40 大陸の地図
ルシオは拠点の魔水晶のタワーにいた。
もうそろそろ大陸の中心まで探索が進んでいそうだ。
大陸の沿岸まではまだだろうが、ルシオが知りたいのは中心部だ。
タワーに魔力を捧げると、立体地図が出来上がっていく。
まだ不完全な地図だ。
「もう暫くは掛かりそうだな。それにしてもなんて大きな大陸なんだろう」
今、分かっている部分だけでもとてつもない広さだ。
そして、砂漠しかない。ここの拠点は砂漠の端に位置するようだ。
仕方がないので、以前考えていた端末の制作をすることにした。
三日掛けてソフィアと一緒に作り上げた端末は三十個。
取り敢えずこれだけあれば、ここに来る魔導師達には十分だろう。
「ルシオ、これ、ブルホまでは通じないのかしら……」
「どうだろう……多分無理だと思うけど、地峡の両端に中継地を設ければ可能かも知れないね。でも、今は時間が無い。落ち着いてから試してみようか?」
「そうね、転位があるし、すぐに必要は無いと思うけど……」
「何か考があるの? ソフィア」
「以前言っていた未来の事よ。神はこの大陸と交流している姿を一瞬だけ私に見せた。それは素晴らしい世界だったわ。空を大きな物が飛び交っていて、人々は憂いがなさそうだった」
「……空を……飛行機……かな?」
「でも、あくまでも可能性と言うだけ、決まった未来ではないみたい。私達の行動次第で未来も変わるかも知れない……」
何が正解かなど、分かるはずもない。心のままに、時にはご先祖様に聞きながら歩んでいくしかないのだ。
「地図はまだ未完成だった。これから神殿長にこの端末のことを話しに行こう」
※
神殿長の何時もの異空間に何時ものメンバーが集まった。
「タワーに地図以外の機能を付けてくれたというのか?」
「はい、最高品質の魔水晶だったので、ついでに作っちゃいました」
「ついで……でか。ルシオ、その端末はグランデ大陸だけのものか?」
「今のところは。ソフィアは、地峡の両端に中継地点を設ければペケーニョ島にも通信が届くのではないかと考えているようです。ですが今は作れません。他に心配なことが出来ました」
「他とは?」
「バイアレと言うところへ行かなければ、ハッキリとしたことは分かりませんが、そこに、かの大陸の魔導師がいそうです」
「そうか、また面倒なことに成らなければ良いが、無理をするなよ」
出来上がった端末は、パブロ魔導師達が人選をしてから、それぞれに渡すようだ。
「ところで、魔物の肉を食べても大丈夫だというのは本当か?」
「まだ、検証が出来ていませんが、私とソフィアは、今のところ変化はありません。何年も掛かる検証です。もし万が一魔物化したら……こちらに迷惑掛けないように大陸で生きていこうと考えています」
パブロ魔導師はルシオの話を聞き激昂した。
「ルシオ! 何と言うことを……すぐに検証を止めなさい。余りにも危険だ」
「いえ、大丈夫です。魔物化したとしても、鬼人達は自我を保って居ます。魔力がどうなるか分からないのが一番の懸念ですが……」
それにルシオは、ご先祖様に大丈夫だと言われたのだ。
ここで言うことは憚れるが、ご先祖様が保証してくれているのだから心配はいらない。
穢れた魔素は元は魔素の濃縮液だ。
ご先祖様は神から漏れ出したものだと言ったが。その事実を知れば、神殿長でも恐れ慄くのではないだろうか? 総てが解決してから神殿長達に話そうと、ルシオは考えている。
濃い魔素が薄まれば、普通の魔素と同じ物なのだ。大陸の内陸にあると言う魔素が噴き出す場所を見付け、それを押さえ込めれば、また、ゆっくりと落ち着いていくだろう。
それがルシオに科せられた一番大事な使命なのだから。
※
ルシオとソフィア、それにクリステル。今回は三人でバイアレを目指す事にする。
アレハンドロには新たな仕事が与えられたからだ。
彼は、大陸の拠点の神官長の役割が与えられた。
ここに設置した神殿の祭壇に魔水晶を持ってきた。
転位陣の管理もしなければならない。
「あちこち行かなくて良くなったが、ここにずっといなければならないなんて! こうなったら女の子を沢山連れてくる。俺はここにハーレムを造るぞ!」
アレハンドロは、不満なようだが、ここに神殿を造った張本人だから、責任を持って貰おう。
転位陣があるから、ある程度自由に行動でき、それほど窮屈でもないはずだ。
鬼人達はこの場所を”シュバリス”と呼んでいる。
その為拠点もシュバリスと呼ぶことになった。
アレハンドロの他にも数名、シュバリスに魔導師達が常駐することになった。見習いも数人いる。戦闘魔導師や錬金魔導師達だ。
その内、一般の商人や職人も来ることになるようだ。
ここに来る予定の人達は、言葉を何とかしないといけない。
その為に今は猛勉強しているという。
鬼人との軋轢を生まないためだ。
言葉の行き違いや見た目で反感や差別を持つことがないようにしなければならない。
鬼人達は温和な人が多いが、ペケーニョの人々はどうだろうか?
