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土の章 第5話 ザビーヤ小屋の洗礼

空は、濁った鉛色。

舞い戻ったばかりのあいの意識は、

霧のように頼りなかった。

そこに現れた、死の気配を纏った初老の男。


「きたねえな、おじょーちゃん」


男の言葉はつぶてのように硬かったけれど、

その眼光の奥には、捨てられた獣を見るような、

奇妙な同情が揺れていた。

5歳。名前さえ、自分が何者であるかも分からないまま、

あいは男の背中を追った。


たどり着いた「ザビーヤ小屋」。

それは、この世の終わりのような場所だった。


「……っ!!」


一歩踏み込んだ瞬間、

あいの全ての感覚が悲鳴を上げた。

充満するのは、えた血の臭いと、

腐敗した肉の脂、そして処理しきれない内臓の汚濁が混ざり合った、

逃げ場のない「死の悪臭」。


五感の鋭すぎる5歳の少女にとって、

そこは地獄そのものだった。

視界が歪み、世界が回転する。

胃が裏返るような衝撃が走り、

あいはその場に崩れ落ちた。


「うぇーー……げぼぉっ!!」


何も食べていない胃から、

酸っぱい胃液だけが、

ドロドロとした地面にぶちまけられる。

喉を焼くような痛み。鼻を突く、

命を解体する場所特有の、あの「鉄の臭い」。

目の前には、大きな桶。

そこに、まだ温かみの残る真っ赤な血が、

音を立てて注がれていく。


(……ああ。ここは、命を、バラバラにする場所なんだ……)


意識が遠のく中、あいの細い肩を、

大きな、節くれだった手が無造作に、けれど確かに支えた。


「……汚ねえな。だが、これが『生きる』ってことだ、おじょーちゃん」


男の体からは、小屋と同じ、

凄まじい死臭がした。

けれど、その手のひらだけは、

凍えそうなあいの体温よりも、

ずっと温かかった。

あいはその温もりにすがるようにして、

深い闇へと落ちていった。


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