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27 知らされた事実

ウゴから仕入れた情報は役立った。

神殿から利益の何割徴収されるか分からないが、慌てないように帳簿を整理し、準備だけはしておく。


面倒ごとは避けたかった。赦されるなら、転移も自前でやりたかった。

お金の問題では無く、何時また神殿から目を付けられて、仕事を押し付けられるかも知れないのだ。神殿へはなるべく立ち寄りたくはない。

ましてや今回の葬儀で、ルシオの居場所が知られてしまったのだ。


ルシオは、神殿のために一生懸命だった過去の自分をぼんやり思い出した。


 ――今でも皆忙しそうにしていたな。ブルホは僕の第二の故郷だった。自分が役に立って、皆の喜ぶ顔が生きがいだった。


神から見放され、心のよりどころをなくしてしまった。

今は自分のためだけに生きているが、これでいいのだろうか?

不安定な心境のまま、何となく生きているような、今の自分を見られるのが嫌で、誰も自分を知る人がいないところに来たのだった。


やっと独り立ちして、気持ちを切り替えここで商売を始めたのに、アレハンドロのように何年もかかる仕事を割り振られたら、生活の基盤が壊れてしまう。


アレハンドロは、ペケーニョ中を旅して周り、転移陣を敷いて回って、やっと終わった頃にまた何か仕事を命じられたようだ。

神官魔導師なら仕方がないだろうが、錬金魔導師にとっては困るのだ。

ルシオにはそんな仕事は、今後は回ってこないだろうが、目立たないように用心することに越したことはない。


そんな折、アレハンドロがルシオを訊ねてきた。


「よう、随分自由にしているそうじゃないか。ルース魔導師から聞いたぞ」

「なんだよ、藪から棒に。仕事で……きたのか?」


 ルシオは内心びくびくしていた。

 ――まさか僕にも仕事が回ってきたのか?


「昔話をしに来ただけだ。そんなにツンケンするな。俺がお前に何かしたか?」

「いや、そういう訳じゃ無いんだ。悪かった」


アレハンドロは、ルシオに魔導師達の税金の話をしに来てくれたようだ。

戦闘魔導師やその他に掛かる経費を、錬金魔導師からも徴収するようになったという話だった。


だが、その中にルシオは含まれないと言われた。

要するにルシオからは徴税しないと言うことだった。

「何で? それは不公平じゃ無いか。僕はきちんと払うよ。領の運営には大事な事だろう?」

「お前が今まで考案した魔道具の権利が問題になった。亡くなった前神殿長とパブロ魔導師や、ミゲル魔導師がやり合っていたんだ。お前に何も渡さないのは卑怯だってな。そのせいで、ミゲル魔導師やパブロ魔導師が遠くへ派遣させられてしまったんだ。知らなかっただろうルシオは?」


知らなかった。

ミゲルにもパブロにも自由に生きろと言われて、突き放されたように思っていたのだ。

今その頃の自分の心を分析し、神への不信感も、それが大いに関係したのだとハッキリ分ったのだ。

要するにルシオはいじけていたのだ。

あれほど尽くしたのに、たった一度だけ神に本気で祈った事で見放されてしまったことに愕然としたのだ。


「今、新神殿長になって、もう一度お前のことを話し合って、そう決まった。感謝なんてするなよ。これでも神殿は大儲けしているんだ。お前の魔道具のお陰でな。魔導師達はお前に足を向けて寝られないんだ。魔素吸収のバックルだってそうだし、転移だって、異空間収納だって、魔法鞄だってそうだろう? 一番大事な、穢れを除去できたのだってお前のお陰じゃぁないか」


「それは、アレハンドロだって一緒にやったことだろ!」

「いや、違うね、俺は考えていたんだ。あの時、お前が作り出した小舟。あれがなかったら、今頃はまだ魔水晶は穢れたままだった」


パブロ魔導師達が手間取ったのは、船の問題だったらしい。

然も、プールの水の吸収は半分で終わらせる予定だったのだ。

「土魔法で作れなかったって言うこと?」

「馬鹿言っちゃあいけねぇ。土魔法で作った船なんて泥船だ。保管していた船が腐って使えなくなって、パブロ魔導師は船を一から作って貰おうとしていたんだそうだ。ルシオ、あの船は不思議な材質だった。後で教えてくれるって言ったよな」

「……どうしても知りたい?」

「ああ、教えて欲しい。誰にも言わないと約束する」

 

