しかし,エドワード、元々アデラインという婚約者がいながらその女とイチャイチャしていたのは貴様も悪かろう」
お兄様の正論の言葉にエドワードは何一つ言い返せなかった。
というか、今まで私が散々言ったことじゃない!
何で今頃私の言葉を認めるのよ!
それならもっと前にみとめてほしかった!
「オーガスト様!」
思わずメリンダがお兄様に近寄ろうとした。
「寄るな! 女! それ以上アデラインに近づくと命の保証はせんぞ」
お兄様はメリンダに凄まじい殺気を放っていた。
変だ!
ゲームではお兄様はメリンダに骨抜きにされているはずなのに、何故かお兄様が私の味方に戻っているんだけど。でも、私は前世の記憶が戻るわ、エドワードに蹴り飛ばされて半死半生の怪我を負わされるわ、もうふらふらで気絶する寸前だった。
「すまぬ、アデライン。お前をこの様な目に逢わせて」
お兄様が私に謝ってくれたんだけど……私には信じられなかった。
でも、私はお兄様の言葉になんとか頷いた。
お兄様に任せておけば大丈夫だ。
そう思えるお兄様に戻ってくれていた。
ほっと安心するともはや私は正気を保てなかった。
「絶対に後で仇は取ってやるからな。ここは我慢してくれ」
なんか気絶する前にとんでもない言葉が聞こえたような気がしたけれど……
続きは今夜です
お楽しみに!
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