聖女視点 悪役令嬢の兄が裏切ってくれました
「嘘、お母さん、死んじゃ嫌!」
私が大声で叫んだ時だ。
私の手の平が金色に光って、お母さんを包んだ。
そうその瞬間、私に聖なる力が発現したのよ。
病気で死にそうになっていたお母さんの体を聖魔力で助け出して、私はお母さんを病気から救ったのだった。
そして、その瞬間私は前世の記憶が蘇ったわ!
私は前世、引きこもりの生活をしていた。
何が原因か覚えていないけれど、みんなに虐められるようになり、不登校の引きこもりになってしまったのよ。
その私が必死になってやったゲームが当時流行っていた『グレナンのピンクの薔薇』というゲームだった。ヒロインのメリンダは貧しいパン屋の生まれで、母が流行病にかかって死にそうになった時に、聖なる力が発現して、母を救うのよ。
でも、そんな聖女の力が発現したと判れば教会に連れ去られるから、家族は必死にその力を隠すようにしてくれたわ。でも、一年後に町で火災が起きて家の周りの人々が死にそうになるのを見かねて、メリンダは聖なる力を発揮して周りの人々を救うのよ。
それが教会に知れてしまって家族から離されて聖女として教会で生活することになるのよ。
聖女として教会で生活を始めたメリンダは同時に王立学園に通い出すの。
メリンダはそこでとても見目の良い第一王子のエドワードとその側近で宰相の息子のビリー、公爵家の令息でエドワードの婚約者の兄のオーガスト、それと教会の枢機卿の息子のブラッドの四人の攻略対象と出会うのよ。私はゲームでは当然全員を攻略したけれど、何度も攻略したのは、攻略対象の中で一番見目麗しくで優しい王子様のエドワードだった。エドワードルートは完全コンプリートしたわ。だから完璧だったのよ。
当然エドワードルートではその婚約者のアデラインに陰に日向に虐められるのよ。
メリンダはアデラインによって学園を停学にさせられて、最果ての地に慰問に行かされるわ。
でも、そこで神のお告げがあって、日本人の好物のお米を育てることになるのよ。
その年は雨がよく降って小麦が不作になって、メリンダが作ったお米で飢饉を防ぐのよ。
メリンダは再び聖女として学園に迎えられて攻略者達と仲良くなるのよ。
エドワードルートでは悪役令嬢のアデラインの虐めが酷くなって、最後は破落戸に襲われそうになるのを兄のオーガストが止めてくれて、卒業パーティーで婚約破棄して断罪、幽閉されようとするところを破落戸に襲われて辱められて死んでめでたしめでたしになるゲームなのよ。
でも、このゲーム何が難しいって、エドワードは簡単にメリンダに靡いてくれるんだけど、オーガストが靡いてくれないのよ。オーガストは何故か妹のアデラインを溺愛していて、オーガストを手懐けないと下手したら怒り狂ったオーガストにメリンダが殺されてしまうのよ。
他の候補は簡単にメリンダに靡くのに、オーガストだけは中々靡いてくれないのよ。何回もアプローチして、徐々に仲良くなるのが本当に大変だった。オーガストさえこちらに引き込めればしめたものよ。後は最後の断罪に向けて一直線よ。中にはオーガストがアデラインを監禁するのもあったけれど、まあ、エドワードさえ手に入れば良かったから、私は気にしなかったわ。
『グレナンのピンクの薔薇』の世界に転生できたんだ。
お母さん等は教会に連れて行かれたら大変だと私を護ろうとしてくれたんだけど、私はこの世界に転生できてこれほど嬉しい事は無かったのよ。両親には悪かったけれど、そのまますぐに教会に行ったわ。
だってせっかく『グレナンのピンクの薔薇』の世界に転生出来たんだもの。一日も早くに推しのエドワードに会いたかったもの。
私はすぐに学園に入学できたわ。前世の学校と違って、学園はゲームの通りでとても由緒ある建物で私は感動したわ。聖女だからということで平民出の私もゲーム通りエドワードと同じ2年A組に転入できたのよ。生エドワードに会えて私は感動したわ。
そしてすぐにエドワードとは親しくなれたのよ。その取り巻きのビリーとブラッドとも。でも、オーガストは私には塩対応だったわ。
「ちょっとあなた、エドワード様には私という婚約者がいるのに、エドワード様にまとわりつくのは止めなさいよ!」
そんな私に悪役令嬢のアデラインが接触してきたわ。
来た来た!
