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41 かの大陸の魔導師

ここに来て一ヶ月が過ぎた。

大量に持ってきたはずの加工肉が底をついて、魔物肉の仕入れをするようになった。


ソフィアが張り切って差配をしている。

討伐隊を組織し、主に生活が苦しい鬼人達を使って魔物の仕入れをしているのだ。


「森に住むバハライ、オソ、コネホは特に美味しいから、それを狩ってきて」


討伐隊に指図している姿はまるで女頭領のようだ。

バハライとはイノシシのような魔獣だ。体長が三メートルを優に超える堅い鎧に包まれた魔獣で、オソは熊に似た魔獣だ。

コネホはウサギの魔獣だが、後ろ足が発達している。

機敏な動きをする魔獣でこれも一メートルを超える大きさだ。


討伐隊が狩ってきた魔獣は、街の外れの加工所に持って行き、新たに雇った鬼人に加工を任せている。

湖がすぐ側にある場所だ。

加工方法はもう周りに知れ渡っていて、同じ商売をする商人も、ちらほら出てきた。

出来上がった加工肉は必ず鑑定に掛けられて食品品質表示がきちんとなされる。安心安全な食品監理だ。


魔物肉は旨いと言うのが知れ渡って、この頃は湖で採れる魚の売れ行きが鈍っているそうだ。


「商売は順調だ……が……クリステル、僕達の目標はここの君主に会って話を聞くことなんだ。君主と渡りが付けられないか?」

「君主は今、ここにはいないそうだよ。新しい街の建設予定地に行っているそうだ」

「そうか……困ったな。大陸の地図がそろそろ出来上がりそうだ。昨日確認してきた」


出来上がっているというのは大げさだが中央地帯は終わったようだった。

多分あの中に問題の場所があるはずだ。

時間を掛けてじっくり見なければならないだろう。


「なら、各地に転位陣を敷く仕事が出来たか。先にそちらを片付けたほうが良いかも知れないな」

「いや、それはまだ早い。君主は何処に行ったか分かるか? クリステル」

「ここから三百キロほど離れた海沿いだという話だ」

「そこへ行ってみないか?」


ソフィアに相談すると――ここは自分に任せて、二人で行ってきたら――と言うことだった。

ソフィアは、この商売が愉しくて離れがたいようなので、ここはソフィアに任せることにする。


彼女も異空間が出来るようになっている。

前回のことがあったので彼女も本腰を入れて取り組んだのだ。


ソフィアの異空間には海が出来上がっていた。

海に浮かんだ小島。それがソフィアの異空間だった。

島はとても小さく、三百メートル四方の島だが、海は何処までも続いているように見える。


どう言うことなのか良くは分からないが、彼女が言うには異空間収納を作る時、海を思い浮かべたのだという。

もしかするとソフィアの異空間収納はとてつもなく大きいのではないだろうか? 確認する方法はないのでそっとしておくことにする。

万が一の時はそこへ逃げ込めば良い。


三百キロならドローンを飛ばせば数時間で着く。

ルシオの異空間の地図タワーで見ながら探すと、間もなくそれらしい場所を見付けた。ドローンを着陸させ、直ぐに転位する。


異空間からクリステルが出てきて二人で周りを探索していると、魔法使いらしき人物が空から降りてきた。


顔中が呪文でビッシリと被われた人物だった。


【彼が、かの大陸の魔導師だ】


ご先祖様が言うからにはそうなのだろう。だが、若い。

どう見ても二十代にしか見えない青年。

黒い髪の毛に黒い目。肌色は薄い紫色のようだが、呪文が描かれているため暗い色に見える。


「君達は何者だ? 転位を使う魔法使いとは……一体何処に隠れていたんだ。呪いは描かれて無いようだが…………何処で、誰に教えて貰った?」


ルシオ達もかの大陸の魔導師も、お互い結界を張っている。

警戒をしているのだ。これから戦いになってしまうのか?

ルシオが口火を切った。


「僕達は、ブルホの魔導師です!」

「!ッブ、ブルホだと!」

「僕達は、貴方に聞きたいことがあります」

「……話だと! 私にあのような真似をさせた、ガガロ神官魔導師の手先か!」


彼は攻撃してきた。強力な雷撃だ。

バリバリと結界が震えたが、クリステルの結界はそれをしのいだ。


かの大陸の魔導師からは、それからも何度も攻撃を受けたが、ことごとく結界に阻まれてしまう。


「せ、戦闘魔導師か。クソッ!……何故攻撃しない! 殺せるものなら殺して見せろ!」


何となく話が通じていない。ガガロ神官の手先? 

