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30 新たな使命

ルシオがブルホの大神殿に着くとそこには、アレハンドロともう一人の戦闘魔導師がいた。


以前、異空間に家を作って貰った、クリステル戦闘魔導師だった。

「やあ、また会ったね。一緒に仕事が出来るとは嬉しいよルシオ魔導師」


神官としてアレハンドロ。戦闘魔導師の責任者としてクリステル。そして錬金魔導師のルシオが今回の遠征の中心になるという。


この様な遠出の仕事は若い魔導師に任せるというのは本当の事のようだ。

神殿長の執務室に通され、そこで暫く待っていると、神殿長とパブロ魔導師、ミゲル魔導師が入ってきた。


「皆、腰掛けてくれ。これから少し話が長くなる」

ミゲル魔導師が口火を切った。皆で腰掛け、緊張して待つ。


「予てより、問題になっていた、消えた野良魔導師の件だ。グランデ大陸の東端にある突き出た半島ペニンスラ、ペケーニョ島から見たら北西側に当るが、そこを彼等が目指したという情報があった」

「連れ去られたのですか? 魔導師が?」

「いや、魔導師達が、魔物に変えられた下位神官達三人を連れ去った」「「「エエーッ!!!」」」


「細かいところは分かっていない。彼等の実情を調べてきて欲しい」


「もし、彼らの意思でそこへ行ったのだとしたら、どうしましょうか?」


「それならそれで構わない。かの大陸では知識の同調は適わないだろうし、彼等は見習い魔導師だ。こちらに不利な情報を持っているような、力ある者はいない。だが、下位神官が騙している可能性もあるのだ。その真意を知りたい。過去に、かの大陸から来た魔導師に煮え湯を飲まされている。呪いが残っていた可能性もあるのだ」


「確かに、気になりますね。分かりました。マヨール国から船で征く事になりますか?」


そこで初めてパブロ魔導師が口を開いた。

「いや、ここに大陸へ通じる転位陣がある。検証の結果まだ使えることが分かった。ただ、かの大陸のどの場所に出るのかは定かでないのだ。大きな大陸の反対に飛ばされるかも知れない。もしそうなったら……何年かかるか分からない」


「では確実なのは、やはり船でしょう」

「それも難しい。かなり離れているのだ。然も海流が複雑で船乗りには断られた。海図もなくてはどうしようもないそうだ」

「転位先は安全ですか?」

「魔物は居るが君達には大した事はない魔物だけだ。転位した場所は見晴らしが良い高地だった。周りは都市の遺跡のようになって無人だ。もしかすると、大陸の魔導師の故郷は魔物によって滅びたのかも知れない」

「………………」


ルシオは一つの疑問を口にした。

「この国は、グランデ大陸との交流があったのですか? いなくなった魔導師達は、グランデから来た船で行ったと言うことですか?」

「いや、交流はない。船ではないのだ。魔導師達は自分たちで地峡を超えていった」


「地峡? グランデ大陸と繋がっている場所があるのですか!」

「十数年に一度、そこは凍り付き、地続きになると言われている。ノルディゴ国の北西からグランデ大陸のペニンスラまで繋がる地峡が出来るのだそうだ。かの大陸から来た魔導師が辿った道だと、魔物に変えられた下位神官が話していた」


アレハンドロが、ノルディゴ国へ行って調べた結果、事実だそうだ。

人など住めない、岩だらけの不毛な場所なのでノルディゴ国の人は、今まで誰も気にしていなかったという。

いなくなったのは、二人の錬金魔導師と戦闘魔導師一人。総てノルディゴ国で働いていた二十歳から二十五歳までの若者達ばかりだった。


「確かもう一人、魔物に変えられた下位神官がいたはずですが……」

「一番の年長者か、彼はあの後直ぐに亡くなった。寿命だったのだろう」

「その地峡は、もう?」

「ああ、この先十年は海のままだろう」

ミゲル魔導師が、パブロ魔導師の後を引き継ぎ話す。


「地峡のことは下位神官から聞いてはいたのだ。中の一人が、かの魔導師から聞いたと言うことだったが、初めは誰も信じていなかったのだ。念のためアレハンドロに調べて貰っていたが、まさか本当だったとは。今、地峡の場所に砦を築いている。また勝手に出入りされても困るのでな」


