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44 クリステルの悔恨

「これと同じものがもっと在れば良いのだが」


ルバレロが魔水晶に闇の吸収の呪文を描き、湖の辺に立てかけると、水が魔水晶に吸い込まれていく。

しかし湖は大きい。これでは時間が掛かりそうだ。


「僕の手元にはあと一本しかないけど。これよりも大きくてもっと質の優れたものが在ります!」


ルシオは異空間の湖に沈めた魔水晶を取り出そうとした。しかしご先祖様が、


【ルシオ、それはこのままにしておけ。以前も言ったが、お主にも作り出せるはずだ。試してみなさい】

「え! 魔水晶を作るだなんて、無理! 僕には無理だよ……」


【いや、出来る。ここの魔素を取り込めばもっと巨大なものが出来るはずだ。お主は魔素を取り込めるのだぞ! 何の為にその力をお主が授けられたと思う? 四の五の言わずにやってみろ!】


ご先祖様とのやりとりをしていると、側にいた皆に怪訝な表情で見られていたことに気づきハッとする。


「あ、あの、少し試してみたいことがあるんだ。暫く一人にしてくれないか?」

「ああ、異空間で待っている」

「ルシオ、神の声が聞こえたのでしょう? 私、見ていても良いかしら……」

「……出来るかどうか分からないんだ。見ていても良いけど期待はしないで貰いたい」


クリステルもそれを聞き見て見たいという。ルバレロまで異空間に戻らないことになってしまった。


仕方が無い、失敗して恥ずかしい思いをするかも知れないが、考えてみれば、みんなはルシオが何をしようとしているのか知らないのだ。

失敗しても何が起きたか分からないはずだ。


ルシオは湖に入り、左手を水に入れ神に祈った。要するに神に丸投げした。


――私の身体を使ってください。神よ。


意識が遠のいていく。時間の感覚も分からなくなっていく。ルシオはそれに逆らわず意識を手放した。


暫くして意識が戻ると、目の前に巨大な魔水晶がニョッキリと立っていた。

直径は十メートル以上在りそうだ。高さは三十メートルはあるだろう。

魔水晶の森にある知識の魔水晶に似ているがそれよりもずっと太い。

周りで見ていたみんなは言葉も出ない。ただ呆然と見上げるだけだった。


「……これなら何とかなりませんか?」

「……あ……そうだな……今呪文を描く」


ルバレロに呪文が描かれた魔水晶は、ぐんぐんと水を吸い上げていく。数日すると、湖の水は干上がった。そして、中央の禍々しい魔素が残った。


近づくと、どろりとした粘性のあるものだ。

「これを、異空間収納に入れてみます」


クリステルは、意を決して異空間収納に魔素の原液を入れる。

暫くするともう入りきれないと彼は言った。


「まずは様子を見よう。クリステル、どうだ? おかしな所は有るか?」

「いえ、全く。異空間収納には問題ないようです」


その後、ルシオが魔素の原液を取り込んでいく。

段々魔素がなくなり中央に五メートルほどの穴が見えてきた。

穴の中にはまだ魔素が在る。

これを取り込むには地中深くまで降りてゆかねばならない。

以前魔水晶の森でやったことを思い出した。小舟を浮かべ吸い取っていった。だが、すぐに船は地面についてしまう。

近くに二メートルほどの隕石があった。

隕石を収納すると、更に一メートルほどの穴が開いていてそこからどろりとした魔素の原液が溢れてきている。


「これはどう言うことだ? 隕石の下に更に深く穴が開いている」

【これは、サンティシマ・ロペスが明けた穴だ】


「! 何故この様な無茶なことを……」


【彼は、知識欲に侵されていた。呪いの呪文を完成させるために地下深くから魔素の原液を取り出す為に掘った井戸だ。その後、土魔法で塞げば大丈夫だと高を括ったのだ。だが数百年後、其処に火の玉が墜ち、魔素を押さえ込んでいた蓋を火の玉が打ち抜いたのだ。ここの有り様は、人災だ】