「僕の前世は、こことは違う世界だった」


そんな風に話し出したルシオだった。地獄のことは流石に言えなかったが、異世界の話は、アレハンドロを魅了した。

「こことは違う、科学の世界か……そこの材質を想像で作り出したというわけだな」

「そうだよ。だからまだまだあるんだ。例えば錆びない鉄。今は仕事が忙しいから出来ていないけど、前世では合金して造っていた。魔鉄鉱の性質に似ているものだ。魔素を染み込ませると鉄鉱石を魔鉄鉱に簡単に変えることが出来るんだ」

「な、それは初耳だ、魔鉄鉱を作れると言うことか」

「ミスリルだって、パブロ魔導師は銀に魔素を加えると、出来ると言っていた。皆知っていることだと思っていた……」

「いや、魔鉄鉱は謎だったんだ。確かに鉄に魔素が含まれて変化していることは分かっていたが、なぜ錆びないのかが分からなかった」

「そうなんだ。これも知らせて……ああ、もうやったな。ノルテ領の魔鉄鉱は取れているでしょ?」


「ああ、あれもお前が原因だって言うのか?」

「ルーカス達と一緒にやったから、ミゲル魔導師やパブロ魔導師はもう知っていると思う。多分皆には知らせていないだけだと思う。あそこの土に含まれている微量な鉱物と鉄鉱石が混ざり合うのに魔素が関係しているらしいんだ」


「益々お前には足を向けて寝ることが出来ないな……よし、お返しをする! これは言ってはいけないことなんだが、前世の記憶は大なり小なり皆ある。魔導師なら」


「どう言うこと?」

アレハンドロは、本当は明かしてはならない魔導師の試練について教えてくれた。

皆、口を噤んでいたのには、教えてはならない決まりがあったからなのだ。

ルシオの場合、試練がある前から知っていたが、魔導師になる試練は、前世の罪と向き合うことだそうだ。

人によって見える物は様々だが、今まで知らなかった前世を見せられて、耐えられなくなる者もいるという。

態々他人に知られたくもないことだろう。過去の罪業に耐えられる者だけが神官となれるのだと。


神官になり知識の水晶に同調すると、知ることが出来たはずの真実だった。


「俺は、暫くルシオには会えないな」

「また、遠くに旅をするのか?」

「ああ、若い神官はあちこち廻されるんだ。仕方がない。が、あちこちに恋人は作れるぜ!」

「あはは。アレハンドロの希望だったね」

「エヘヘ、願いが叶ったよ」

「あ、そうだ!」


ルシオは出来たばかりの小型通信器の魔道具をアレハンドロに渡す。

これはイアホン型に改良した物だ。通話口は指輪に加工した。

指輪はダイヤルにもなっていて、通信したい相手のコードに会わせることが出来る様になっている。ルシオは自分のコードをアレハンドロに教えた。


「右に二回、左に二回、右に三回が僕のコードだ。今のところ試作品だから五人しか連絡は取れないけど」

「お前は! またこんな凄い物を作ったのか。全く、油断も隙もねぇな! 今度は権利を主張しろよ。あ゛~っ! それまでこれも秘密にしなけりゃなんねぇのか! めんどくせぇな」


折角プレゼントしようとしたのに、酷い言われようだ。

相変わらず口が悪いアレハンドロだ。


「ミゲル魔導師やパブロ魔導師にもあるから、後、ルーカスの分も。もっと連絡が取りたい人がいたら言ってくれれば作るよ、距離の確認と検証に協力して貰いたい」

「検証……か、分かったよ。これで何処へ行っても安心だ。それから、これはパブロ魔導師から預かった物だ」


そう言って、転移陣の鍵を渡された。

これは神殿とは関係ない鍵だそうだ。

パブロ魔導師用の転移陣しかいけないのだという。


「お前は転位陣を敷けるだろう? ここに敷いておけ。パブロ魔導師がしょっちゅう、ここに来ることになるがな」


今はパブロ魔導師に早く会いたいとまで思うルシオだった。

心にわだかまっていたものが少しずつ溶け出していく。

相変わらず明るく、豪放磊落なアレハンドロにも助けられた。


――今まで、なんて頑なだったんだ、僕は。


閉ざされていた心がゆっくりと開かれていく心地だった。

アレハンドロは、錬金魔導師一人に戦闘魔導師五人と戦闘魔法兵十人を従えて、長い旅に出るという。

転位陣があるにもかかわらず長く掛かると言うことは、神殿が無い場所へ行くのだろう。そこで布教活動でもするのだろうか? 

