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38 魔物の買い取り

討伐隊組織の建物の前でソフィアは立ち止まり、買い取りについてルシオに提案をした。


「ルシオ、あの受付係はチョット嫌な感じよ。別の人に獲物を見て貰いましょう」

「ああ、僕もそう思っている」


中に入いろうとすると、男に呼び止められた。始めて見る”紫色の男”だ。


「おい、見ない顔だな。新入りか?」

「はい、北下区からの移住者です」

「……あそこには人族はいなかったはずだが。本当に?」

「はい、北下区からです。アナタは?」

「ああ、俺はここの責任者だ。お前達、どこのグループに入った?」

「どこにも……二人だけでグループを組んでいます」

「……そうか。そうだな、慣れるまで大変だろうが、その内どこかに入れて貰えるさ。今日はどこに行っていたんだ?」

「森で魔物を狩ってきました。見て貰えませんか? グサノデセダとアラエナ、そして狼……かな」

「! グサノデセダだと。よしこっちへ来い」


建物には入らず、グルリと廻って着いたところは、昨日と同じ加工場だったが、今回は中に入って、その場に出せと言われた。

三種類のの魔物を出してみせると、責任者だという男は、近くにいた女性職員に査定をさせた。

この女性が魔物の査定係なのだろう。


「傷が少なくて質は良いです。グサノデセダは二百五十万ポト。アラエナは五十万ポト、グリスロボは一万ポトですね」


そこへ、ソフィアが口を挟んだ。


「あの……以前もこの……グリスロボを三体狩ってきたんですが、査定額が違っていました。どう言うことですか?」

「ん? グリスロボの査定額は殆ど変わらないはずだが、幾らだった?」

「三百ポトと言われました。三体で」

「……誰に言われた!」

「う、受付係の女性です」

「そうか分かった。その分も今払おう。面倒ごとに巻き込んだな。税金はこっちで持つ。金は受付で……いやここで払う。マサ、これを受付に持って行って金に換えてきてくれ」


責任者の男は査定表の羊皮紙を、マサと呼ばれた女性に持たせ、使いを頼んでいた。


「新参者だから知らないだろうが、魔物を狩ったらここに直接持ってくるようになっている。ここで査定表を貰ったら、受付で金に換えて貰うんだ。その際、税金が引かれた金額が支払われる。受付係は、その事も言わなかったようだな」

「はい、聞いていませんでした」

「君達には悪いが、今日は暫く付き合って貰う。受付係の横領の証人になってくれ」

「…………」


受付係は捕らえられていった。

彼女はこれまでも度々横領をしていたようだった。

幾ら識字率が良いと言っても、計算が不得意な者も文字があやふやな者も討伐隊には少なからずいる。

そう言うグループに目を付けて金を誤魔化していたようだ。


「これでスッキリした。今まで怪しいとは思っていたが、証人になると言ってくれる奴がいなかったのでな。あの受付は、魔法使いの子供でな、本人には魔力が無いためここの仕事に割り振られてきたんだ。親の力が強いと、誰も証言してくれない、皆泣き寝入りだ。お前達には(しがらみ)がないせいで証人になれた、と言うことだな」


グサノデセダは、高価な糸の原料になるが、中々レアなものらしい。

森の奥に行かないと見付からないという。そこまで行ける討伐隊は少ないのだそうだ。


「あの……このグサノデセダは浅い場所で見付けたのですが……」

「ああ、偶にいるからな、森の浅い場所にも。この魔物自体は大人しいんだが、殆ど森の奥深くにいる。鬼人達の街では取ってくる奴が結構いるんだ。それを商人が買って持ち込んでいるんだが、この街にも森の深部に入れる奴がいるが、少数なんだ……助かるよ。近場で見付かったらまた採って来てくれないか?」

「ええ、今日、明日は森へは行きませんが、近いうちにまた行ってきます」


渡された金は、銅製、魔鉄製とミスリル製だった。

銅で出来た穴の開いた小さな貨幣が一ポト。

十ポトで穴がない中くらいの大きさ。百ポトで穴が開いた大きい銅貨。

千ポトで穴の開いた魔鉄という風になっていく。百万ポトが一番大きな貨幣でミスリル製だった。


金が入ったので宿が取れる。

宿には酒場があった為情報を仕入れるために降りていく。

酒場にいるのは商人が殆どだった。もう少しグレードの高い宿にすれば良かったとルシオは反省した。ここは、魔法使い達が泊まるような宿ではなかったようだ。商人からは特にめぼしい情報は得られなかった。


