屋敷の皆が到着して、私の日常が戻ってきました
私は聖女に胸を押しつけられて魅了されたお兄様に切れていたのだが、その後の焼き畑ならぬ焼き田? をした忙しさの中で、お兄様と話さない訳にはいかなかった。
その間になし崩し的にお兄様と話すようになったんだけど……
こんなに簡単に許していいのか?
翌朝はセイラに準備してもらって食堂に行くと、お兄様が既に座っていた。
お兄様に文句を言おうとしたら、料理を持ってきた人物を見て驚いた。
「アリス! アリスじゃない」
そこには王都の侍女長のアリスがいたのよ。
「アデライン様。遅くなりました。騎士団の輜重隊と昨夜遅くに到着いたしました」
「そうなんだ。王都からここまで移動で大変だったでしょう」
「途中からは騎士団の方々とご一緒出来たので、それほどでもないです」
「でも、騎士団の移動は大変だったろう」
横からお兄様も声を出してくれた。そうだ。騎士団は移動に慣れているからか普通の旅程に比べてスピードが速いのよ。
「いや、まあ、あんな物でしょう。先代様が率いる騎士団とご一緒したこともありますから」
すました顔でアリスは話してくれたが、ダンブリーズの侍女は騎士団と行動を共にすることもあるなんて大変だなと私は思った。
「今まではオーガスト様とアデライン様には色々とご不便をかけましたが、料理長や残りの侍女達も一緒に到着しましたのでこれからはまともな生活になるはずです。後ほど挨拶に来させますね」
アリスの言葉にそうか、料理長も来たのか。アリスの食事も私が作るよりはましだったけれど、それでも料理長の食事には遠く及ばない。
「うわー美味しそう」
目の前に置かれた食事もスクランブルエッグとサラダだけではなくて、ベーコンと野菜の炒め物やチーズを使った乳製品まであった。
これからは食事の時間も楽しそうだ。
「そうだ。アリス、紹介しておこう。ドラの助!」
「はい、こちらに」
お兄様の声にいきなりその後ろに執事姿のドラちゃんが現れた。
「アリス、俺の家来になったドラの助だ」
お兄様が紹介した。
「ドラクエでございます」
ドラちゃんが頭を下げた。
「侍女長のアリスです。ドラクエ様は隠密の魔術でも使われるのですか?」
「まあ、そんな物だ」
いきなり現れたドラちゃんにアリスは驚いていたが、お兄様は笑って誤魔化した。魔物だとはさすがに言えないみたい。
でも、セイラとかセバスにはばれているのに、それで通用するんだろうか?
「オーガスト様。魔物を家来にされるなんて、本当に大丈夫なんですか?」
後でそれが判ってアリスからお兄様は延々と説教を受けていた。
ふんっ、いい気味よ!
「お味はいかがでしたか?」
食事が終わった時に料理長のグスタフがやってきた。小太りの料理長だ。
「とても、美味しかったわ」
私は満面の笑みを浮かべて答えた。
私の子供の頃から公爵家で料理人をしていて、私にいろんな甘い物をよく作ってくれた料理人だ。私がエイブラムに虐められて泣いていた時も美味しい氷菓子を持ってきてくれたし、お兄様が聖女に魅了されて王都の屋敷に帰ってこなくなった時も、私を慰めるために美味しいケーキを作って慰めてくれた私に取って恩人なのよ。
「アデライン様に喜んで頂けたのなら良かったです」
グスタフが笑ってくれた。
「グスタフ、中にトマトが入っていたぞ」
トマトの嫌いなお兄様が文句を言い出したが、
「オーガスト様。好き嫌いは良くありません」
「さようでございます」
アリスの言葉にグスタフも頷いていた。
「夜のデザートはアデライン様の好きなケーキを焼きますから」
「ありがとう。グスタフ。楽しみに待っているわ」
私が喜んで言うと
「おい、アリス、俺に対する時と全然違うじゃないか」
お兄様がむっとしてくれたが、
「ふんっ」
私は横を向いてやった。
その時だ。ノックの音がしてバージルの息子のホレスが入ってきた。
「アデライン様、開墾予定地の雑草を焼くのは一応終わりました。延焼はありませんでした」
ホレスは律儀に私にまで報告してくれた。
「ご苦労様。ホレスは昨日あまり寝ていないんじゃ無いの?」
「いえ、交代で仮眠しましたから問題ないですよ」
ホレスは笑ってくれた。なんかその笑顔もまぶしかった。
「おい、ホレス、報告は俺にするのが基本ではないのか?」
お兄様が横から文句を言って来たが、
「えっ、オーガスト様には今朝父親が伝えたって言ってましたけれど」
「確かに聞いたが……」
「この開墾計画を最初にされたのはアデライン様でこの地の御領主様もアデライン様だから、最後の報告はアデライン様にするようにと親父に言われたんですけど……」
「あのバージルの奴。何も息子を来させることはないだろう」
「まあまあ、オーガスト様。ここはお心を広くもたれた方が」
戸惑うホレスにお兄様が独り言を何かブツブツ言い出したが、セバスに任せておいて
「有難う。でも、北の国境からここまで移動も大変だったでしょう。その後にすぐに働かせてごめんね」
「何をおっしゃいます。北の警備は暇で退屈でしたが、ここはアデライン様の為に働けるので、問題は全然無いですよ」
「まあ、そう言ってもらえたらとても嬉しいわ。でも、ごめんなさいね。あなたたちが国境で頑張ってくれていたのに、結局殿下に婚約破棄されてしまって」
「何をおっしゃっているんですか? アデライン様はこんなに素晴らしい方でいらっしゃいますのに、それを振るなんてどうしようもない王子ですよね」
「本当だな」
何故かそこはお兄様も頷いてくれたんだけど……
「エドワード様はその聖女の胸の大きさに惹かれたのよ。お兄様と一緒で」
私がそう指摘すると、
「おい、アイン! 俺はあの女の胸に惹かれたんでは無いぞ」
「でも、胸押しつけられて喜んでいたじゃない。セイラも見たわよね」
私が後ろにいたセイラを振り返って聞くと、
「まあ、淫乱聖女はアデライド様に無い大きな胸をこれでもかと見せびらかしていましたからね」
私のトラウマにズブリとナイフを突きつけてくれたんだけど……
そうだ、あの女、私に胸が無くて気にしていたのに、これをみよがしにお兄様やエドワードに私の前で大きな胸を押しつけていたのよ!
今思いだしてもムカムカするわ。
「あの女、本当に許されないわ。それとそれに惑わされたお兄様も許さない」
私の脳裏にあの胸を押しつけられてニコニコしていたお兄様を思いだしていた。
私はお兄様を睨み付けたのよ。
「おい、アイン、いい加減に許してくれよ」
「なんかあの時のことを思い出したらムカムカしてきた」
「いや、ちょっとアイン」
「ふんっ!」
私はそれからしばらく必死に謝ってくるお兄様を無視したのよ!
ここまで読んで頂いて有難うございます
続きをお楽しみに