あの、灰になった魔導師が、彼になにをさせたというのか。

結界を解かないまま、ルシオは話始めた。


「僕達は、貴方に聞きたいことがあります。何故、魔導師を迷宮の核にしたのか。何故、農場の塔を作ったのか。そしてあれ以来何故ブルホに侵略してこなかったのか」

「…………侵略……?」

 

ルシオは結界を張ったまま、彼にこれまでの経緯を話した。

彼は大人しく聞いている。結界は解き、攻撃もしてこない。彼は結界を解くとき――どうせ私は死ねないから結界は意味が無い――と言った。


「私は、侵略が目的ではなかった。それは誤解だ」

「では何の為に? 農場の塔まで造ったのですか?」

「あれは、ガガロ・レメディオ神官魔導師に頼まれたからだ」

「レメディオ?」

「私を騙して、私に罪をなすりつけた神官だ」

「「…………」」

「……君達はこの大陸を見てどう思った?」

「大変苛酷な環境だと思いました」


「そうだ、苛酷なのだここは……私の造ったトニス国はもう無くなってしまった……ブルホから逃げ帰ったら、街は酷い有り様だった。聞くところによれば、大きな地揺れがあり、街の建物は瓦解した。それでも街の魔法使い達は復興をしようと奮闘したようだ。だが今度は次々と魔物が湧いてきた。住民は殆ど喰われて仕舞った。私達は生き残った者達と一緒に海沿いの私の別荘が在った場所に街を作った。今そこは、北下区と呼ばれている。それからも私は、各地を廻り街を作っていった」


かの大陸の魔導師の名は、ルバレロ・トニス。トニス国の君主だった。


彼は、一千年以上生きた魔法使いだ。

建国当初から千年、トニス国を治めていた唯一の君主だ。

だが、長く生きすぎて膿んでしまったという。

呪いの術を解くため、トニス国を他の魔法使いに任せ、師匠が逃れていったペケーニョ島へ行って師匠に呪いを解いて貰おうとしたのだ。

呪いを解くには力ある魔法使いでなければ無理だ。

彼の周りには力ある魔法使いは一人もいなかった。


師匠も死ねないのだから、生きていると確信していたという。


地峡を渡り、南下して行きながら言葉を覚えていく。各国を見て周り、魔導師が治める国、ロマゴ国に師匠はいるはずだと思ったそうだ。


顔中に呪文が描かれているため、認識阻害を掛けながらの旅は、窮屈だっただろう。

一年後、ロマゴの辺境、オエステ領に着いたとき立派な神殿に目を奪われた。


神殿に入り其処にある魔水晶を見て驚いた。

暫く祭壇の前に佇んで魔水晶を見ていると、そこの神官だったレメディオ神官魔導師に彼の認識阻害を見破られてしまった。


レメディオ神官魔導師は、才能豊かな魔導師だった。

三十代前半で、オエステ神殿の神官長を務めるほどに。


彼と友達になり、ロマゴの魔法を教えて貰うが、ロマゴでは空属性が知られていないことに、思うところがあった。

 彼等の始祖の話も聞き、ルバレロは師匠は確かにここにいる、そう思ったそうだ。だが、


『始祖とは、師匠の事ではないのか? だとしたら何故、空属性を広めなかった?』

 

