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やり直しの食卓 〜かの地に生きた営養で、この地に栄養を〜  作者: 日下部時弥
みんなと。

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2-12

 給食もそぞろに、昼休みに再び校庭で遊び回る初等部の子とサクラを見て「元気だなー」などと思った。フーマも初等部の頃はその口だったのが今思えば驚きだ。たかが三十分にも満たない休み時間で、外に出て遊んで片付けて教室へ戻るというのだから、時間感覚がまるで違う。


 午後になると、ここ一ヶ月ほどは学業はほどほど、専ら創立祭の準備をしていた。


 共同の計画は進み始めている。村のことはある程度大人に任せている。子供である自分たちは、学校に専念できるようお膳立てすらさせてくれた。そこまで甘えさせてもらったなら少しでも盛り上がるものにしたい。フーマの子供であり大人でもある心の一部ががなり立てていた。


 本業のレポートを疎かにすることはできないが、全体指揮を取れそうなのも自分しかいないこともあり、最近ではとても忙しく動き回っていた。


 初等部があれやりたいこれやりたい、と沢山の案を出してきている。予算と時間の都合はなかなか折り合いが悪いが、それでも実現に向けてできる範囲にまとめ上げる。


「フーくん。大洋琴を直したいんだけど、ダメかなぁ」


「うーん。厳しい。かなりぼろぼろだから買い直した方がいいと思うんだけど……こいつ自体が開校当時に寄贈されたって話だから、捨てるのはねえ……」


 グランドピアノそのものではないが、仕組みと形状がほぼ同じな楽器、大洋琴。ナゴョミ校の音楽室に置かれた、唯一の共有物。提供された当時ですら年代物だったらしい。その時ならまだ音は鳴ったらしいが、そこからまともに扱えるのがナージ入学まで現れなかったため、碌に手入れもされていない。


「それで、音楽同好会は演奏会でいいの?」


「うん。【なーちゃん隊】は合奏するって決まったんだ」


「分かった。申請書にナージを代表者としてくれれば、もうちょっと便宜測れるから、後でいいから書いといて。大洋琴は修理できそうな人探してみるよ」


「わぁいありがとぉフーくん!」


 両手を挙げて無邪気に笑うナージと、初等部の五人ほどからなる音楽部。彼女らはよかったねーと喜びあっていた。


「フーくんも楽器できるでしょ? 一緒にやろぉよ」


「人様に見せられる腕じゃないよ」


 その光景を尻目に、フーマは早歩きで次の見回り場所へ急いだ。


 盛り上げるために、初等部の子も積極的に催しを考えてくれている。定番の演奏会や演劇、ちょっとした飲食店まで。来訪予定者数を考えるとほぼ内輪に向けたものに過ぎないし、人数も絶対的に足りていないが、だからこそ村の祈年祭と合同にしたのだ。


 ただまあ、わざわざここまで足を運んでくれた客人は、ナゴョミという土地に育てられた子供たちによる『大人ごっこ』こそ求めてやってくる。子供たからこその可愛さと良さは存在する。それに甘えることはなく、よりよく洗練されたものにするためにも、フーマは少々厳しい基準で許可できるか決めている。企画力がない催しは容赦なく不認可。その分、通った企画はよりよいものにするべく、フーマ自身も案を出し、手伝うことにしている。