それも何度も。
で、何故か私をゴキブリのようにみるオーガストも……
最初に見られた時は怖気が走ったわ。やばい、このままだと殺される。私は恐怖を感じたのよ。
「おはようございます」
「……」
朝挨拶してもぎろりと睨まれてしまったのよ。
それまでは挨拶したら、一応返してくれたのに。
これは本当に不味いわ。オーガストに惨殺されるコースいつ直線じゃない。
もうやるしかないわ。
この手だけは使いたくなかったけれど……私も命は大切よ。
その日もオーガスト様が教室に入ってきた。
「おはようございます。オーガスト様」
「……」
「きゃあ、」
私は後ろから駆けていくと、盛大に転けたふりをしてオーガストに抱きついたのよ。
大きな胸でぎゅっと……
最初は凄まじい殺気を感じたけれど、胸で抱きついた瞬間、オーガストの動きが止ったわ。
やっぱりオーガストも大きな胸がいいんだ。
「も、申し訳ありません」
思いっきりぎゅっと抱きついた後、慌てて私は離れたのよ。やり過ぎて殺されても嫌だし。
「いや、良い」
オーガストは真っ赤になったいたわ。
それからよ。私は朝会うたびにオーガストと接触するようにしたのよ。
できる限り胸を付けるようにしたわ。
最初は避けようとしていたオーガストも段々視線も柔らかくなって、
「キャー、オーガスト様。アデラ様が私を虐めるんです」
アデラインに虐められた時にオーガストに抱きついて助けを求めたのよ。
最初は塩対応だったオーガストが
「アデラ。メリンダ嬢はまだ学園に来て間なしなのだ。貴族の暗黙のルールとかも知らないだろう。そこは考慮に入れてあげる必要があるのでは無いか」
と私の肩をもってくれたのよ。
さすがに私の胸の力は大きかったわ。
それからはドンドンアデラインに塩対応になっていって、オーガストも私に付いてくれるようになったのよ。
エドワードも元々私に付いていてくれたから、後は簡単だったわ。
それで1年後、ブラッドの卒業パーティーでアデラインを断罪したのよ。
あの散々私を虐めてくれたアデラインの顔をエドワードが蹴り飛ばしてくれたのよ。血まみれになったアデラインに私は溜飲が下がる思いだったわ。何回この女に虐められたことか。水を頭の上からかけられるのは可愛いもので、寒い冬の池の中に突き落とされたこともあったわ。危うく凍死するところだった。その後にエドワード様に人肌で温めてもらったけれど、本当に大変だったのよ。
でも、そのアデラインもこれで終わりよ。
後は馬車で最果ての地に護送する途中で破落戸どもに襲われておもちゃにされた挙げ句に殺されるのよ。本当にざまあみろよ!
私がそう思った時だ。
そのアデラインがオーガストに抱き留められたんだけど……何で?
今まで私に胸を押しつけられて喜んでいたのに!
「俺の可愛い妹を傷つけたのは誰だと聞いている!」
怒り狂っているんだけど、失敗したわ。まだ、私の胸の力が足りなかったみたい。こんなんだったら私の体を許せば良かった。
エドワードも蒼白になっているんだけど……
「オーガスト様。いかがなされたのですか? 私はその悪役令嬢のアデラインに破落戸をけしかけられておもちゃにされるところだったのですよ」
私は必死にオーガストに訴えかけた。
「俺の妹を勝手に呼び捨てにするな」
しかし、オーガストは私をゴキブリをみるようにみてくれた。
やばい。殺される。
「オーガスト様!」
私は最後の手段でオーガストに胸を押しつけてすがりつこうとしたのに、
「寄るな! 女! それ以上アデラインに近づくと命の保証はせんぞ」
最悪だ。完全にオーガストにかけた魅了が完全に切れてしまったわ。
怒り狂ったオーガストを前にして、近衛も王家の陰も手が出せなかったのよ。
オーガストはエドワードを脅して、アデラインを最果ての地に幽閉するという案を最果ての地の領主にさせるや、学園から去って行ったんだけど……
ちょっと待ってよ!
アデラインはエドワードに婚約破棄されたけれど、私にした仕打ちについてはおとがめ無しになってしまうじゃない!
「エドワード様。私、これほど悔しいことはありません」
私はエドワードに泣きついたわ。
「おのれ、アデラインめ。メリンダにあれだけのことをしたのに、何の罪も無しでは許されるものではなかろう」
エドワードは王家の陰に命じてアデラインを攫って殺すように手配してくれたのよ。
元々破落戸どもに襲わせることにしていたのだから同じ事よ。
いくらオーガストが強くても四六時中アデラインを見張ることなんて出来ないだろう。
私に逆らったオーガストも貴方の大切なアデラインがおもちゃにされて殺されるのを知って泣き叫ぶが良いわ。
私は楽観していたのよ。
王家の陰が失敗する訳は無いと思っていたわ。
でも、いくら待っても陰からの成功の報告は上って来なかったわ!








