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33 新しい転位陣

ウゴに店番を任せることが出来るようになって、ソフィアの魔法の講義を再開する事にした。


異空間なら幾ら魔法を使っても安心だ。

店からは通信で連絡が取れるようになっている。ウゴが対処出来ない客が来た時のためだ。


ソフィアは、一度教えたことは忘れないし、その先まで理解してしまう頭脳の持ち主だ。一を聞いて十を知るを、地で行く天才なのだ。


光と闇、空の理論を教えただけで理解してしまった。


魔力も大きい。魔法鞄はすぐに作れる様になった。

ソフィアは魔法陣に並々ならぬ興味を示した。


「面白いわ。こうなっているのね……あら、転位陣、何故? 態とこうして居るのかしら」

「どう言う意味?」

「態々制限を付けている。ほら、こことここ、ここにもよ」


ソフィアに言われて、もう一度転位の魔法陣をよく見てみると、小さな突起が数十カ所に付いている。

ルシオ達はそのまま書き写していたのだ。

確かに制限が付いているようにも見える。


「この制限を外せば、自由に転位出来る、と言うことか!」

「この魔法陣を考えた人は、態とやったのね。勝手にあちこち転位されないように」


そうかもしれない。これを始めに作った魔導師は、ソフィアのような天才だったのだ。ひらめきを形にすることが出来る天才。


「貴方の異空間は素敵だけれど、広すぎて全容が分からないわ。ドローンを飛ばして地図を作りましょう。そしてドローンにはこの自由になった転位陣を付けておけば、そのまま異空間中に転位出来るでしょう」

「……凄いな、ソフィア。確かにそうだった。やってみよう」


二人で、ああでもないこうでもないと思考が何処までも飛び、つい時間を忘れてしまう。ウゴから通信が入った。


「あのー……ルシオ魔導師……すまネェが、もう店じまいだ。俺上がっても良いか?」

「あ、ごめんウゴ。もうお仕舞いにする……」


ウゴがここに来て一年が過ぎようとしている。

異空間にはホセの所から移植した薬草が沢山生えている。

これはウゴが自分で考え、こうしたいと言った結果だった。


魔力の無いウゴは転位陣を使う事が出来ず、薬草が生える郊外へ行くのに時間が掛かるため、薬草を育てたいとルシオに言ったのだ。


薬草を育て観察し、それで薬を作る。彼はもう立派な薬師に育った。もとより基本の知識はあったのだ。魔導師だったのだから。

努力さえすれば伸びる素質もあった。

以前のソフィアの時ように、ルシオの家は今ではウゴの家の様になっている。

ルシオは、異空間の屋敷にソフィアと二人で住んでいるのだ。

食事は一緒に取っているため、ウゴも異空間へ入ってきた。


「ウゴ、もうそろそろ独り立ちしても良くないか? お金は用立てるよ」

「俺が……ここに居ては困る……そう言うことか?」

「いや、居たければ居ても良いが、僕から自由になりたくはないのか?」

「実は、一緒に処罰された錬金魔導師達と話した。あいつら、もう自由だと言われて困っている……ここに呼びたい……」

「……そうか」


ここはソフィアの名義だ。彼女を見ると、

「ウゴさん、彼等とここで一緒に仕事をすれば良いわ。私、ルシオにずっと付いていくと決めたの。ルシオはまた神殿から声が掛かって、どこか遠くで仕事をさせられる。その時は留守番なんてしたくないの」

「ソフィア……」

「ねえ、ここをウゴさん達に差し上げて。私には必要の無い物だもの」


暫くすると、錬金魔導師達がやってきた。泣きながら感謝されてしまった。

彼等には、知識のモノクルの作り方や、魔法袋の作り方を教え、異空間に魔素を含んだ水を分け与える。魔素を含む水は、神殿の地下まで行かなくても、ルシオの異空間の湖で採れることが分かった。いくらでもあるのだ。


「水が無くなれば、ブルホ大神殿で貰えるはずだ。少しお金は掛かるみたいだけど。君達ならここの転位陣で行けるだろう? もしブルホへいくのが気まずいなら通信して、届けに来るから」

