47. 迷宮都市
迷宮都市ホーグラン。
三大迷宮の一つである、悪名高きバルバント大迷宮を擁する巨大な都市だ。大迷宮を中心に発展してきたこの土地は、独自の文化を形成している。来るもの拒まず、去るもの追わず。多種多様な人々が生活するその都市は、初めて訪れた人を圧倒するほどの活気に満ちている。
迷宮都市の花形職業といえば、もちろん探索者だ。危険極まりない大迷宮へと果敢に挑戦し、成果を持ち帰り、都市の発展に貢献する。迷宮都市に住む人々にとって、彼らはまさに英雄だった。
未だ解明されぬ謎多き大迷宮。危険と浪漫に溢れたその地に、サリファは足を踏み入れる。
***
「今朝採れたばかりの迷宮産メドラスだぁーー!! ここで買っとかねぇと後悔するぜぇーー!?」
「ホーグランにきたならウチの料理を食わなきゃ損ってもんだよ!! さあさあ、食ってきなぁ!!」
「クラン新団員募集中ーー!! 君も我々と共に未知への冒険にくりだそう!!!」
迷宮都市に到着したが、あまりの喧騒に驚いてしまった。そこかしこで売り込みや呼び込みの声が響き、凄まじい騒々しさだ。しかし、不快ではない。それはやはり、行き交う人々の目が活き活きとしているからだろうか。
突っ立っているわけにもいかないので、歩き出す。美味しそうな匂いが漂っているなぁ。あんなでかい魚は見たことないが、食用だろうか?
いろいろと見て回りたいが、まずは探索者組合に行って登録してしまわないといけない。迷宮に潜るにしても、情報を集めるにしても探索者になっておくと便利だ。道はなんとなくわかるから、すぐに向かおう。
「おいおいにぃちゃんホーグランは初めてかい? よかったら案内してやろうか? 安くしとくぜぇ?」
組合の方に向かおうとしてすぐ、なんだか胡散臭いニヤけた男に声をかけられた。あー、これはあれか。キョロキョロして明らかに浮いてた僕をカモだと思ったのか。いや、本当に親切心で話しかけてきた可能性もあるか? だが、どちらにせよ道案内は必要ない。
「……いや、必要ないよ」
「あ、ちょっと警戒しちゃったー? 初めてここに来た奴が道案内を雇うなんて普通なんだぜ? それに、にぃちゃんは運がいい! なんせ俺はそれなりに名の知れた情報通さ! 美味い飯屋? 可愛いねーちゃんのいる店? それとももっと刺激的な場所がお望みかい? さあさあ、なんでも言ってくれ! 俺がバッチリ案内してやるからさぁ!」
流れるように喋るので思わず聞き入ってしまった。手慣れた感じの口上に感心してしまう。だけどまあ、怪しいから別にいらないな。
「……それじゃ、僕はこれで」
「おいおいおーい!? つれねぇじゃねぇか! だが、そこがいい! 気に入った! 今ならなんと半額だ! こんなのにぃちゃんだけだぜぇ?」
思いのほか食い下がってくるな。
そんなに僕はカモに見えるのだろうか。そもそも元値も聞いてないのに半額と言われても。
なんだかめんどくさいなぁ、と考えていると。
「馬鹿野郎……!! てめぇ、なんて奴に絡んでやがる……!?」
急に飛び出してきたガタイのいい厳つい顔をした男が、胡散臭い男を殴った。
え、なにこれ。
「いってぇなこの野郎!! どこのどいつだ……!? ……え、あれ? アニキ? ど、どうしたんで??」
「どうしたもこうしたもあるかぁ……!! あれほど人は選べと言ってんのにわかんねぇ野郎だ!!」
厳つい男が顔を真っ赤にして怒鳴っている。
それとは対照的に、胡散臭い男は真っ青だ。
「い、いや、俺はその……」
「いいから謝れ……!! ……いやぁ、すんませんねぇ旦那!! こいつが失礼なことをしちまって。詫びといっちゃあなんだが、こんくらいで勘弁してやってもらえねぇかねぇ」
そう言って、おそらくお金が入った小袋を差し出してくる。いや、ほんとにいらないな。というか、なんでそんなにへりくだってるんだろう。