ルシオ達がバイアレに行っている間、何も問題が無いことを祈ろう。
先行して飛ばしたドローンから街が形成されつつある。
高い山脈を越えたところに街はあった。
山裾には森が広く広がっていて草原が続きその先に湖を抱えた街があった。
早速ドローンを着地させ、転位した。
ソフィアとクリステルが異空間から出てきた。
ドローンを仕舞い、三人で周辺を見まわして、転位陣を敷く場所を探す。
「街からは結構離れているな。三キロ程か?」
「もう少し近い場所に行ってみましょう。余り離れていても不便でしょう?」
異空間から転位出来るルシオに取っては不便ではないが、クリステルには不便だ。まだ彼には制限を外した転位陣のことを話していない。
アレハンドロやクリステルがいるところでは気を付けて異空間での転移を気付かれないようにしていたが、本当は自由に使いたい。
便利さが格段に違うのだから。
自分で秘密にしたいと言った手前、何とも決まりが悪い。
話しても良いだろうか? 仲間一人が不便な思いをするのは可哀想だ。
「え! 異空間から何処へも行けるだって!」
「そうだよ。自分の異空間に転位陣を敷けば、そこから好きな転位陣へ転位出来るんだ。どうする?」
「……と言うことは、その転位陣がある人は誰でも私の異空間に来る事が出来ると言う事にならないか?」
「……それはそうなんだけど、特別な鍵を造れば大丈夫にしておく」
「…………このところ、度々パブロ魔導師が君の異空間に来ていて不思議だったんだが、それが原因だな」
「……うん……」
クリステルは今まで通りで良いと言った。
要するに転位陣はいらないと断られたのだ。
――そうだよな。普通は自分のプライバシーは侵されたくはないはずだ。
ましてやクリステルの異空間はそれほど大きくは無いのだ。
鍵があると言っても、神殿長やパブロ魔導師などには隠しては置けない。
鍵を渡せば、自由に出入りされてしまうかも知れない。
「それなら、やはり街に近いところに転位陣を敷こう。その方がクリステルにとっては良いだろう」
「転位陣は必要無いのでは? 殆どルシオの異空間にいることになるし、異空間から転位出来るのだろう?」
確かに、今回クリステルに転位陣のことを明かしたから隠す必要はなくなったのだ。おおっぴらに異空間の転位陣から転位出来る。
街の中心で君主の話を聞きたい。街へ入ることが出来るだろうか。
今回はカラーコンタクトも改良した。濃い肌色になるようにしたのだ。
目の周りの魔法陣も目立たなくなった。
薄らと痣のように見える程度になったのだ。
肌色は濃い緑と濃い青に変えたので、ルシオやソフィアの情報が他の街から入っていたとしても分からないだろう。
「今回は? 何処から来たことにする?」
「北区……にしてみるか?」
それほど街の情報を持っているわけでもない三人は、今回は知っている中で影響が無さそうな、北区からの商人と言うことにした。
商品は、魔物から取った魔水晶と、塩と、魔素を消した魔物肉だ。
これなら興味を持って貰えるのではないだろうか。
クリステルが主人でルシオとソフィアは、使用人夫婦という役割だ。
資金はプラージャで稼いだ分しか持っていない。
この街でポト貨幣が通用すればの話だが。
バイアレの街は大きな湖に面した街だった。
海からは少し離れているため、ここでは魔物の肉を食しているのではないだろうか?