詳しい事は知らされない、秘密の任務なのだろう。


行く先々で転位陣を敷くという。何かあればすぐに帰ってこられるから心配はいらないそうだ。

神殿に鍵を返した手前、転位陣は敷けないと思っていたが、禁止されていなかったのだ。

いや、神殿長が変わって、規制が変化したのだろう。

これからは自分の好きなところに転位陣を敷いても良いはずだ。

ブルホには無理だろうか? 後で確認しないと。


ホセの所にもマル兄のところにも敷いておきたい。ロマカピタルの兄のところにも。

だが、一度行って敷くことになる。ホセの所へは直ぐに敷けるが他は時間が掛かる。暫くは無理そうだ。 

 

自分の家に転位陣を敷き、暫くするとパブロ魔導師が来た。


「受取ってくれたか。心配していたんだ。お前に避けられているように感じてな」

「……済みませんでした。僕は子どもっぽい感情に振り回されていたようです」

「気にするな。そうやって皆、大人になっていくのだ。それを見守るのが年長者の役割だ」


ルシオは、広い慈愛に包まれていたことに今更ながら気が付いた。

「パブロ魔導師、ブルホに転位陣を敷いても、叱られませんか?」

「ああ、荒野になら大丈夫だ、申請は必要だがな。ブルホ領都内には結界が張られたので、神殿以外は転移出来ないようになっている。安全が確保できたから他の場所には許可を出すようになった。が今のところ申請しているのは数人だ。転位陣が敷ける魔導師は十人以内だな」