「……何から何まで……ありがとうございます」


ここに設置した転位陣をブルホの荒野とホセの所だけに書き直し、鍵を渡す。

「本当に良いのでしょうか? ここまでして貰って」

「構わないさ。神殿の転位はチョット高いしね。荒野から少し歩かなければならないけど、これはきちんと申請している転位陣だから大丈夫だよ」


ルシオ達はこれから、マル兄の所へ挨拶に行こうとしている。ソフィアを紹介し、転位陣を敷くためだ。

ドローンを飛ばせば良いのだが、急ぐ旅でもない。

遅ればせながら新婚旅行も兼ねている。


ルース魔導師やホセの所へ挨拶し、雑貨屋へは経営者が変わったことを告げ、身が軽くなったルシオは浮かれていた。


――カリカピタルの店は、今の僕の足枷になっていたんだな。


拠点をなくして、自由になったとルシオは思った。

あの店は当初大事な生活の基盤だったが、ソフィアの言う通り、今のルシオにとっても必要なくなっていたのだ。


パブロ魔導師やアレハンドロから連絡が入れば、すぐにでも転移で行ける。

理論上では異空間に設置した転位陣から、ルシオがこれから設置する新しい転位陣へ、何処からでも、何処へでもだ。

中継点を経由しなくて良いのだ。解放された転位陣のことはその内パブロ魔導師に話さなければダメだろう。


旅の途中、野鍛冶の所へも寄った。

野鍛冶に、また狩りをしようと誘われ、二人で魚やイノシシ、鹿、熊などを仕留めた。


ソフィアは、女将さんから革の縫製の仕方や、鞣し方を聞いていたようだ。

「何処へ行っても生活に困らないわね、あの女将さんなら」

そう言って感心していた。


ソフィアは雌馬にココ、ロロと名を付けて可愛がっている。

中々子馬が生れない、異空間では無理なのだろうか?

バーリョとココに乗り、二人はまた旅を続ける。

マル兄の所へ来て、家族が出来たと話すと凄く喜んで貰えた。

地下室に転位陣を敷かせて貰い、連絡してくれれば何時でも来る、と言うと安心したようだった。

ロマカピタルにつき、マテオ魔導師や、長兄に挨拶した。長兄の店はもう直ぐ場所を変えるという。

それならと、マテオ魔導師の屋敷に転位陣を敷かせてもらう。


これから何処を目指そうかと、ソフィアと話し合っていると、パブロ魔導師から通信が入る。


「ルシオ、仕事だ」


簡単明瞭な指示だ。全くいつも通りのパブロ魔導師だ。

「さあ、どんな仕事か楽しみ! 私も付いていって良いでしょう。ダメだと言われても付いていくけど」


異空間の転位陣にパブロ魔導師の転位陣の鍵を差し込み、念じる。

すると、パブロ魔導師の転位陣が脳裏に現れる。あっという間に着いた。

着いたときには、魔法陣の上に立っているので、パブロ魔導師はカリカピタルのルシオの店から来たと思っているだろう。


ソフィアは異空間にそのままいる。

「暫くぶりだな、早速だが、またグランデ大陸へ行って貰いたい。以前途中で終わった、お前の地図を完成して貰いたいのだ」

「地図の完成は、僕も心に引っかかっていたのですが、何故今?」


「お前達が齎した魔物の素材だ。あれがあれば魔道具の性能が格段に上がるのだ。戦闘魔導師達のレベル上げにもなる。ペケーニョ全体が纏りつつある中、魔導師の人数も増えた。迷宮もなくなり諍いもない今、戦闘魔導師や魔法兵達の活躍の場が少なくなっているのだ。神殿長が、この機会にお前の地図を完成させたいと仰った。戦闘魔導師達に活躍の場を用意しようという心づもりもあるのだろう。そして、大陸の魔導師たちはどんな力を持っているのか、それの調査のための足がかりが必要なのだ。過去の二の舞にはならないようにしておきたい」


