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やり直しの食卓 〜かの地に生きた営養で、この地に栄養を〜  作者: 日下部時弥
祈年祭

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28/54

3-1

「よっしゃ揃ったぁ!」


 フーマは諸手を挙げて喜んだ。やや遅れてナージやサクラも万歳する。年甲斐もなく一番槍に喜んでいるフーマに、マイカの顔が引き攣っていた。


「おつかれーなーちゃーん」


「おつかれぇさくちゃん! クロックに栄光!」


 いぇーい、とハイタッチを何度もやっている。姦しさに羨ましくなったフーマはマイカとでもやろうと思い、解け切った笑顔でにじり寄る。その様子にまたもドン引きしたマイカは床を滑りながら後退していった。


「いぇーい。クロックに栄光を」


「よかったなフー」


 シャニは素直に受け止めてくれた。やはり持つべきものは男の友人である。


「いやあ、予定より早く終わったとはいえ、それでも期間掛かったなあ……」


 毎日のように創立祭へ向けての準備を進めてニヶ月。開催まで後二日といったところで、準備は軒並み完成した。


「あたしが初等部ん頃にやったのよりかなり小っちゃいけどさっ、この人数だとこれでもすんごい大変なもんだね」


「気づいたら飾りがすげえ増えたからな……廊下とかもはや別空間だろ」


 美術部の興が乗ったのか、ある時にふと廊下を見たら、鏡面のように輝く壁面に、緑と蒼の光が波打つ、海の底をトンネルとしたような空間となっていた。何事かと調査すると、サリエラがやったのだと。壊しさえしなければある程度自由にやっていいとは言ったが、そこまでやれとは言ってない。しかし綺麗なのは確かなので、期間中はこのままにすることにした。


「フー。結局、明日は本番前の休息日ってことでいいのか?」


「ああ。みんなも疲れてきてるだろうし、疲労を残したままだと楽しみきれないからさ。作業に心残りがある奴以外はお休みだ」


「わかった。なら、甘えさせてもらおうかな。久しぶりに山へ登ってくる」


「おおうシャニったら活動的なんだから」


 準備があるのか、シャニは一足先に下校する。明日の朝一には出かけるのだろう。ナゴョミ付近の山々は登山する度に新たな発見がある、とはシャニの談。たまにまだ見ぬ食材を持ち帰るので、フーマとしても土産は楽しみ。


「そういうフーミンはやることあんの? どうせ研究だなんだだろうけど」


「失敬な。俺にだって趣味の一つや二つ、あるわい」


「じゃー、なによそれ」


「川の流れ眺め」


「素朴っ!」


「まあ嘘だけどさ」


「嘘じゃなかったら本気で引くわ……」


 人をなんだと思っているのだろう、本当にそんな趣味を持つ人間に失礼ではなかろうか、と勝手に憤慨するフーマ。そもそも趣味が散歩のマイカに言われたくない。


「ま、あたしは明日は部屋で横になって雑誌とか小説とか読んでるわ。疲れたから休んでたいしっ。なんかあったら言って」


「はいよ。お疲れさん」


「じゃーねー」


 ひらひら手を雑に振りながら、マイカも下校していった。冗談めかしてはいたが、疲労は確実に募っているのが見て取れる。ついつい頼ってしまうから、休める時は休ませたい。


「ねえねえフーくん。学校の鍵って借りても大丈夫かなぁ?」


「鍵? あ、ナージはまだ明日も練習する?」


「うん! 明日は舞台で本番形式に予行練習したいから、まだ学校使いたいんだ!」


「分かった。じゃあ鍵渡すから使っていいよ。演劇部とかも使いたいって言ってるから、戸締りはよろしく。前日に壊れたってなったら目も当てられないからね。ナージが一番お姉さんだからしっかりするように」


「うん!」


 ……本当のところは、必要ないでしょと否定するマイカを強引に言いくるめ、他の誰にも内緒で警備の魔を設置しているから、並大抵なことでは悪意を持っても守れるはず。ナゴョミでそんな悪意を持った人間がいるとは思いたくないし、無駄に終わるのは見て取れる。それでも、前世の高校時代に嫌なことがあったので、どうしてもやりたくなったのだ。我ながらいい性格はしていない。


「フーくんは明日お出かけするんだよね?」


「うん。村人からもいくつか細かい買い出し頼まれてて。俺の行動範囲内で完結するからまとめて買っちゃおうと。ついでにチカキの論文を受け取りに」


「それじゃあ買ってきて欲しいのがあるんだぁ!」


 ナージはルォズヌを開く。若者向けの煽り文を一身に受けた、なんとも可愛らしいピアスを指さした。


「おぉう……」


 楽器関連だと思っていたフーマは、あまりの女の子らしさ全開のものに、意図せず呻いた。そのブランドは、店舗からしてもう、あまりにも女性向けすぎて、男が入るには躊躇われる。


「だめぇ?」


「い、いや、買ってくるよ……」


 そのキラキラした目に中てられるともう駄目だった。弱々しくも許諾の返事をしてしまうフーマ。年下、それも女の子に甘えられるとどうにも。


「あ、ふーま君街行くんだー。街って、サイアキク?」


「ああ。サクラもなんか欲しいのあるのか?」


「ううん。行ったことないんだよねー。なら私も連れてってー。私も行きたーい」


「いいけど、他に用事はないのか?」


「うーんなんにも」


 あっけらかんとサクラは言った。

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