「この穴の深さは? どれくらいだ」

「一千メートルはある」


クリステルが、眉間にしわを寄せ厳しい声ですかさず答える。

ルシオは一瞬、クリステルがご先祖様との会話に割り込んだような錯覚を起こした。


――まさかな、ご先祖様の声が彼に聞こえるはず無いじゃないか。余りにも意外な展開に頭が混乱したせいだ。


「この穴は小さすぎる。ここを降りながら魔素を吸い上げていくのは無理だ……どうすれば良い?」

「ルシオ、私が君を掴んで飛行魔法を使えば何とかならないか?」

「……そうだな、そうしてくれ」


――流石戦闘魔導師だ、深さまで把握できるなんて……しかも人を抱えて飛行魔法を使えるんだ。


そんな益体もない事を考え、逆さまに吊されながら淡々と魔素を異空間収納に入れていく。決まりの悪い姿だが仕方が無い。


一キロは降りたはずだがまだ、本元が見えない。

結界を張っているが、閉所に閉じ込められる何とも言えない閉塞感と魔素の圧迫感が気持ち悪い。

漸く底に辿り着いた。底には十センチほどの穴が開いて、どろりとした魔素の原液がボコッと音を立てながら湧き出している。

ふと上空を見ると、ソフィアも付いてきているのが分かった。


「ソフィア! 君はここへ来てはいけない」

「大丈夫よ。亀裂を閉じれば良いのよね。私にも手伝わせて」

「そうだな」

「このまま固定しても良いかしら」

「ああ」


ソフィアに堅固な土魔法を掛けて貰い、穴から一旦外へと逃れる。


ソフィアは、今度は外から深い穴を埋め始めた。ルシオとクリステルは側でその様子をじっと見ている。


ものの一時間もすると、すっかり穴は塞がった。

「後は、浄化した湖の水を放出すれば良いだけだ」

「待ってくれ、この埋めた穴の上に小島を作りたい。以前の聖地のように……」


 ルバレロの願いを聞き届け、皆で、湖の中心に島を作った。

少し大きめの島だ。ブルホと同じくらいに出来上がる。

巨大な二本の魔水晶から漸く水を放出し始めた。


「魔水晶はこのまま浄化し続ける。まだ土には魔素が濃く染み込んでいるからな」

湖から流れ出る水はもう赤くはないが、遠く西を流れている川は、まだ赤い。これが綺麗になるまでは、千年単位の年数がかかりそうだ。


「西に流れている川は大きい。彼方は被害が大きいと予想されるな。師匠が逃れてくるわけだ」


大陸の西側は人など住めない魔境になっていそうだ。元通りになるには、どれくらい掛かるだろうか?


【数千年はこのままだろう。だがお主達のお陰で、暫くすれば東や南は安全に住むことが出来る様になる。よくやったルシオ、これで使命は終わったぞ】

「え、これが僕の使命だったの?」


【数十年は掛かると思っていたが、意外に早く終わったな。後は好きにすれば良い。その内に新たな役目が出来るかもな】


――あの縦穴は、壁が土魔法で固められて井戸のようになっていた。サンティシマ・ロペスが作った井戸だ。彼は自分のせいで魔素が噴き出したと知っていたのだろうか?


浄化も無事に終わり、ルシオの異空間で皆が寛いでいる。

「素晴らしい空間だな。魔素が澄み切っている」


ルバレロに褒められて少しだけ照れるルシオ。


「ルシオ、私の呪いを解いて」

「良いのかい? 折角死ねない身体になれたのに」

「終わりがないというのは疲れると思うの……ルバレロさんどう?」

「そうだな、私も解いて貰いたい。穢れは東には影響がなくなるだろう。もう十分だ。私は自然に生涯を終えたい」


ルシオは二人の呪いを神に祈って解いた。そして自分の呪いも解く。


「クリステル、君の番だ、解くよ」

「……いや、私のは解かなくてもいい……」

「……そうか……でも僕が死んだ後は……どうする?」

「これは自分に対しての罰だ。甘んじて受ける……」


クリステルの言っている事の意味がが分からない。彼は何を考えている?