「はい、そう言うことならやらせてください。今回は僕だけですか?」

「前回のメンバーに加え、お前が必要だと思う人員を申し出れば良い」

「多分、地図作り自体は人数は必要無いでしょうが、一人加えたい人がいます」

パブロ魔導師は気軽に仕事を受けたルシオを心配そうに見た。

「良いのか、今度は長く掛かる。何年もかかるかも知れないのだぞ。ソフィアを一人にすることになっても構わないのか?」

「一緒に連れて行きます。彼女がそうしたいと言ったので」

「……そうなのか……お前の異空間にいれば安全か。やっと私も異空間が出来たが、何故か神殿だったのだ」


馬は飼えないということか。あれほど期待していたのに、がっかりしている様だ。

「クリステルの仮説は正しかったようですね。始めにイメージした異空間収納と、異空間はシンクロするようです」

「なんと、そうだったのか!」

「パブロ魔導師、実は、お話ししておかなければならないことがあります」


ルシオは転位陣のことを話した。パブロ魔導師は難しい顔をし、

「この事は神殿長と話し合う。一緒に来なさい」

ブルホの大神殿へ来た。パブロ魔導師は、真っ直ぐ神殿長の所へ通され、重要な話だというと、神殿長は自身の異空間に招きいれた。


「神殿長の異空間は……」

「は、は、狭いだろう。君達とは比べてはいけないよ。私はこれで十分なのだ」

十メートル四方の真っ白な空間に数脚の長椅子とテーブルがあるだけの空間だった。

だが、何処からか爽やかな魔素が漂ってくる。これは神殿長の魔力なのだろう。落ち着く空間だった。


ルシオの話を聞き神殿長は、ここに設置してみろという。

「え、でも、ここに設置したら、僕の異空間と繋がってしまいます」

「いいでは無いか。凄く便利になるぞ。何時でも君の異空間に入ることが出来るし気軽に仕事を頼めるようになる、どうかな、いやなのか?」


神殿長は悪戯っぽい目でルシオを見る。揶揄われているのだろうか?

その話を聞きパブロ魔導師も、目を輝かし始めた。

「ルシオ、君の異空間に入れるのなら、どこへ君が行ってもすぐにうま……助けにいける。私の異空間にも設置しなさい」


――今、パブロ魔導師は、馬、と言いかけたな! 僕のプライバシーはどうなる?

だが、口ではこう言った。


「危険です、他人の異空間に勝手に入られたら、困りませんか? もし僕の異空間に入っている人間が刺客だったらとは考えないのですか? 辞めた方が良い、考え直して下さい」

「お前だって異空間に入れる人間は厳選しているだろう? 誰でもと言うわけでは無いはずだ。もし信頼した者に裏切られるのなら、それはそれで諦めよう。四の五の言わずに設置しなさい」

「……承知しました」


年長者に逆らえるはずもない。ルシオの異空間は、その内、人で溢れかえってしまうのでは? と不安になった。


今更ながら、転位陣の開発者が、制限を設けた意味に気が付いたルシオだった。だがもう、後の祭りだ。せめて、最後のあがきとしてルシオは

「これ以上この転位陣は広めないで欲しいです。内緒にしてくれませんか?」

「ああ、当たり前だ。知識の魔水晶にも入れ込まないと約束しよう。ミゲル魔導師とアレハンドロにも内緒だな」

と、パブロ魔導師は、ニヤリと笑った。


その後、グランデ大陸の地図作成のことに話が及んだ。

「では、ドローンさえあれば、長逗留は必要無いというのか?」

「そうです。数人で現地に行って拠点を作り、そこにタワーを建てます。後は勝手にドローンがやってくれるでしょう。転位陣もドローンに付けますから。総ての転位陣が出来上がったら、そこに人員を送り込めば、近辺の調査が出来ます。実はもう、僕の異空間で実証済みです。その間僕はグランデ大陸を自由にあちこち廻ってきますよ。何時でも帰ってこれますしね」

