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「どうだったしっ」
教室に戻るとマイカだけが教室に残っていた。遠くで管楽器の音色が聞こえるから、ナージは外で楽器の練習中。サクラは帰ったか、その辺をぷらぷら散歩しているか。
「あの方針で大丈夫だってよ」
「ふうん。意外に素直に頷いたね」
「結局は俺らが何やろうと、本人ここにいるわけじゃないしな」
マイカは一人で魔の取得に励んでいた。女にとってとても便利な魔という存在であるが、感覚的にすぐ利用できるわけではなく、自転車に乗る練習をするように、習得に向けた訓練をしなければならない。最近のマイカは、照明玉を空中で固定させる魔をよく練習していた。
「気づいたらかなり安定させれるようになってんじゃん」
「まあね。これ覚えとくと、夜更かししやすくなるしっ」
理由がだいぶ不純だった。
「……夜更かししてまでやりたいことって、なに?」
「べっ、別にいいじゃんそんなの! ……それじゃっ、今後の歴史の授業は、セゴナの各都市の成立過程だっけ、でいいわけ?」
露骨な話の逸らしかただったが、女の個人領域を侵害するのもデリカシーに欠ける。そのまま話の流れに乗ることとした。
「ああ。その辺を根本的に学んどけば、何か切っ掛けに繋がるかもしれないからな。明日、校長に伝えとくよ」
「すごい遠回りじゃない?」
「どうせ俺たちが思いつくようなことはやってみたし、サクラが来ても駄目なんだから、他の要因があんだよ。切っ掛けってのはさ、案外、とんでもないところにあるもんだ。違う面からも着手するのも面白いんじゃないか?」
「それが三馬鹿で考えたやつ?」
「ああ。あいつらももしかしたら、今回のですんごいのお土産にしてくるかもしれないわけだ」
「だといいけどさっ」
がらっと椅子を引いて立ち上がるマイカ。
「そろそろ帰るしっ。フーミンも遅くならないうちに帰りなよ」
「どうせ一人暮らしだ。誰の心配もかけさせねえよ」
ひらひらと手を振って教室を後にするマイカ。廊下へ出た時に、フーマは思い切ってその背中へ話しかける。
「マイカ」
「なんだしっ」
「心配してくれてありがとうな」
「……別に、あたしにやれることしかやらないし、失敗に終わってももやもやするだけだしっ」
それを言い残して、マイカは早足で駆けて行ってしまった。
「……本当に、感謝してるんだぜ」
行き場のなくなった感謝の言葉を、それでも空気に溶かすフーマだった。




