2-14
「……ん。……んん?」
目が覚めた。嗅ぎ慣れた自分の匂いの染み付いた布団に、見慣れた殺風景な部屋の調度。間違いようがない。自分の部屋だ。
ただ違和感だけが、濡れた布のように気色悪く全身を覆っていた。
「……いつ、寝たっけ」
日課をやった記憶などない。脳の戸棚をどう引っ張り出しても、昨日の最後の記憶は……、
「学校を施錠して、下校……下校まで、だな」
呟くことで自分に言い聞かせる。
そこまではかろうじて思い出せる。雲に覆われた月を見て……それも覚えているか。……その後はどうしたか。まるで出てこない。前世で酷い二日酔いした時だってここまですっぽ抜けることはなかった。この身体で酔っ払ったらどうなるかなんて未成年だから知るよしはないが、ともかくそこまでの状態に陥ったというのが異常だ。
もしかしたら数日飛んでいるのでは、などと嫌な予感が過ぎる。だがそれを気にしたところでこの村には時計すらないのだから、現在時刻すら不明だ。太陽は登っているのでそこからなんとか類推するに……いつもの起床時間くらいだ。
「……どうしようもねえな」
悩んでいても話は進みようがない。とりあえずはスゥの世話をして、学校へ行く準備をしよう。今日が果たして登校日かもあやふやだが、それも家を出ないと分からなかった。
「かっる!」
起き上がってみると、自分の身体が異様に軽い。
物理的に体重が減った、というような軽さではなく、遠足の日のワクワク感というか、精神的な楽さがあった。そういえば昔、早番の日は布団の重力が二倍はあったな、などと対比が激しすぎるせいで思い出す。
いつものようにラセリを齧りながらスゥの牧舎に入ると、これまた日常の風景。サクラがスゥを可愛がっていた。
「おはよー。ふーま君」
「おはよう」
「からだはだいじょーぶ?」
「からだって……もしかして、知ってるのか?」
「んー? なにがー?」
サクラに、起きてからの疑問をぶつける。すると返ってきた言葉は、覚悟していたものよりずっとしょぼいものだった。
まだ一日しか経っていない、という情報。
下手をすると数ヶ月といった単位の日々が過ぎているのでは、などと内心びくついていたが、本当に大したことがなかった。
「記憶、ほんとーにないー?」
「ああ……」
かといって大袈裟にするには恥ずかしすぎる、事件性のなさ加減ときたら。「気づいたら半日過ぎてたんだよ!」の台詞にドラマ性など微塵も感じさせない。
スゥの世話を進めながら、具体的に何が起きたのか聞いてみるが、「月を見てただけだよー」としかまともに返ってこない。いやそれ、絶対にとんでもないことが僅か一晩の間であったやつだろうと食い下がるが、サクラの答えは変わらなかった。
「ふーま君男の子だからなんにもないんだってー。しょうーがないねー。ふーま君が女の子だったら心臓爆発してたもんー」
「マジで言ってんの??」
何も思い出せないが、想像以上の出来事があったようだった。
腑に落ちないが、どうしようもないフーマでもあった。
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