34 グランデ大陸再び
前回よりも食糧は多く用意した。
本当はそんな必要は無いのだが、ソフィアが、万が一のためにと色々買いそろえるのだ。
食糧だけではない、生きた獣や家畜、各種の種や木の苗木、洋服や、剣や防具など、買いそろえるものに脈略などない。
有りと有らゆるものを買い漁っていく。
一体彼女は、剣などどうするつもりなのか。
異空間に居れば、魔物など全く気にする必要も無いのに。
だが、ルシオは反論は控え、素直に言われた通りに用意した。
莫大な資金を神殿から用意されて、自由に使っていいと言われているのだ。
また、彼女は、何時も異空間にある小さな神殿に行く。
ルシオが以前、パブロ魔導師から貰った魔水晶の祭壇がある小屋を、神殿に建て替えてしまったのだ。
小さいが美しい神殿だった。ソフィアは何をやっても、素早く完璧に熟して仕舞う。
「凄いな、君に土魔法の建築が出来るなんて……クリステルよりもレベルが高くないか?」
「あら、これは魔水晶からの知識よ。知りたいことを知ることが出来るって素晴らしいわ」
小さな神殿で何時までも祈りを捧げているようだ。
ルシオも祈りを捧げるが、彼女の祈りは長い。
ルシオと一緒にグランデ大陸へ行くのは前回と同じメンバーに加えて、錬金魔導師も数名同行する。
拠点は以前の遺跡だ。一時的な拠点だ。あの場所からは魔素が漏れ出しているため魔物が多く居る。
魔物が少ないもっと適した拠点をまず見付けなければならないが、以前の探索で、もう目星は付いている。
そこへ転位陣を付けたドローンを飛ばせば、今回の仕事は終わりだ。
今回もアレハンドロやクリステルと一緒だ。グランデ大陸まで転位する。
同行する魔導師や魔法兵達には異空間の中にいて貰った。
「今の段階で異空間を作れるのは十人くらいか、幾らやっても出来ないものは出来ないようだぞ。俺は出来たがな」
アレハンドロも出来たと喜んでいる。彼の異空間はブルホと同じ大きさだろう。今のところ、ルシオの次に大きな異空間だ。だが、彼の異空間には、以前のブルホの建物が建っているそうだ。
一体どんな法則があるのか。アレハンドロは
「こんなに建物があっても困るんだよな。その内数軒の屋敷を残して更地にしようと思っている」
「始めのイメージがそのまま形になって仕舞うようだね。私の場合も暗い迷宮でね。然も石造りの通路ばかりだ。君の方がまだ良いよ更地に出来るから」
ルシオの異空間も同じだ。異空間を造るとき、パブロ魔導師に見せて貰った塔の環境を想像したが、似ているようで違っていた。
山は火山ではなかったし、湖があったのだ。
もしかすると、あの場所と同じ環境のところがロマゴの何処かにはあるのだろうか。だとすれば、街があったり、ブルホ市国があったりするのか?
まさか、魔水晶の森まであったりするのだろうか?
ドローンでの探索もしたが、街など見付からなかったのだ。転位陣もあるので、数カ所廻ってみたが総て自然豊かな土地だった。
「アレハンドロ、君の異空間には魔水晶の森も出来たのか?」
「まさか、だがあの場所は以前のようなプールになっていた。穢れはないがな」
そうか、魔力の関係かも知れない。あそこに魔水晶の森が出来上がるには魔素が大量に必要になりそうだ。
考え込んでいるとソフィアが、
「心の中を形にしているのかしらね。アレハンドロ魔導師の心の中がゴチャゴチャしている……とか?」
と、微笑みながらきつい冗談を言った。
グランデ大陸の転位を終え、戦闘魔法兵等が、近寄る魔物を片付け、もう一度仮の拠点の確認をして廻る。
ルシオは以前作成した地図を見ている。地図と言っても紙に起こしたものでは無い。魔水晶に入れ込んだ地図だ。
魔力を通すと、立体画像が魔水晶の上に浮かぶ。
所々が空白になっている不完全なものだ。皆でその画像を見て、拠点にするにはここが良いだろう、というルシオの話を真剣に聞く。
「グランデ大陸は、多分この数倍は広いはずだ。だから、今現在分かっている部分の、なるべく西寄りの中央にタワーを建てるのが良いと思う。丁度小高い山があるから、ここが良いんだが、現地へ行って確認してみないことにはよく分からないんだ。だから今ドローンを飛ばして転位陣をここに敷く。三日はかかるはずだから、それまでは自由にしていてくれ」
ルシオがそう言うと、魔法兵達は次々と、異空間の外へ出て行った。以前だったら休暇だと言って、喜んで異空間でのんびりしていたはずだ。
「彼等は?」
「魔物を倒しに行った。前回持ち帰った魔物素材が凄く良い金になったんだ。魔法兵達は、今回も一杯持って帰ると意気込んでいる」
「迷宮がなくなって、戦わなくても魔水晶が採れる様になってから、魔法兵達の生活はカツカツです。私達、戦闘魔導師だって似たような物です」
ウゴ元魔導師の話を聞いていたが、確かに生活の糧が少なくなれば皆困ったことだろう。
給料は支払われているが、今までのような暮らしは出来なくなったのだ。
戦闘兵は数が一番多い。神殿長の苦肉の策で、この遠征隊を組んだのだろう。
三日後、ドローンが目的地に着いたようだ。
ルシオは皆を異空間にいれ、転位した。
この転位陣はドローンに付いている小さなものだ。一人しか移動出来ない。
着いた場所は、小高い丘の頂上だ。周りを見まわすと何処までも続く砂岩。荒野。遠くには砂丘。赤茶けた砂や岩石。水の気配は微塵もない場所だ。