「私の前世は、サンティシマ・ロペス。ペケーニョの魔導師達から始祖と呼ばれている存在だった」


「!嘘だ、師匠は死んでいない。死ねないはず……」

「ルバレロ、お前も今見たであろう。ルシオ魔道師は自分で術を解くことが出来る。私もかつては出来たのだよ」


クリステルは、まるで別人のようだ。威厳まで感じられる。


「クリス……サンティシマ・ロペスさん。何故今頃になってそんなことを言いだしたのですか? 以前から知っていたのに黙っていたのですか?」

「あの魔道師の試練……選別の時、大きな罪を犯して逃れてきたと感じた。それまでは、自分は慈悲深い人間だと……清廉潔白な人柄だと疑わなかったのだ。私は愕然とした」


クリステルが、生まれ変わりに気が付いたときには、また魔道師となっていた。彼は、ここにまた生まれ落ちたのには神からの罰ではないかと恐れた。

選別の時、神に願った。「どうか二度とあのような立場に立ちたくない。才能など要らない。一人で生き一人で死にたい」と。


神官魔導師の才能がありながら、神を拒んで、総てから目を反らしたクリステルは、戦闘魔導師として生きて行くことになった。


だがこの大陸に来て、ルバレロに遭い、そして魔素の井戸を見たときハッキリ思い知った。「アレは私の責任だった」と。



「あの頃の私は自分の才能に酔っていた。だが、人の命は短すぎる。

研究は道半ばだ。

そんな時、濃い魔素で死ねない身体を作ることを閃いたのだ。

まるで悪魔のささやきだった。

私は地中深く井戸を掘り、魔素をくみ上げそして、またくみ上げるときのために薄い蓋をして置いた。

魔法使い仲間に呪いを教え、描いて貰った。

仲間にも描いてやったが、彼は年を取り過ぎていた。

描いている途中で息絶えてしまったのだ。

それを見た私は、「ひ弱な奴だな」と言う感想しか持たなかった。

ルバレロにも術を施してやったが後は面倒になって、術をかけてくれという要望は受け付けなかった。

必要が無くなった井戸のことは年数と共に忘れ去っていたが、在るとき火の玉が墜ちて、聖地は壊滅した。私は西へ飛ばされた。

其処に安住の地は無かった。

直ぐに濃い魔素が追いかけて来て人々は次々に死んでいく。

数百年後、東へ移住しようと、残った魔法使いを集め旅に出た。

途中、魔素の吹き出し口を見付けた。

近づき、見ると私が開けた井戸から魔素が染み出ているのを発見した。

私は恐ろしくなった。対処しようにももう手遅れだと思った。

後ろめたさから、北東へ逃げた。

東には地峡と繋がる島があることは分かっていた。

自分が原因で壊してしまった大陸から逃げたのだ。

途中ルバレロに再会した。

彼もここに置いては置けないと思ったが、ルバレロは民のために残ると言った。

私は益々身の置き場がなくなった。ただ、ひたすら逃げた」


その後彼は、ペケーニョ島に辿り着き、マヨール国を起こしたという。


その頃のペケーニョ島は未開の地で、現地の人々は、野人のような暮らしをしていたそうだ。

彼等の中には魔力を持つ者もいたが、使い方もよく分かっていなかった。

魔力を持つ子供を集め教え導き、充実した数百年の日々を送った。


在るときブルホという土着信仰の話を聞き、ロマゴへ赴き、ブルホの聖地を見せて貰った。

其処の魔水晶の森を見て、過去の自分が侵した罪に押しつぶされたという。

火の玉が墜ちる前は、大陸の聖地も同じような清廉な場所だったのだ。


その後彼は、ブルホを魔道師の学び舎として築き上げ、下地が出来たと確信した頃、自ら呪いを解いた。

呪いがなくなって数年で死んだそうだ。


「私はこの身をここの聖地に捧げようと思う。神に赦されるまで、あの場所を浄化し守っていく。この命を神に取り上げられたとき、私の罪は消える……そう思いたい」

「師匠、とてつもなく長い年月、生きていかねばならないかも知れないのですよ!」

「そうだ……多分、私の罪は長い間許されないだろうな……」


彼の罪は逃げたこと。それだろう。

井戸を掘ったこと自体も馬鹿な行いだったが、力ある者には責任が伴う。

自分のしでかした後始末もせずに……彼は怖じ気づき逃げた。

クリステルは今度こそ逃げずに踏みとどまり力を尽くすはずだ。

だが、それはとてつもなく長い道のりになるだろう。


ルシオは、「クリステルの意識下の異空間は今も迷宮のままだろうか?」と、ぼんやり考えていた。



異空間の草原を複数の馬が駆けている。

ルシオは忙しさにかまけて、バーリョのことをほったらかしにしていた。

バーリョは四頭の馬を引き連れて走っている。

「ん? 四頭……」

一頭はまだ小さい。バーリョの子がいつの間にか生れていた。

一頭はパブロ魔導師が置いていった馬だ。パブロ魔導師の馬も雌馬だった。

一体どの馬が産んだのだろう。


どちらにしてもバーリョの子に変わりは無さそうだ。子馬は生れて間もないのか、ひょろひょろしている。だが元気そうだった。


「可愛いわ、やっと生れたようね。まだ次も控えている」

「え、まだ生れるの?」

「まあ、ルシオったら。見て見なさいよ。ロロのお腹が膨らんでいるでしょう」

「……本当だ。バーリョはハーレムの王だな」


「フフ、そうね。ハーレムと言えばアレハンドロ魔導師は、どうしているかしら。行ってみましょう」


そうだな、もう神からの依頼からは解放されたのだ。

暫くは大陸中を見て周り、転位陣を敷き、それが終わったらカリカピタルの店にも顔を出そう。

クリステルのことをブルホの神殿長にも話さなければならない。


ウゴは、元気にしているだろうか。兄達は、マテオ錬金魔導師は……。

行こうと思えば何処へだろうと一瞬でいけるのだ。

ルシオは今、仕事をやり遂げた充実感と開放感に満たされていた。


次巻『神のリワード』に続く

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