鬼人もいるから、魔素を消した魔物肉は売れそうだ。
バイアレの街は大きな街だ。
数十基の小さな塔が塀にくっ付いているのは他の街と同じだが、街の真ん中に大きな塔が一基立っていた。
「あの塔の大きさは、ブルホの魔水晶でなければ作れない大きさだ」
「ブルホにある塔と似ているな」
「ここに、かの大陸の魔導師がいるのは確定だな。気持ちを引き締めて掛かろう!」
街に入るには簡単な審査があった。
羊皮紙に名前と年齢、出身地、職業、ここに来た目的。
そして性別と人種。鬼人か人族かを書く欄があり、入国税が掛かった。
ここでもポトの貨幣は使えたので、それで払うことが出来た。
街に入り、商売をするためには鑑札が必要だと言うことで、商業組合に行くことになった。
商業組合は、街の中心街にあり賑わっていた。
絶えず人の出入りがあり、鬼人も大勢いた。
ここでは人族でも鬼人でも普通に一緒に暮らしているようだ。
クリステルの受付の順番が回ってきた。
ルシオ達は彼の後ろに控えじっと話を聞く。
「商品は、魔物肉? そんな物はここには腐るほどある。余り儲けにはならないよ」
「いえ、これは特別に加工した物で、日持ちがする商品です。何より穢れが消された魔物肉です」
「け、穢れがないと! どうやって作った?」
「それは商売人に対して聞いてはいけないものですよ。秘密です」
クリステルはニヤリと不適な笑いをする。
「そうだった、すまない。だが、これは画期的な物だぞ。よし、早速登録を許可しよう。見本は?」
話はトントン拍子に進む。クリステルの意外な側面を見た気がした。
商業組合には魔法使いが常駐していた。
魔法使いは、魔物肉をじっと見て、確かに穢れがないと太鼓判を押した。
魔法使いの鑑定は目に魔力を集めて行っているようだ。
その為、鑑定には時間が掛かった。
街の一等地に店を開く許可が下りたが、家賃が高い。
有り金全部出して支払い、何とか一ヶ月借りることが出来た。
加工した魔物肉は異空間に大量に入っている。
これがさばければ、今後の活動資金は何とかなるだろう。
「ねえ、このまま肉を並べても売れないわ。食事のスペースを作ってくれれば、私がスープを作って試食させるわ」
――良い考えだが、何か目的からずれていくような気がする。そう言えばソフィアは商売人だったな。生き生きしている。
この街の雰囲気が余りにも普通だった。
住んでいる人々は全く違うが、普通の生活が出来ている。
まるでペケーニョの何処にでもある街のような雰囲気だった。
暫くこの街の住民を見ていると、鬼人の中にも色々なタイプがいることが分かった。魔物寄りの鬼人は少ない。
人族風の姿に角があるタイプが一番多い。
人族にも、肌の色が濃い人から薄い人まで様々だった。
この街の主要な食べ物は塔で栽培された農産物だ。
タンパク源は湖から上がる淡水魚が主な物だった。
鬼人は魔物肉も食べるが、頻度は少ないという。
魔物肉を食べれば、魔物化が進むと認識されていて、生活に困窮している者以外は余り食べないようだ。
「ここの湖の水にも魔素が溶け込んでいるが、魔物肉自体にプラージャよりも魔素が少ないのはどう言うことだ?」
「あの山脈が魔素を防いでいるのかしら……」
一週間もすると色んな事情が分かってきた。
ソフィアの言うように、山があるお陰で魔素の侵入が少ないそうだが、この頃は魔素が濃くなってきたという。
魔物が増え、森の木々や植物も毒素が濃くなってきている。
ここの住民達は不安になっている。
「海側に街を新たに作り、移住する計画が持ち上がっているそうよ」
ルシオ達が売る加工肉は順調に売れ始めた。
やっと家賃の元が取れ、儲けが出てきたとソフィアは、喜んでいる。
――ソフィア、お金を稼ぐ為にここに来た訳では無いんだが……。