師匠は何処を探しても見付からない。死んだなどとは思えない。

魔導師達が集まるブルホへ行けば、見付かるかも知れないと考えたのだ。


レメディオ神官魔導師は、言葉巧みにルバレロの魔法鞄や、聞いたこともない不思議な農場、転位を聞き出し、瞬く間に親しくなっていった。


レメディオ神官魔導師は、ブルホに彼を連れて行った。

彼は喜び勇んで付いていったが、ブルホにも師匠がいないことを知り、がっかりしてしまった。だが、力ある魔導師がここにはいた。


彼は、レメディオ神官魔導師に呪いの術を教え、解いて貰おう考えたのだ。

レメディオ神官魔導師は、魔水晶の森を見せてくれる。

余りの素晴らしさに言葉を失った。


「これがあれば立派な農場が作れる」


魔法鞄が欲しいというレメディオ神官魔導師に作ってやろうとしたが、魔法鞄の材料はロマゴでは手に入らなかった。レメディオ神官魔導師は、


「君が話してくれた農場を先に作ってはどうだ? そこに転位陣とやらを敷けば良い」


魔導師達は、農場を見て感激したそうだ。岩石が覆う山がちなブルホは農地が少ない環境だったためだ。

その後農場に転位陣を敷き、グランデ大陸で魔物を狩り戻って作る。

レメディオ神官魔導師もトニス国に連れて行った事もある。


「彼は、角があるトニスの国民を見て驚いていたがな……」


百ほど魔法鞄を作ったところで、レメディオ神官魔導師に言われた。


「空属性は他の魔導師に教えてはいけない。私達だけの秘密にしよう」


ルバレロも――師匠が教えなかった魔法だ、これは秘密にした方が良い――そう考え、納得したのだ。


ルバレロを、大陸一の魔導師だと紹介したのもレメディオ神官魔導師だ。

彼は、ブルホを国に頼らず独立したものにしようと言い出し、農場を作る事業を立ち上げ、次々と改革していく。

魔導師達の中から数人選び手伝わせる。

ルバレロは、彼が何をしたいのかよく分からなかったが、友の言う通りに素直に言われるがままに振る舞った。


そして在るとき、レメディオ神官魔導師は自分に呪いの呪文を描いてくれと言いだした。


この時も素直に従った。『死なない』というのは魅力的なことだと知っていた。かつての自分もそうだったのだから。

だが、長い年月を生きれば膿んでくると忠告もした。それでも良いからと言われ、呪文を描いたのだ。


彼は何故か敵対勢力の魔導師達にすり寄り、農場の建設の手伝いを持ちかける。殆ど出来上がっているのに、何故? そう思った。

農場は軌道に乗り出したが、たまに人がいなくなると騒ぎになった。

ルバレロは、レメディオを問い詰めた。


「君がやったのか? 大陸に人を連れて行って何をさせるつもりだ?」

「魔物素材を狩って貰っている」


そして、ルバレロにこう持ちかけた。


「ブルホの魔導師に、魔法鞄を作らせる。魔物が必要だ。だが、グランデ大陸へ行っても中々思うように行かない。いい方法はないか?」


ルバレロは――動物に濃い魔素を与えると魔物に変わると彼に教えた。


迷宮は、レメディオ神官魔導師が思い付いたものだ。


「軟弱な戦闘魔導師や魔法兵を鍛えるには持って来いだ」

彼はそう言っていたが、ルバレロには無い発想だった。『態々魔物を作り出すなど考えられない』


レメディオ神官魔導師は優秀だった。

異空間の応用を思い付き、次々にアイディアを膨らませていく。

気が付けば、ルバレロが全く知らないものが出来上がっていた…………そして、魔物が溢れた。


何故そうなったかは分からない。兎に角、ブルホは壊滅的な被害を受けた。

レメディオ神官魔導師は、「ルバレロは、グランデ大陸からの侵略者だ」と言いだし、彼は捕らえられてしまった。


この時になって始めて、自分は嵌められたのだと気が付いた。


裁判の前日、レメディオ神官魔導師が来て彼を魔水晶の地下に連れて行き、

「お前が裁判に掛けられては私の事がバレてしまう。お前にも核になって貰う。死ねないのだから丁度良かろう?」


ニタニタと笑いながらそう言って、ルバレロに魔水晶を突き刺そうとした。

無我夢中で抵抗し、レメディオ神官魔導師を返り討ちにしたのだ。

もみ合っている内に偶然、彼の目に魔水晶が突き刺さった。

ルバレオは、その時のことを不思議だと言った。


――どう考えてもレメディオ神官魔導師が自分で刺したとしか見えなかった――という。


暫く暴れ回るレメディオ神官魔導師を呆然とみていたが、今まで彼に騙されていた怒りがふつふつと湧き出してきた。


「お前だって死ねない、永遠にここで苦しめ!」


痛みで暴れているレメディオ神官魔導師に強力な拘束と隠蔽を掛けた。

ルバレロは、逃げた。

塔の上階へ、転位陣がある農場へ行き、そこからトニス国へ転位したのだ。


その後、トニスの惨状を知り、街造りに奔走することになる。

ルシオ達は、ルバレロの長い話を聞き終わり、ほーっと息をついた。そして、


「ルバレロさん。もし、まだ呪いを解きたいと思っているなら、僕が解いて差し上げます」

「!!!!」


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