宿を引き払い、街を出てアレハンドロ達と合流し、昨日のことを話し合った。金も渡しておく。彼等にも必要になるかも知れないからだ。


「ミスリル銀と魔鉄……ロマゴへ持って行けば、この貨幣の価値が変わりそうだな」

「ここでは魔素が濃い。そこいらを探せば、魔鉄鉱やミスリルが直ぐに見付かりそうだ……魔物よりもこっちを探した方が良いかもな」


クリステルも、しげしげとこちらの貨幣を見ている。


「戦闘魔法兵に知らせましょうか? 彼等に探して貰えば見付かると思います。彼等にとってもうれしい情報かも知れない」

「止めましょう。ロマゴの経済が狂ってしまうわ。暫くはこのままで、神殿長の意向を聞いてからにした方が良いと思う」

「そうだな。僕もそう思う。今は良く廻っている経済を乱さない方が良い」

「俺は一旦ブルホへ帰って報告をしてくる。クリステル、ルシオ達を、俺が見付けた森の深部へ連れて行ってくれないか?」

「ああ、任せてくれ」


一旦街へ戻り、残り少なくなった食料を仕入れた。森へ行くとなれば暫くはここへ帰れないだろう。

歩いて街を出る。転位で一瞬でいけるが、門番に怪しまれては大変だ。

ルシオ達が森へ行くところを見せておく。


ルシオ達は、アレハンドロが見付けたというグサノデセダが沢山いるというスポットへ行くことにした。

これをブルホへ持って行けば、彼方でも研究して良い絹糸に加工することだろう。

クリステルと一緒に、森の深部へ分け入る。三日間歩き通してやっと着いたそこには、巨大な蛾が地面を埋め尽くしていた。


蛾なのに飛べないようだ。蚕蛾と生態が似ている。

ここで交尾して卵を産み、周りの巨大な木々の葉に産み付けるのだろう。このあたりの木の葉っぱを食べているようだ。


「何と言うことだ! 繭が総て蛾になって仕舞っている」

「暫くは繭は取れないと言うことだな。仕方が無いな、アラエナを捕まえるか」


蜘蛛がいるエリアへ行くと沢山の蜘蛛の巣が張っている。


「気を付けないと絡め取られるぞ」

「火を放てばどうだ?」

「私がやってみましょう」


ソフィアは、細く絞った火魔法「火槍」を蜘蛛の頭に放つ。

蜘蛛は一瞬で死に地面に落ちてきたが、巣に捕らわれていたらしき糸の塊もボトボトと落ちてきた。

 中を見るために糸の塊を切り開くと、中から人間や、魔物が出てきた。


「討伐隊員だな。もう死んでしまっている。体液を吸い取られているようだ」

「どうする、彼を運んだ方が良いか?」

「そうね異空間収納に入れて運びましょう。こっちの魔物は?」

「蛇のようだな。皮がそのまま残っている。素材としては使えそうだ」


そこいらにいるアラエナを片っ端から倒していく。数体だけルシオ達が受取り、後はクリステルに保管して貰った。

クリステルも一緒にルシオの異空間にいるというので、時間調整のため三日間異空間で過ごし、森の木の洞に転位し、そこから街へ歩き出した。

何時もの門番がいた。


「おい、やっと帰ってきた。やられてしまったかと思ったぞ」


やはり気に掛けられていたようだ。これからは転位はなるべく使えない。


「森の深部まで行ってきたんだ。グサノデセダは蛾になっていた」

「その時期がきたか。また三ヶ月もすれば繭が出来るはずだ。しかし、オマエ等は凄い実力者だったんだな。この街でも深部へいけるものは数人しかいないぞ。流石、鬼人の街の住人だな」

「仕方が無いからアラエナを狩ってきたんだけど、巣に討伐隊員の遺体があった」

「! ッこちらで預かる。そうか、この間の討伐遠征でいなくなった奴だな。もう諦めていたんだ、結構な実力者だったんだが、死んでいたか」


遺体を受け渡し、討伐隊組織の加工所にまっすぐ行く。アラエナ四体を買取って貰った。

受付の査定書を持って行くと、男性の受付が対応してくれる。事細かく話してくれる受付に変わったようだ。

税金が引かれ、残った金額を受取る。やっと普通の受付になって、ホッと一安心のルシオ達だった。


「あの、討伐隊員にも魔法使いがいると聞いたのですが……」

「ああ一人いますね。ここの組織長ですよ」


あの責任者が、魔法を使うと言うことか。やはり魔法使いは何処でもトップにいるようだ。


「あなた方も魔法が使えるのでしょう?」

「え! 何故……?」

「ああ、済みません、勝手な憶測です。肌色が紫の人に魔力持ちが多いものですから。魔法が使えれば国に召し抱えられます。例え、外の街出身でもね」

「……そうだったのですか。魔法は無理だと思います。僕らはこのままで十分です」

「そうですね、魔法を使うには幼い時から特別な訓練を受けなければなりませんから、今からでは、魔力があってももう遅いですものね。おっと、失礼しました」

「いえ、教えて貰って良かった。周りに勘違いされないようにします。魔法を使えると思われるのは心苦しいです」


情報が少し得られたことに、ソフィアと二人、子踊りした。


「魔法使いは紫の人を探せば良いと言う事ね!」

「そういうことだ」


コソコソと二人で話していると、物陰から、突然襲いかかってくる者がいた。


「あんた達のせいで、私は!」


あの、受付係だ。何故ここにいるのだろう。彼女は捕らえられて街の外へ出されたと聞いたのに。

彼女はソフィアに向かって平手打ちをした。

女性の力だから大した事はなかったが、ソフィアの頬は赤くなった。

しかし、その拍子にソフィアのコンタクトが取れて床に落ちてしまった。

ソフィアの周りにいた討伐隊の者達は、凍り付いたようにソフィアを凝視している。

ルシオはソフィアの前に出て庇ったが、元受付の女性が、


「白い人族! 白い人族がここにいる!」


と大声で叫んだのだ。


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