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土の章 第2話 『泥の中の産声』

私の意識は混沌としていた。

それでも、 光がかすかに見えていた。


(……あ、最悪。なにこれ。意識が、自分の形を保てていない。)


それは、手足の先がどこにあるのかさえ分からない、

おぞましいほどの体のばらばら感だった。

さっきまで私を包んでいたはずの、

重力から解放されたような浮遊感は、

唐突に訪れた猛烈な圧力によって無残に粉砕された。


(……痛い、痛い痛い。熱い。狭い。なに、この暴力的なまでの圧縮。)


逃げ場のない狭窄したトンネルが、

私の未熟な骨格をきしませ、

細胞のひとつひとつを押し潰していく。

内側から切り裂かれるような内部の痛みが、

容赦なく神経を逆撫でする。


耳元では、自分のものではない巨大な心臓の鼓動が、

ドラムのように意識を直接叩き続けていた。


(……はぁ? なにこれ、拷問? 逃がしてよ、早く。

逃げ場のない熱量と、

一秒ごとに強まる、逃れられない圧倒的な収縮。

これは、肉体という名の牢獄へ、

私という魂を無理やり引き摺り出すための、

一方的な処刑じゃない。)


頭蓋が歪み、視界が真っ白に染まる。

圧力が最高潮に達し、ヌルリと、

世界に放り出される感覚だった。

肺の奥に、氷の刃のような冷気がなだれ込む。


反射的に喉が震え、胸郭が大きく跳ね上がった。


(……寒い。眩しい。眩しすぎる。 光、音、匂い。

すべての不純な情報が、

処理しきれない解像度で脳に流れ込んでくる。

声を出そうとしても、喉が焼けるように熱くて、

酸素を吸い込むだけで精一杯だ。


視界を覆っていた粘液が剥がれ落ち、

滲んだ世界が少しずつ焦点を結び始める。

そこに、温かい祝福なんて一滴もなかった。)


「……は? 待って。なにこれ、

私……出てきちゃった感じ?

マジで意味わかんないんだけど。最悪。

え、ちょっと待ってよ。

この全身のぬるぬるした不快感、

何? 洗いたての髪が湿気で死んだ時より、

一億倍くらいテンション下がるんだけど。


つか、この状況を『生命の神秘☆』

とかいって美談にしようとしてる奴、

マジでセンス疑うわ。 ただのグロい物理現象でしょ。

映えなさすぎて草も生えない。


あーもぉー、本当に、本当に、最高に最悪。


せめて転生するなら、もっとこう……

課金勢みたいなチート装備ありで、

キラキラしたお城の天蓋付きベッドから

スタートしてくんない?


なんでこんな、冷房の効きすぎた教室みたいに肌寒い場所で、

自分ひとり、生まれたての小鹿みたいに

無防備に放り出されてんの。」


(その時だった。 私の頬に、熱い滴が落ちた。

血と泥に汚れ、ボロボロの鎖に繋がれた、

白すぎるほどに白い細い腕。


私を抱き上げたのは、息を呑むほどに妖艶な、

泥まみれの聖母だった。

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