結局、転位でグランデ大陸に行くことに決まった。


今、ルシオの異空間に、一緒に行く戦闘魔法兵十人と、アレハンドロ、クリステルがいる。

ここには馬を二十頭連れてきた。食糧は収納にそれぞれ入れてある。

他に必要な物を話し合っている最中だ。


食事は出来合いのものが大量にストックされているのだ。

不自由など有るはずもなかった。


「良いなあ、ここ。俺まだできないんだよ異空間。これがあったら遠征に女の子を連れていけたのに」

「私は出来た。迷宮みたいな空間だけどね」

アレハンドロとクリステルが湖の畔でのんびりしながら話している。


遠くの方では戦闘魔法兵達が、馬に乗ったり湖に入っていたりとはしゃいでいた。

二人の話を何となく聞きながら、何処までも続く異空間をを見つめ、ルシオは魔道具が必要だと思った。


グランデ大陸は、こことは比べものにならないほど広いという。

「せめて周辺、数キロ先が分かる、ドローンのような物があれば役立つのでは?」

「お、また何か思い付いたか?」

「うん、話しただろう前世のこと? あそこでは空に浮かんで周辺を見ることが出来る機械があった。それを作れば凄く助けになると思うんだ」

「ん? 空を飛べば良いんだろう。風魔法があるじゃないか」

「え、僕はそれを知らないぞ」

「まあ、高度な魔法だが、俺は使えるようになった。ルシオも同調して見れば使えるはずだ。戦闘魔導師でも同調できる物だからな」

「ああ、それなら私も出来ます。戦闘魔法兵でも何人か出来る者がいますよ。ルシオ魔導師は戦闘経験が無いから必要無かったのでしょう」


魔道具は必要なさそうだ。空を飛ぶ方が余程良いに決まっている。何となく出遅れている感が否めないルシオ。


「よし! 大急ぎで覚える。空を飛べるようになってみせるぞ」

「明日だぞ、出発は」

「……現地に転位してからでも練習できるさ……」

「魔法兵達はこのままここにいて、転位するなんて良いよなあ。俺もそうしようかな」

「アレハンドロ、責任者が何を言っている。無理に決まっているだろう」

住む場所も大きな屋敷があるので全く苦にならない。

魔法兵達は、まるで休暇のようだと喜んでいた。


クリステルに風呂場を改築して貰った。複数人で入っても大丈夫になったのだ。湯は各人で魔法で出すから全く問題は無い。


「ここは魔素が豊富で澄んでいます。穏やかな気持ちになりますね」

クリステルが和やかにそう言った。


――ご先祖様の魔水晶のお陰だな。


ルシオは、神に真剣に祈れば、またご先祖様と会話が出来るようになれるだろうかとぼんやり考えた。

だが、まだその覚悟が出来ていない。

地獄の光景がフラッシュバックしてくるのだ。

身体が震え、どうしようも無くなるルシオだった。

側に、クリステルが来て、どうしたのかと訊ねてくる。


「いや、以前の辛い経験を……思い出して仕舞って……」

「ルシオさんも、過去に苦しんでいる一人ですか。私も過去、酷い行いをしていました。神にそれを見せられて、私は神に祈ったのです。今世は罪を冒すような危険はしたくないと……自分に自信が無いのです……また同じようなことがあれば、同じ過ちを繰り返してしまうのではないかと」


クリステルの苦しみとルシオの苦しみは、全く違うものだろうが、打ち明けることは憚れる。

互いに、後は何も言わず遠くを見て、それぞれの思いに沈んだ。

 

次の日、ルシオ等三人は、神殿の塔にいた。


「ルシオ、彼方に着いたらまず、転位陣を調べて欲しい。私も調べたが分からなかったのだ。もしかすれば、その転位陣で大陸中を転移出来るやも知れん。では、鍵を外す。気を付けて行ってきなさい」


