お兄様視点 今世の妹は死んでも守ろうと心に誓いました
地面が大きく揺れた時だ。
俺は高校にいた。
結構大きな揺れだったが、そこまで酷くなるとは思っていなかった。
家に病弱の妹の愛韻が一人でいるが、この揺れなら大丈夫だろう。
俺は勝手にそう思い込んでしまった。
俺は地震の後ものほほんと高校で友人達とだべっていた。
でも、俺は愛韻が一人でさみしがっているかもしれないと気になった。
小さい時から「旺雅兄ちゃん」と俺をよく呼んで俺の後をついて回ってくれた。時には生意気な事を言って煩かったが、俺からしたら可愛い妹だった。
しかし、電話してもメールしても繋がらない。地震が起こった時は往々にして不通になることは多いと聞いていたが、やはりそうだった。
気になった俺は家に帰ることにした。
自転車をこいで学校を出る。
「おい、津波警報が出ているぞ」
「家に妹がいるんで見に帰ります」
先生の言葉に俺が返すと、
「気をつけてな」
俺は先生に頷いた。
本当にこの時はあんな大事になるなんて思ってもいなかったのだ。
自転車をこいでいると俺は胸騒ぎがした。
必死に自転車をこぎ出した。
家が見えてきた時だ。
海が大きく盛り上がると、大量の水が溢れ出てくるのが見えた。
「愛韻!」
叫ぶ俺の目の前で愛韻のいる俺達の家が呑み込まれたのだ。
愛韻の悲鳴が聞こえたような気がした。
「愛韻!」
俺は叫んで駆け寄ろうとしたが、
「旺雅、止めろ」
近所のおっちゃん達に止められた。
「でも、愛韻が!」
「無理だ、諦めるんだ!」
おっちゃん達はそれ以上俺が近付くのを許してくれなかった……
その日から俺は何度も愛韻が津波に攫われる夢を見た。両親もショックだったと思うが誰一人俺を責めずに俺を慰めてくれた。でも、俺を慰めてくれても愛韻は帰ってこないのだ。
俺が地震が起こった後すぐに家に帰れば愛韻を助けられたのに……俺の行動が遅れたばかりに愛韻を殺してしまった……
俺は後悔しても後悔しきれなかった……
もしもう一度人生やり直せたら絶対に次こそ愛韻は守ると俺は心に誓ったのに、そんな事ができる訳はなかった。
俺がいつ死んだかは定かでない。
そんなに長生きが出来たとは思えないが……
「お前の名前はアデラインだ」
俺が新たに出来た妹に言い聞かせると、
「アイン!」
「アデライン」
「アイン!」
「アデラインだって」
「愛韻!」
その妹の声が愛韻と言ったように聞こえた。
そう、俺にはそう聞こえた。
その瞬間だ。
俺には凄まじい量の前世の記憶が蘇った。
そして、あまりのことに高熱を出して気絶してしまったのだ。
俺の名前はオーガスト・ダンブリーズ、このダンブリーズ公爵家の跡取り息子だ。
この時はまだ3歳だった。
3歳の子が前世の大量の記憶を思い出した。
そんなの耐えられる訳はなかった。
俺は1週間ほど寝込んでしまった。
そして、我が家の養女として連れてこられたのが、アデライン・ダンブリーズだ。
黒髪でくりくりとした黒目の可愛い子だ。この時はまだ2歳だった。
この子が前世の愛韻である訳はないだろう。
俺はそう自分に言い聞かせた。
でも、見た目は確かに違うが、前世の愛韻の仕草に似ているところがあった。特に小首をかしげるところなんかが似ていた。
アインは俺の事を前世のように「オーガお兄タマ」と呼んでどこでも付いてくるようになった。
俺はアインに前世のことを覚えていないか色々と尋ねたが、2歳の子が判る訳はなかった。
でも、俺は心に誓った。
この子が本当の愛韻であろうがなかろうが、俺が命をかけて必ず守ると。
俺は二度と妹を失うのは嫌だった。
アインは好奇心旺盛でいつでも俺に付いてきたがった。
俺がダンジョンに潜ると言うと必ず付いてきたのだ。
まあ、その護衛兼侍女のセイラも付いてきたが……
一度、ダンジョンでゴブリンの大軍に出くわして叩き潰したことがあった。
俺は気をつけていたつもりなのに、アインの可愛い顔にゴブリンが傷つけたと思われる傷が付いていたのだ。
俺は発狂した。
可愛いアインの顔を傷つけるなど許されることではない。
そのふざけたダンジョンはこの世から消滅したのだ。
父からは珍しく少しは手加減しろと言われたが、可愛いアインを傷つけた魔物を許せる訳はなかった。
その後俺は俺の赤髪の色をしたルビーのネックレスと俺の緑の目の色をしたエメラルドを付けた腕輪をアインに送った。両方とも防御の魔術をこれでもかと付与したお守りだ。
これがあれば少なくとも少しは守れると思ったのだ。
アインを攻撃する不届き者が現れても騎士が駆けつけるまでは守れるだろうと、そう考えた。
でも、それは甘かった。
アインが15の時に、公爵領が暗黒竜に襲われたのだ。
我が公爵家の主力の騎士団は北方の国境地帯にいて不在。
父と騎士団の残留部隊だけでは手に負える訳はなかった。
「お兄様!」
俺は確かにその時にアインの叫び声が聞こえた。与えた二つのお守りが割れる音とともに!
「アイン!」
授業中だろうがなかろうがそんなのは俺には関係なかった。
二度とアインを失う訳にはいかない。
俺は肌身離さず持っていた宝剣を掴んで俺は習ったばかりの転移をしていた。
俺がアインの前に転移したら、まさにボケナスの暗黒竜が俺の可愛いアインに牙を向けているところだった。
ガキン!
俺の宝剣と暗黒竜の牙がぶつかった。
「お兄様!」
俺の後ろでアインのほつとした声が聞こえた。
「貴様、よくも俺のアインに手を出しやがったな」
俺は怒り狂っていた。
愛韻を守ると俺が決めたのに、また、前世のように愛韻を俺の前から消そうとしてくれたこの爬虫類に俺は完全に切れていた。
「ギャオーーーー!」
暗黒竜は凄まじい雄叫びを上げてくれたが、それがどうした?
「俺様のアインに手を出した奴は許さん!」
俺は剣を構えると
「死ねーーーー」
叫ぶや、上段から思いっきり剣を振り下ろした。
宝剣の名前は何故かエクスカリバーとかデュランダルという西洋の名前でなくてムラサメだった。
何で日本の名前が付いているのかわからないが……
公爵家に伝わる宝剣ムラサメの力は絶大だった。
俺が全力で振ると、ソニックブレードになったのだ。
真空斬りだ。
ズバッ
「ギャオーーーー」
血しぶきを飛ばして暗黒竜は悲鳴を上げていた。
「くそっ!」
その時は俺もまだまだ一撃では暗黒竜を倒せなかった。
俺は今度は真横に剣を構えた。
「ギャオーーーー」
暗黒竜は必死に逃げようとしだした。
俺のアインに襲いかかった不届き者を俺が逃す訳はなかった。
「死ね!」
ムラサメを真横に振り払うと、
「ギャオーーーーー!」
最後の弱々しい悲鳴を上げて血を吹き出すと、暗黒竜はバタリと倒れて、二度と起き上がらなかったのだ。
ここまで読んで頂いて有難うございます
前世と今世のお兄様でした。
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