「魔物はそんなにいない。タワーを建てるには良い場所だ」
クリステルに、ここに堅固な土台を作って貰い、高さも幅も20メートルある大きな囲いも作って貰う。これで、魔水晶を守れるだろう。
魔法兵達はここでも魔物を狩っていた。ここの魔物は、サソリに似たものや、甲虫のようなものが見られる。
蛇やトカゲもいる。
何がどのような魔道具に使えるかは、持って帰ってから調べるようだ。
魔法鞄が一杯になってしまった、と嘆くものが出てきた。
ソフィアは、代わりの魔法鞄の貸し出しをして廻っている。
「もし、これも一杯になったら、私の異空間収納に預かりましょうか。きちんと預かり証も書きますよ。それで良いかしら?」
「ああ、助かります奧さん!」
ルシオともう一人の錬金術師そしてソフィアは、ドローンを大量に作っている。転位陣があるドローンはルシオだけ作る。
これは秘密だ。解析は出来ないだろうが、念のため自分だけ作る事にしている。
ここに設置する魔法陣は以前の制限のある転位陣にしておく。
これからグランデ大陸中に転位陣を、拠点に繋げ、ブルホ神殿の転位陣と同じ方式で設置する。
ルシオとソフィアは、転位陣を改良した。一部だけこっそり制限を外し専用の鍵さえあれば自由に行き来出来るようにしたのだ。
鍵がなければ、一々拠点に戻ってそれから目的地に行くことになる。
魔力が余計に掛かる事になるのだ。
ルシオの鍵があれば、行きたい場所にすぐに行けると言うことだ。
パブロ魔導師や、神殿長には鍵を渡すが、後は絶対に渡さない。
ルシオの異空間に勝手に入ってこられるのはやはり困るのだ。
次には、大きなタワーの魔水晶に魔法陣を描く。
これは時間が掛かる。
地図の機能だけでは勿体ないほど立派な魔水晶だ。
これには通信のタワーとしての機能も付けようと思っている。
神殿長等には事後承諾になるだろうが、いらないとは言わないだろう。
グランデ大陸だけの通信だが、あれば助かるはずだ。
端末は後だ。追々ゆっくり作っていくことにする。
クラスターは大漁にあるから、かなりの端末が出来上がるはずだ。
今回、神殿から多大な援助をして貰い、心苦しかったので、おまけの作業だ。
一ヶ月掛けて、魔法陣を描き上げ、最後に隠蔽を施す。
ちょっとやそっとでは解析できないようにしておかねばならない。
ここには今後多くの魔導師達が行き来するようになる。
ここを守る魔法兵も常駐するようになるだろう。その為の隠蔽だ。
情報は命だ、悪感情を持つものに、悪用されたり、改変されないようにするための予防策だ。
いま、クリステルとアレハンドロは、タワーの周りに小さな街を作っている。アレハンドロの異空間にある使わない建物を移しているのだ。
アレハンドロは、大神殿まで移してしまった。
「神官なのに、良いのか?」
「自分の異空間には必要無いだろう。こんなのがデンっと在ったら女の子に退かれてしまうじゃないか」
石塀には結界を施す。街の中には、魔物が入ってこられないようにする。
「ここでは水が貴重になるな。総て魔道具頼りになるだろうな」
「魔物から採れる魔水晶で間に合うだろう。ここなら、ロマゴよりも安価で魔水晶が手に入るさ」
「質は悪いが、簡単な魔道具なら十分だな」
「だが、食いもんは大変だな、転位でブルホから持ってくるしかなさそうだ」
それを聞いていたソフィアが
「アレハンドロ魔導師は、神官でもあるのでしょう。ここに農地を作れるはずよ」
「ああ、あの農地の塔か? 俺には無理だな。神官と言っても裁判専門だ。殆ど戦闘がメインだからな」
「まあ、折角知識に同調できるのに。ルシオから聞きましたけど、ここの人々の街には総て農地の塔があるそうです。私、作りましょうか?」
「え、ソフィアは、もうそこまで同調できるようになったのか?」
「勿論です。凄いですね。この魔法陣。これのお陰で何でも作れてしまいます」
ソフィアは、神官魔導師だ。知識の一番奥まで同調できるのだ。
ルシオにしてみれば羨ましい限りだ。
ソフィアは、街の石塀には五つの塔を設置した。
ブルホにある塔と全く同じものだ。
四つは農地で、あと一つは火山のある自然豊かな山地だ。
ここには川が流れ、豊かな水がある。ルシオは、かの大陸の魔導師が何故これが必要だったのかを、今理解したのだ。
そこにソフィアは、買ってきた種を植えたり、家畜を放ったりしている。
この時になってまた、ソフィアのやりたかったことを理解したルシオだった。ソフィアは高価な魔水晶まで買ってきたのは、この為だったようだ。
「ここの管理をする人間が必要だな」
「現地の人はどうなのでしょう。来て貰えませんか?」
「一応探してみるが、現地の人は僕達とは少し見た目が違う。言葉も通じにくい。多分警戒されるだろう。難しいかも知れない」
二ヶ月後、ここでの作業が終わりドローンも各地へ放った。地図が出来上がるには一年はかかるだろう。
これで当面やることが無くなり帰る事が出来るのだが、予定を変えて、以前困っていた東岸の街へ行ってみることにした。
彼等はルシオ達が作った街に移住してくれるだろうか?
魔法兵達はブルホに返し、交代の魔法兵がここに来るまで少し時間がある。
その空いた時間にソフィアと二人で街へ行くことになった。
クリステルとアレハンドロはここで留守番ということになった。




