31 鬼人の街
予め、転位先の様子を見てきたアレハンドロが戻ってきた。
「転位先には魔物は居ない」
「では、行くか」
転位した場所は、五メートル四方の石造りの部屋だった。
「この階段を上がった先が出口だ」
七人の魔法兵士達は先に階段を上がっていく。
その後をアレハンドロとクリステルが付いていった。
残りの兵士とルシオは、転位陣の部屋に残った。ここの転位陣も調べる為だ。
――ここは、一本の道だけだ。遺跡にしか通じていない。
「あの遺跡があった場所が、中心だったか」
あの遺跡は、ブルホの神殿のような役割だったのではないのだろうか。
ブルホにある転位陣は、グランデ大陸から来た魔導師の転位陣を元にして作られた。大本はこちらの技術だ。
ルシオにしてみれば、使い辛いし効率が悪く感じられる。
「何処からでも好きな場所へ行けた方が良いのに」
ルシオが設置した自身の転位陣は今のところ三本の道だけだ。
パブロ魔導師の所と荒野、そしてホセの所だ。
ロマカピタルの兄のところやマル兄の所へは設置しに行く時間が無かった。
ルシオの転位陣も同じく、拠点に一度戻ってまた別の場所へ行かねばならない転位陣だ。
ルシオの場合、今は十分間に合っているが、アレハンドロのようにあちこち駆け回る仕事をしていれば、少し不便ではないだろうか?
転位陣をじっくりと見ても同じ転位陣からは、答えは見付からない。
――今後の課題だな。
アレハンドロ達が戻ってきた。
「ルシオ、ここは街の中だ」
「え? 街の地下に転位陣はあったのか」
「多分、この転位陣のことは忘れられているのではないかと思う。若しくは秘密にされていたのか……この上に建物の土台があったんだ。クリステルが抜け穴を通して出てみたら、倉庫の中だった」
今、クリステルは、認識阻害を自身に掛けて街を見て回っているそうだ。
彼が帰って来るのを待たなければならない。
やがてクリステルが戻ってきた。
「どうだった、街の様子は」
アレハンドロは、困惑の表情で、
「この街の住人は、殆どが魔物だ……いや、魔物に変えられた魔導師達のような姿だった。言葉もよく分からない」
「……殆どと言うことは、人間も居ると言う事か?」
「少ないが、確かにいた。だが、私達とは肌色が全く違う」
「僕達が街へ出て、探索するのは難しいか……」
「ああ、目立つし、第一言葉が通じない」
万策尽きたか……。ルシオ達は、廃墟に戻ることにした。
「一旦、ブルホへ戻って、この事を相談してきた方が良い」
「そうだな」
「あ、僕はここに残る。ドローンからの情報が届いている。まだ、一ヶ月以上はかかりそうなんだ。帰ってしまえば折角の情報が途切れてしまう」
「お前一人でか? 何かあったら、一人では対処に困るだろう」
「では私も残ります」
「クリステル、それはだめだ、俺はまだ異空間が出来ない。全員を転位するのにどれほど魔力が削がれるか分からないんだ。……残るとしたら俺なんだが……」
「大丈夫。僕には異空間があるから。逃げ込める場所があるし、問題なんか起きないさ。兎に角、一旦帰って神殿長達と話し合ってきて欲しい」
「俺達は一旦戻ってまた来る。それまでここにいろよ」
「……分かった」
アレハンドロは、魔法兵士二人をルシオと一緒に残こすと言ったが、ルシオは断った――誰かいたら、小回りが利かなくなってしまう。
アレハンドロ達が行ってしまってから二日経った。
「ここにずっといるのに飽きてきた。さて、行ってみるか!」
ドローンからはどんどん情報が届いている。転位したあの街の他にも街が在るのを見付けたのだ。
東側の北沿岸沿いに街がみつかった。西にはなかった。まだ探索中だが、この大陸は大きい。中々端までは届かないだろう。
どうやらこの廃墟は大陸中央から北東寄りにあるようだ。
取り敢えず、以前行った転位陣まで行き、街の中を見て回るつもりだ。
アレハンドロ達の話合いは長引くだろう。
捜索は不可能だと結論が出れば、ここから撤去することになる。