「魔力の問題ですか?」

「いや、空属性の理解と適正、それと魔力の総てが関係している。神官でも出来るものは少ない。戦闘魔導師でも出来る者がいる。向き不向きの問題はどの属性にもあるからな」


転位陣は敷いてしまえば、基本的には大きな魔力があれば転位は出来る。

その為の対策として鍵を作ったのだ。

許可証はブルホ領のもので、他の地域にはまだ規制は無いそうだ。

転位陣を敷ける魔導師が少ないから、今後も気にする必要はないだろうと言われた。


「ウゴの処へ行ければ良いのでそれで十分です」

「ところでお前に渡した、知識の魔水晶に同調して見たか?」

「はい、一度試しました」

「どうだ? 異空間は出来たか?」

「いえ、えーと、はい……」

「どっちだ! ハッキリ言いたまえ」


相変わらずのパブロ魔導師のお叱りに何となく嬉しくなったルシオだ。

「僕は資格がないので、異空間の作り方に同調は出来ません」

その事を聞いて、パブロ魔導師は何故かがっかりしたようだ。

彼は、ルシオにまた神官の印が現れることを期待していたようだ。


「なので想像で、意識下に異空間を造りました」

「…………また、妙な発見をしおって……今、出して見せなさい」


ルシオは異空間をパブロ魔導師に見せた。

パブロ魔導師はそこにいたバーリョ達を見て喜び、馬に暫く乗っていた。

きっと自分でも意識下の異空間を試して、もし出来たら馬を飼うつもりだろう。詳細にルシオから聞き出していったのだ。


ルシオから貰った通信の魔道具は、

「こちらで権利をきちんとしておく」

と言ってくれた。そして、

「まだこの剣を持っているのか。もう作り替えた方が良い。お前には小さすぎる」

ルシオが、以前パブロ魔導師から貰った剣が、スタンドに立てかけていたのを見て彼はそう言って帰っていった。


『そう言えば、野鍛冶の息子の鍛冶屋は何処にあるのだろう。今まで思い出しもしなかったが、鍛冶屋に知り合いがいれば何かと便利だ』


バーリョに跨がり鍛冶屋のある郊外の区域をしらみつぶしに探し回った。


その中の一番立派な鍛冶屋に息子はいた。

野鍛冶とそっくりな顔なのですぐに分かった。

野鍛冶に世話になった経緯を話したところ、彼もその話を知っていた。

一年前一度帰って、ルシオの話になったのだそうだ。


「俺は、まだまだ半人前だけど、魔導師様が欲しがっている魔鉄鉱は精錬できますぜ」

「じゃぁ、見せて貰えるかな」

「良いですぜ、親方に言えば魔導師様なら二つ返事で許可が下ります。俺も魔導師様と知り合いだと鼻が高いですしね」


鍛冶屋の敷地は大きく、野鍛冶の息子ロペには専用の鍛冶場があった。

本人は半人前だと言っていたが、親方から信頼されているようだった。


「ロペ、魔導師様に剣を作って差し上げろ。この方は俺らの恩人なんだ」


何の話かとルシオが驚いていると、どうやら魔法袋のことらしい。

重い原料を保管するにも運ぶにも今まで大変な思いをしていたが、これのお陰で何倍も助かっているという。

見れば魔法袋が何枚もぶら下がっていた。

見せて貰ったお礼に、まだ使われていないという魔法袋に魔水晶の粒を入れて、時間遅延を付けてあげた。


「何と言うことだ、これは別にしておかねばなんねぇぞ。時間遅延なんて、お貴族様が持っているモンじゃぁネェか!」


魔鉄鉱を精錬して魔鉄のインゴットにする過程を見せて貰った。ルシオの身体に合わせた剣も作って貰う。


代金は魔鉄鉱だ。彼等が欲しがっていたからこれで支払うことに決めた。

実は魔鉄鉱は沢山持っている。素材から魔鉄にする研究のため、異空間に移しておいたのだ。

それが、鉄鉱石が魔鉄鉱に知らぬ間に変化してしまったのだ。


鉄鉱石は魔力だけでは変化しない。魔鉄鉱に必要なクロムやニッケル、炭素などが鉄鉱石自体に含まれていたのだろう。

それが魔素が染み込んだ土地のせいでステンレスのような物質に変化したようだ。

異空間に置くだけで、高価な素材に変わるというのは、意外だった。


「ここは、思ったよりも魔素が濃いんだな。湖に沈めた魔水晶の魔力が多いと言うことか。ご先祖様の作った物だからだろうな」


だが、量が半端ない。総ての鉄鉱石が魔鉄鉱に変わってしまったのだ。

鍛冶屋に買って貰えて良かった。


――知識の魔水晶、きちんと同調するべきだな。今まで、意地になって祈りを捧げずにいたが、この中の知識は役に立つ。まだ知らないことが沢山あるのに、僕は意固地になりすぎていた。


意識下の異空間に入り、土魔法で小さな小屋を造った。


祭壇を造り、そこにパブロ魔導師から貰った魔水晶を置く。

そして、ルシオは祈った。手を置き魔力を捧げ、同調すると、錬金術の知識が頭の中に浮かんでくる。


金属の抽出というのがあった。銀や鉄などは鉱物から直接抽出できることを知り、目から鱗だった。


「これは不純物を含まない、金や銀、鉄などが錬金の魔法で取り出せると言うことだ。パブロ魔導師がミスリル銀で鍵を作る事が出来たのはこれか!」


鍛冶屋が魔鉄鉱から魔鉄に精錬するのを見せて貰ったが、大変な作業だった。鍛冶屋の親父は、

「金や銀の精錬は身体に悪いから俺らはやらねぇ。精錬したインゴットを買ってきて使う」


そう言っていたのだ。金や銀は、鉛や水銀を使って精錬するため、中毒を起こし早死にしてしまうのだそうだ。

錬金すれば、危険も無く手間を賭けずに出来上がる。ルシオにも出来る。

ルシオは魔鉄鉱から、魔鉄を抽出した。そして鑑定してみると、不純物が無く魔素を多く含んでいた。


「これなら、転位陣の鍵にしても良いか?」

パブロから貰った鍵を出して見る。ミスリル銀の細いステックに魔水晶がはめ込んである。


――これは想像できるだろうか?


出来てしまった。見本がある為直ぐだった。魔水晶まで付いている。

でも、機能まで同じだと、使えない。この鍵は限定された場所しか明ける事がが出来ない物だった。パブロ魔導師のところだけだ。

鑑定を掛けると、小さな魔法陣が刻まれていた。

「こんなところに刻んでいたなんて……」

気付かなかった。スティックの持ち手の先端、一センチの円の中に魔法陣が刻まれている。以前の鍵もそうだったのだろう。


ルシオの造った鍵にも魔法陣が付いていた。

新しく作り出さなければダメな様だ。

魔法陣自体に鍵を掛ける機能を付けなければ、鍵を造る必要は無いのだが……。


「いや、やはり鍵は必要だ。出来る人は少ないとは言え、これからは魔導師達が転位陣を敷くはずだ。勝手に入って来られたら困る」

ルシオは自分の魔法陣の鍵を想像し作った。




 

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