「んーん、何とも凄い話だ」


ルシオは前回、自分の異空間にタワーを作ってしまったため途中で終わらせなければならなかった経験から、現地に設置したほうが良いと考えたのだ。


「では、神殿からは、魔水晶を提供すれば良いのだな」

「はい、なるべく大きな魔水晶とその根元に生えたクラスターがあれば、グランデ大陸を網羅出来るはずです」

「好きな物を二つ選んで持って行きなさい」

「はい? 一つあれば十分です」

「また何か思い付くかも知れんだろう? その時手元にあれば直ぐに作れるというものだ。君に今回の礼として差し出すのだ。持って行きなさい。なるべくいいものを選ぶんだぞ。前回のような物ではダメだ」

「……では、最高の魔水晶を頂きます」


ルシオは一人で魔水晶の森に来た。そしてソフィアに異空間から出て貰う。これは予め神殿長の許可を貰った。


試してみたかったのだ、ソフィアも魔導師になれるかどうかを。

彼女は、短い間に、驚くべき成長をして見せた。魔力操作も瞬く間に出来る様になっていた。神殿長は

「面白い試みだの。女性の魔導師か……試してみるのも良いかも知れぬな」


そう言って快く許可してくれたのだった。

「自分の過去と向き合う……何だか怖いわ」

知識の魔水晶の前でソフィアは跪いてじっとしている。


 ルシオは、ソフィアから遠く離れ魔水晶の森を歩き回り、魔水晶の餞別をしている。終わればソフィアから連絡してくるだろう。

「お、これは良いな」


十五メートルの魔水晶は、中に不純物もクラックもなくクラスターも沢山付いている。それを異空間収納へ入れ、もう一本を探し回る。

同じような魔水晶を見付け鑑定してみる。 

魔素が、かなり詰っている魔水晶があった。十メートルほどだが、とても太い。ルシオはこれを貰うことに決めた。


丁度ソフィアから終わったと連絡があった。

駆けつけて見るとソフィアには何処にも魔法陣がなかった。


――無理だったのか。これほど才能があっても女性は魔導師になれないのか……。


ソフィアは、困惑していた。どうしたのだろう。

「ルシオ、過去など見せられなかった。でも、未来を見せられた」

「……何だって!」

「神が、「お前が望めばこうなる」と言われたわ。未来よ、ルシオ」

「そうか、女性の場合は僕達とは違うと言うことなのだな」

「そうなのでしょうね。でも、神の言葉が聞こえるなんて……恐れ多くて……」


ソフィアは恐れ多くて何も答えられ無かったのだろう。

そのまま神からの通信は途絶えたようだ。

そう言うことか。神は、望まぬ事はさせないのだ。

ルシオの時と同じだ。望めば、ルシオには、また印が現れるのだろうか。


「答えられなかったのは残念だったね。素晴らしい未来ではなかったの?」

「多分、素晴らしい未来だと思う……」


ルシオはそれ以上深く聞かなかった。彼女が言いたくなれば、その内教えてくれるだろうが、これは男の場合でも同じだ。

他人には軽々に話すような事ではないのだ。

ソフィアの目を見て、ルシオは驚く。


「ソフィア! 虹彩に魔法陣が!」

「え?」


ソフィアは、魔導師になれたのだ。男とは少し違う形で魔法陣を与えられた。右目の虹彩に、よく見なければ分からない小さな金色の魔法陣が刻まれていた。

二人で知識の大魔水晶に祈りと魔力を捧げ、その場を後にした。

ルシオは祈りの時、

「もう少しだけ待ってください神よ。後もう少しで決心が付きます」と祈った。

ソフィアは、歴代初の女性神官魔導師として登録されたが、周りには知らせないと言われた。


「女性神官となると影響が大きすぎる。これから少しずつゆっくりとブルホも変わっていくだろうが……今はまだ早すぎる」


ルシオは以前神殿長に貰った神官の式典用の祭服を、ソフィアに与えた。

ソフィアは、大柄だ。

着てみると少しだけ大きいが、自分で直せるから、大丈夫だとソフィアは嬉しそうに言った。


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