それまでは少しでも、この大陸のことを調べておきたかった。
認識阻害を掛けて、街の中を見て回る。
街には七メートル位の小さな塔が十本ほど外壁に沿って立っていた。
塔は多分農地だろう。ここの魔物からも魔水晶が取れるのは検証して分かっていた。大きな魔水晶は取れないため、魔物から取れた魔水晶を加工して農地にしているのだろう。
周辺には魔物が沢山いるため、街は高い壁に囲われて、住人が二千人ほど固まって住んでいるようだ。
規模は小さい街だが、近くには似たような街があった。
「この塔を作った魔導師が何処かにいるはずだ」
確かに皆、角を生やしている。肌の色は緑や青。髪の色は黒っぽい。目は焦げ茶だ。背の高さはバラバラだ。小さな人は百三十センチしかない背丈だ。
小さいと言っても子どもかどうかわからない。
ルシオから見れば、ゴブリンのように見えるからだ。
大きな者は二メートル近くある。だが、彼等は確かに人間だ。
見た目は魔物のようで恐ろしげだが、表情は穏やかで、普通に暮らしている。時おり見受けられる角が無い人とも、普通に接しているようだ。
ルシオの認識阻害のレベルは、低い。
街の片隅でじっとしていないと魔法が解けてしまいそうだ。
ついこの間クリステルに教えて貰い、初めて試した魔法だった。
本の知識では知っていたが、使う機会が全くなかった。
「戦闘魔導師には必要な魔法なのだろうな」
錬金ばかりしていた自分には、足りない物が沢山あったとルシオは反省した。
彼等の言葉を入れ込むために、急遽宝玉を用意した。録音装置のような簡単なものだが、ルシオたちの言葉と対比が出来るようにしてある。
言葉を解析すれば話せるようになるはずだ。
三日、街を隠れながら廻っていると、宝玉に入れ込んだ言葉と、ロマゴの言葉の共通点が次々と出てきた。
「案外似ている言葉だった」
抑揚が違うため、かけ離れたように感じただけだったようだ。
今日は、酒場のような場所の片隅でじっとして、彼等の話を聞いている。
そろそろ宝玉がなくても分かるようになってきたが、話せるまでには、まだ時間が掛かりそうだ。
「ここの農地もそろそろ終わりだな」
「***町はまだ大丈夫そうだ、あそこから作物を買ってくるしかないだろう」
「***町には移住できそうもないしな……」
「今回の、遠征隊が帰ってきたら、また持ち直すのではないか?」
「ああ、***のような大物を捉えることが出来たらな。だが、生きて帰ってこられたらの話だ」
どうやら、農地の塔が機能しなくなっているようだ。ルシオの持っている魔水晶を差し出せば、問題は解決しそうだが、彼等に怪しまれてしまうかも知れない。
ルシオには、神官魔導師の知識には同調できないため、農地を作ってやることは出来ないし、魔水晶を差し出すしか手はないのだが。
――この大陸は何時からこの様な状態になったのだろう。ここの歴史を知ることは出来ないだろうか。
次の日、商店街へ来てみた。商人達が集って何やら話をしている。
側に寄って何を話しているのか聞いていると、
「白い鬼人が隣町にいるそうじゃないか」
「ああ、言葉も話せないらしい。気味が悪い」
「鬼人ではないのか?」
「白いが鬼人だ。他にも人族もいる。皆白いんだ髪色は金色だぞ。目の色も様々なんだ」
「今はそいつらはどうしている?」
「白い人間には魔の力が有るようだ。町長宅に留め置かれている」
――見付けた! 町とはどっちの隣だ? 多分北隣だろう。ペニンスラ半島から一番近い街のはずだ。
ルシオは早速、街の門から出て、北を目指した。ここから歩けば四日は掛かる場所だ。久し振りにバーリョに乗って行くことにする。
街道は、通っていたが、至る所魔物だらけだ。光の結界を張り、蹴散らしながら進む。偶に、バーリョが足で踏みつけている。
「バーリョ、お前、強くなっていないか?」
「ヒヒヒン!!」
異空間にずっと居たため、魔力が作用して変体したのだろうか?