「おお、すげえなそれ」


「フーか。どうだ」


「こんなよく作れるよな。図面ないんだろ? お前の頭のどこにそんな意匠を刻んでんだよ」


「これはオレらの魂だからな。風の方からオレに語りかけてくるんだ」


「くー。シャニがそういうと格好良く聞こえるのがむかつくぜ」


 美術室ではシャニが玄関門に飾るモニュメントを作成していた。トゥールスルトで『緑』と『縁』を司る神様、とのことだった。


 他にも数人。展覧させる絵画や彫刻の作成に励んでいた。サリエラという生徒なんかはナゴョミに工房を構えているという、生粋の芸術家だったりする。


 他にも単純に彫刻が好きで、折角だからいい機会だしお披露目してみたい、なんて生徒もいる。


「ところでフー、当日は雨降ったらどうなる? それを気にしてる奴がいるんだが、対策あるなら聞いておきたい」


「ああ、それなら、【晴祈祷師】を外部から呼んでる。例年通りならその時期は晴の可能性高いけど、確証なんてないしな」


「なるほどな。よく呼べたな。一年先まで予定埋まってるって聞いたことあるから、他の方法取るのかと思った」


「村長の知り合いだってよ。こういう時のために交友があるって」


 晴らすことを専門にしている女がセゴナにはいた。空間を閉じ込めてその範囲内には雨の影響がないようにする【晴祈祷師】。実績のある人物のようで、期間中の雨は全く気にしないで構わない、と村長から説明を受けていた。


「なら予定が狂うことはなさそうだ」


「あと何か欲しい物が追加で出たらまた言ってくれ。便宜図るよ」


「ああ。助かる」


 そしてまたフーマは廊下を歩み出す。


「よ。飾り付けは進んでるか」


 教室へ入ると、マイカを筆頭にして、数人の生徒が細々とした小物作りに勤しんでいる。地味でもこういう飾り付けこそ非日常を作り上げる最大の雰囲気となるものだ。安っぽくも手作りであればなんとも学生らしい。


「それなり。フーミンの通ってた初等部ってこういうの、ばーって貼り付けてた?」


「そうだなあ。壁中に貼ってた。あと、糸球がよくぶら下がってた」


「あー、うちもあったわ。どうやって作るのか分かんなかったけど」


「じゃあそれも加えてみるか。……本当は風船使うけど、マイカ、固い泡作れるよな」


「え、うん」


 ぷくっと子供の頭ほどの水の泡を魔で生み出す。受け取るとゴムほどの固さ。ちょうどよかった。


 フーマが何かをするというので、見物客がぞろぞろと集まってきた。そこまで大層なものじゃないから少し気恥ずかしい。


 水で溶いた糊に糸を浸す。適度に隙間を空けて、糸をぐるぐる巻いていく。


「あー、なんかそれ、見たことある。そうやってたんだ」


「最初の数個ぐらいまでは作るのめっちゃ楽しいやつだよな」


「わかる」


 程なくすると糊が乾いて透明になっていく。マイカに目配せをすると、頷いたマイカは泡を消した。残ったのは綺麗な球形に残った、糸の飾り。


「天井に吊るしたりするのが定番かな。女の子が店番してくれるなら、照明を照らしといてくれるとすごく幻想的。ただ、熱量ある照明は駄目な。燃えて火事になるから」


 軽い説明しながら、キラキラ目を輝かせる初等部の子に渡す。


 教室や廊下の飾り付け全般をマイカに担当してもらっていた。如何せん、特に平均年齢が低い班のため、手取り足取り教えなければいけない。こういう時のマイカは、その派手な出立ちとは裏腹に、気のいい姉ちゃん感が際立つ。


「どんぐらい作っとくよ。廊下いっぱい?」


「装飾過多も、なんというか、美しさがないよな……その辺の美的感覚、俺マジでないから多少は任せたい。いっぱいにやって面白い絵面ならそれでいいんじゃないか?」


 開放する場所はさほど多くない。体育館も兼用している講堂。学術発表の展示とそれを語り合う場、それと同時にちょっとした催しをする大教室一つ。大きくはこの二箇所くらいだ。あとはそれぞれの団体が使う細々した場所と、これらに繋がる廊下ぐらい。あまり大仰にしても手は回らないならせめて、ここぐらいは華やかにしたい。


「よし、わかった。姉さんに任しとき!」


 グッと腕を上げるマイカ。こういう時、非常に頼りになるせいで、ついつい頼ってしまう。


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