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【第二章完結】悪の貴族は美しき散り様を望む〜もしかして、君たちループしてる?〜  作者: 綾丸湖
第三章

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82. 黒鋼将軍


「将軍、客人の前ですよ。少しはちゃんとしてください」


「えぇー……。いや、まあそりゃそうだけどよぉ……」


 黒鋼将軍は後ろに立つ副官らしき人に嗜められ、わずかに背筋を伸ばした。なんというか、覇気がない。


「皆様、すみません。こちらのだらけた将軍は戦場に出られないことで不満が溜まっているのです。王の客人の前でこんな態度をとるとは、まったく情けないことですね」


「いや、不満っつーか……。あぁ、はいはいわかったちゃんとするぜぇ……」


 黒鋼将軍はそう言うと立ち上がり、こちらに向かってきた。そして、僕の前で立ち止まる。


「よく来たな、ヒュラフの客人よ。俺がギングラージ王国の第一将軍ゴッゾルだ。王からの手紙は目を通した。助力に感謝する」


 先ほどとは別人のような立ち居振る舞いだ。

 だが、なんというか……。


「それは流石にもう遅いですよ! 将軍!」


「だよなぁ。俺もそう思ったぜぇ」


 なんとも気の抜ける掛け合いに緊張感などなくなってしまったな。そんなことを思っていると、黒鋼将軍の方にジジニアが進み出る。


「お久しぶりです、ゴッゾル将軍!」


「おぉ、ジジニアかぁ。ここまで案内してくれたのか? つーか、大きくなったなぁ」


 ジジニアと黒鋼将軍は顔馴染みらしい。

 先ほどまではめんどくさそうな様子だった黒鋼将軍の表情が柔らかくなっている。あと、取り繕うのもやめたようだ。


「先にギリオラ工房長からのお届け物を渡しておきますね!」


「おぉ? ジジニアが運んでくれたのかぁ? すまねぇなぁ」


 黒鋼将軍がジジニアから武器を受け取った。

 そして、なんだか微妙な表情をしてため息をつく。


「どうしました? 何か問題でも……」


「ああ、いや問題はねぇよ。ありがとな。ただ、なんつーか……」


 黒鋼将軍は頭をボリボリと掻き、武器を眺めている。そして、こちらを見た。


「まあ、その辺の説明もするかぁ。客人も待たせてるから、順番に話すぜぇ」


 黒鋼将軍はそう言うと、元いた席についた。僕たちも対面に座り、ようやく場が落ち着いた。とりあえず軽く全員の紹介をして、本題に入る。


「さて……、南大陸から来たってんなら何も知らねぇよな? まずはこれまでの戦争について話すとするかねぇ」


 はじめに語られたのは、長年ドワーフとエルフが戦争をしていたことについてだった。その部分については知っていたことではあるし、ジジニアからも事前にある程度聞いていた。


 ただ、実際に戦場に身を置いている者からの話は迫力が違った。大規模な戦闘はほとんどなく、散発的な戦闘が多いという話ではあったが、それでも死傷者は出る。長年続いている戦争というだけあって、双方の被害は積み上がっていた。


「――――で、最近になって互いに疲弊してるし停戦しようぜって話になりかけてたんだ。もう戦争の発端なんざ気にしてる奴は少ねぇからな。そう、あと少しで上手くいきそうだったんだ」


 黒鋼将軍の言葉には、やりきれない悔しさが滲み出ていた。


「だが、奴らが急に態度を変えやがった。何があったのかはわからねぇ。停戦交渉の際の急襲から始まり、今までにない猛攻が続いてやがる! こっちの話には耳も貸しやがらねぇ!!」


 ドンッ、と黒鋼将軍が机を叩いた。

 感情が昂り、表情は険しくなっている。なるほど、話を聞いている限り、どう考えてもエルフ側が悪い。


「っと、すまねぇ。そんなわけで、俺たちもエルフ側の事情はまったくわからねぇ。調査してくれるってんならありがてぇが……。どう考えても危険だ。やめといた方がいいぜぇ?」


 黒鋼将軍は、試すような態度をとっている気がする。ここに来た時のやる気ない感じなどからして、僕たちに期待はしていないのだろう。僕たちを心配しているのも本心な気がするけど。


「……ご忠告ありがとうございます」


「引く気はねぇって顔だなぁ……。なんでそこまでするんだか……」


 呆れたような黒鋼将軍の声。

 こちらの情報を明かしていないのだから、訝しむのも当然だ。まあ、明かしたところで呆れられそうだけど。


「それで、武器の件に関してはなんだったんですか?」


「おぉ、そうだったな。まあ、別に大した話でもねぇが……」


 話に一区切りがついたところで、ジジニアが黒鋼将軍に問いかけた。それを受け、黒鋼将軍は布から戦斧を取り出す。真っ黒なその戦斧は、なんというか威圧感があった。


「エルフには精霊王っつー、やべぇ奴がいてな。俺以外じゃ相手にならねぇ。以前やり合った時に愛用の斧がぶっ壊れちまったから、対精霊術用の新しい斧を急ぎで注文してたんだが……」


 黒鋼将軍は再びため息をつく。

 

「それ以降、精霊王が戦場に出てこねぇ。精霊王が現れたところに俺が出向かなきゃならねぇから、俺も身動きが取りづれぇんだ」


「なるほど、それで不満が溜まっていたと……」


「いや、だから不満っつーかよ……。というか、それだけならまだ良かったんだがなぁ」

 

 ジジニアは納得したようだったが、黒鋼将軍は首を振った。


「精霊王とは別のやべぇ奴が現れやがった。そいつに翻弄されて俺らは後手に回らされてんだよ」

  

 精霊王以外の強者ということか。そんな存在がエルフにいただろうか?

 

「将軍が手こずるほどの強者がもう一人いるのですか……」


「いや、強者というわけじゃねぇと思うぜぇ。俺が出向くとすぐに逃げやがる。腹立つことになぁ」

 

 何度も逃げられているのだろう。

 黒鋼将軍は鬱憤が溜まっている様子だ。


「強者ではない……? では、軍略に優れているということですか?」


「あぁ、そういうことでもねぇな。いや、すまねぇ勿体ぶった言い方しちまってるな。ただ、なんつったらいいか……」


 黒鋼将軍と渡り合えるほどの強者でもなく、策略や謀略に秀でているわけでもない。しかし、兵士たちに被害をもたらす者。


 嫌な予感がする。


「そいつは、一人で急に現れる。そんで、そいつの周りでは力が入らなくなったりするらしい。近づけば近づくほど力を失って、立ってられねぇ程なんだとよ。戦士たちの間じゃ、闇精霊の化身じゃねぇかと噂になってるが――」 


「……まさか」


 思わず言葉が溢れる。

 その異質な能力を持つ者を、僕は知っている。


「どうした?」


「……その人物は、背の高い銀髪の女性ですか?」


 どうか、別人であってほしい。

 しかし、僕の願いは届かない。


「なんだ、もう調べてあったのか? 遭遇した奴の報告じゃ、そんな感じだったはずだ」

 

「……そう、ですか」 


 黒鋼将軍の言葉を聞き、何故か確信した。

 だが彼女の性格上、望んで戦争に加担しているはずがない。


 主人公の一人、[箱入り巫女]ヤルルアンナ。

 彼女を利用して、無理やり戦場に立たせている者がいるならば……。


 僕は絶対に許さない。

 

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