心なしか身体も大きくなったように感じる。
四日の道のりも、バーリョのお陰で二日後には着くことが出来た。
バーリョは休み無く走り続けてくれたのだ。
バーリョは異空間に入って休んで貰い、ここからは歩きだ。
街に近づいたが、門は固く閉ざされている。暫く待って誰かが出てきたら、隠れて紛れ込もうと考えたが、全くその気配は無かった。街の石塀を見上げ、
「これくらいなら、飛び越せる、だろうか……」
やっと風属性の初歩の飛行を覚えたルシオだが、まだ飛行とまでは行かない。ハイジャンプと言ったところだが。
石塀の上に上がり、認識阻害を掛けて街を見まわす。
ここも同じような造りの街だった。規模もおそらく同じくらいだろう。
塀を降りて、静に町の中心を目指す。
大きな建物があるから、あれが多分街の長の屋敷だろう。
屋敷の中を探し回り、やっと彼等を見付けることが出来た。
だが、魔導師達はここにはいない。
閉じ込められているのは魔物に変えられた下位神官三人だけだった。
皆同じ地下牢に三人纏めて閉じ込められていた。
その中に、知っている顔があった。ルシオが呪いを解いた魔導師、カタイ・マルティネスだ。
「カタイさん。僕です、ルシオです」
「! 貴方は……」
ルシオが突然牢の外に現れたのを見て、皆顔色を変えた。
「る、ルシオ魔導師ですか! 僕らを捕らえに神殿から態々……」
「捕らえはしません。事情を聞くように言われてきたんです。もし、ここに居たければこのまま帰りますが、ここに来た理由を知りたいんです。何故、この大陸に来ようと思ったの?」
「……あの、ここから出して貰えませんか? ここから出てからお話しいたします」
彼等を牢からだし、異空間へ入って貰う。
それからルシオは街の外へ出てから異空間に入った。
彼等の話では、一緒に来た魔導師達とは友達だったという。若い魔導師達は、グランデ大陸に憧れを持っていたようだ。
下位神官に、かの大陸の魔導師の話を聞き、自分達なら大陸へ行けば力を発揮できると思い込んでしまった。
ブルホに納めるお金も使い込んでしまっていた若い魔導師等は、逃げることを選んだと思われる。
彼等は独自に地峡のことを調べ、渡ってみたいと思い始めた。
「グランデ大陸には角の生えた人種が居ることを、ガガロ神官魔導師から聞いていたんです。私は、グランデ大陸なら、この見た目でも自由に歩き回れると思っていました。だから一緒に連れて行ってくれと頼み込んだのです」
「ガがロ神官魔導師に?」
「はい」
ガガロ神官魔導師とは、ルシオが浄化して消してしまった魔導師だ。彼はグランデ大陸に来た事があったのだろうか?
「でも来てみれば、ここでも私達は、浮いた存在だったんです」
言葉も通じず、魔力も無い自分達は役に立たない異形の鬼人と認識されてしまった。
一緒に来た魔導師達は、魔力があったためここで良い待遇を受けているそうだ。
「彼等は帰りたがらないと思います……借金が返せないと言っていました」
カタイは赦されるなら、ブルホへ帰りたいと言った。
ルシオは、彼等を連れて廃墟ヘ戻った。
アレハンドロ達は、まだここへ戻ってはいないようだ。
アレハンドロが来たら、彼等を連れて行って貰える。
暫くはここで静にしているしかなさそうだ。
ドローンからはいまだに、情報が届いている。まだまだ時間が掛かりそうだ。
異空間では、カタイ達が、屋敷の掃除をしてくれている。
――そうだった、ここも暫く掃除をしていなかった。
「ルシオさん、魔導師達を助けてくれませんか? 彼等も後悔していると思うんです」
「……そのつもりでは居るから、心配しないで」
「ありがとうございます」
三日後、アレハンドロが来た。
「何だと! 下位神官が見付かった?」
異空間へ入って、アレハンドロは、彼等を厳しく問い詰めている。
「そうか、魔導師達はここに居ることを選んだのだな。分かった。そう言うことなら、魔導師達の事は放って置く」
「アレハンドロ、下位神官を連れて行ってくれないか? 三人ぐらいなら、何とか転移出来るだろう? 僕はまだここに居なければならない。まだ時間が掛かりそうなんだ。終わったら帰るから」
「お前……一人で置いておくには……」
「大丈夫だって言っているだろう。これは何としてもやっておきたい。グランデ大陸の地図が必要だとは思わないか?」
「……分かった。一週間したら様子を見に来る」
「ああ、そうしてくれ」
アレハンドロが居なくなって、ルシオはまた、あの町へ戻った。