「「「はい」」」


ルシオ達はグランデ大陸のどこかに転位した。


転位してすぐに結界を張る。

二メートルほどの魔物がわらわらと寄ってくるが、クリステルから十数本の土の槍が飛び出し、数頭のトカゲに似た魔物の身体が地面に縫い止められてしまった。

魔物はそのまま死んだようだ。迷宮と違いそのまま形が残っている。


「これ、素材が使えそうか?」

「分からない。鑑定で詳細が分からない魔物だ。現地の人に魔物の事を聞かないと――取り敢えず収納しておく」

「そうか、少し待っていろ」

アレハンドロはその場で高く浮かび上がった。

降りてきた彼は、周囲には街らしき物が見えないと言った。

そして遺跡を探索し始める。


「まずはここを拠点に作り替えましょう」


クリステルが転位陣を囲むように大きな塔を作る間、魔法兵達は周りの魔物を討伐していく。

彼等は優秀な戦闘魔法兵だ。火や風、水の魔法を駆使し周囲にいた魔物を倒し、各自が持っている魔法鞄に次々と収めていった。


この魔法鞄は、この時のために錬金魔導師達が作り与えた物だ。

時間遅延も容量も最高の物だそうだ。

ルシオは転位陣の解析をする。

転位陣には五カ所繋がりの痕跡が見えたが、三カ所は途中で途切れている。

残った二つの内、一つはロマゴに繋がる道だ。

後の一本は何処かに通じている。その繋がりに意識を集中する。


「北東一千キロの場所……」


転位陣を調べているのは、ルシオの左手だ。パブロ魔導師でも解析できなかった物が、左手を通すと分かることに、今更ながらこの神の印に畏敬の念を覚える。


拠点の整備が終わり、今日一日の成果を話し合う。

勿論ルシオの異空間でだ。

幾ら魔物を始末しても、暫くすればまたトカゲが湧いてきて、這いずり回っているのだ。

結界を張ったとしても、気持ちが落ち着かない。全く大変な場所だ。

迷宮の数倍魔物が多い。


「北東……ロマゴ国の方向か? それはもしや……」

「うん、多分ペニンスラ半島付近に出る転位先だと思う」

「一気に仕事がはかどりそうだな。思いのほか早く終わるぞ」


アレハンドロは目を輝かせた。彼は遠征に次ぐ遠征で、気持ちが萎えそうだとこぼしていたのだ。

だが、まだこの周りの探索が残っている。

皆で一週間後転位することに決めた。


この遺跡は小高い場所に密集して建物が建っていたようだ。殆どが土台しか残っていないが、生活水準は高かったようだ。


上下水道の後や、遺跡から出てくる金貨や、魔道具の残骸を見れば何となく分かる。


「この魔物、下水道から湧いてきている。結界があったはずだが、地下から街に侵入されたのではないか?」

とアレハンドロ。それを聞きルシオは地面に手を置き探索する。


「地下に僅かに魔素が湧き出ている気配がある。多分そこが原因ではないかな」

「私が思うに、大きな地震もあったのではないだろうか? 建物の壊れ方がそれを物語っている」

結論として、ここは少なくても百年以上前、大きな地震に見舞われ、地殻に変化が起こり魔素の通り道が出来た。

そこに魔物が湧き出した。という仮説がたった。


「ここの魔素には穢れが多く含まれている。魔法兵達の吸収バックルが直ぐに目詰まりしてしまうそうだ」


ルシオは明日からの探索には参加しないで、魔道具作りに励むことにした。

一つは魔法兵達の換えの魔素吸収バックル。そしてもう一つは……。


周辺探索は彼等で間に合っている。

ルシオはやはり、ドローンを作ろうと思った。

ここから東西南北にドローンを飛ばし、ドローンとの繋がりが切れるまで情報を得ようと思ったのだ。


神殿から以前、葬儀の返礼品で貰った高品質の魔水晶なら、遠くまで届く性能の良い物が作れるはずだ。


「大陸中は無理でも、せめて半分でも分かれば大雑把な地図が出来るのでは?」

一メートルの魔水晶の半分を集計タワーとして、異空間に設置する。

残りの半分は百個に砕き分け、風魔法を施したドローン擬きに取り付けた。

ドローンが集めた情報は、ルシオが魔水晶の欠片から指輪に加工した中継点を通して、異空間内のタワーに届けらるはずだ。

何と言ってもルシオの意識空間なのだから同調しやすい。


リアルタイムで見ることも出来るが、一人で見るには情報が多すぎる。落ち着いたらみんなで整理すれば良い。

ルシオが、ドローンを次々と飛ばしているのを、皆は口をあんぐりと開けて見ていた。



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