「……別にいらないよ。次から絡まないでね」
「ありがてぇ!! そんじゃ、俺たちと旦那とは何もなかったということで一つ」
厳つい男はそう言うと、胡散臭い男を引きずって路地裏に消えていった。なんだったのだろう。迷宮都市の洗礼というやつなのだろうか。
周囲の人が、こちらを見ている気がする。
ちょっとした騒ぎになってしまったので、いくら騒々しい場所とはいえ目立ってしまった。さっさとこの場を去ろう。
……
探索者組合。
ファンタジーではよくある組織という感じだろうか。荒くれ者も多い探索者を取りまとめている組織で、迷宮の管理や依頼者との仲介などを行っている。
探索者はその実力や貢献度に応じて階級分けされていて、AからEの五段階となっている。最初はE級から始まって、依頼をこなしたり迷宮で成果を上げたりすれば徐々に階級は上がっていく。まあ、僕は情報収集がメインなので、階級は特に気にしていない。登録しておくことが重要だ。
辿り着いた組合の建物はそこそこ大きかった。ガヤガヤ騒がしい声が建物の外にまで聞こえてくる。中には大勢の探索者がいるのだろう。今日泊まる宿も決まっていないし、さっさと登録を済ませてしまうとしよう。
入る直前で、ふと思う。
こういう時に舐められて絡まれるのは定番だ。さっきの胡散臭い男みたいに絡まれるのは面倒だから、堂々としていよう。少し気合をいれて扉を開き、建物へと入った。
その瞬間、ピタリと喧騒が止んだ。
そして、大勢の人がこちらを見ている。
なぜ……??
想定外の反応に困惑する。
なんだか気まずいので、とりあえず奥の受付に向かおう。コツコツと、僕の足音だけがやけに大きく聞こえてきた。
「……探索者の登録をお願いします」
そう言った途端、張り詰めていた空気が一気に弛緩した。ざわめきが少しだけ戻ってきている。よかった……。あの空気感には耐えられそうになかった。
「え、えっと、登録ですか……? しょ、少々お待ちくださいぃ……!!」
なんだか怯えた様子の受付の女性がパタパタと階段を駆け上がっていった。どうしたんだろうか。
少し待っていると、受付嬢ともう一人が階段から降りてきた。正装に身を包んだ人の良さそうな感じの男性だ。ただし、筋肉で服はパツパツだが。
「ふぅむ、急に呼び出され何事かと思いましたが……。なるほどなるほど」
こちらを見ながら、正装の男がそう言った。
この人はゲームでも出てきたな。
「ああ、申し遅れました。この探索者組合の組合長を務めているグレンドルと申します」
組合長グレンドル。
この世界でも指折りの実力者だ。かつて名を馳せた伝説の探索者であり、今もなおその実力は衰えていないのだとか。
「……サリファです。よろしくお願いします」
というか、なぜ登録だけで組合長が出てくるんだ?
「ふぅむ、礼儀正しいお方ですなぁ。貴方のような若さでその実力を持ちながら、驕らずにいるとは素晴らしい」
なんだか褒められている。
いや、僕は登録したいだけなんだけど……。
「ああ、すみませんね。迷宮都市の探索者は強者の気配に敏感でして。気分を害されたかもしれませんが、お許しいただきたい」
「……構いません」
建物に入った時のあれはそういうことだったのか。探索者って凄いんだな。
「ありがとうございます。それでは、お待たせしてしまいましたが登録に移りましょう。本来ならE級からになるのですが……」
そこで言葉を区切り、組合長がその場にいる探索者たちを見回した。
「カイサ、ジャネル、ミリーシャ! この方の推薦人をしてくれませんか? この実力でE級は流石に詐欺だと思うのです」
「俺もそう思うぜー組合長ー」
「ははっ、ちげぇねぇや! 構わねぇよ!」
「まぁ、そうだよねぇ。いいよぉ」
「はい、これでB級以上の推薦人三名と組合長の許可がおりました。というわけで、貴方は今からC級探索者です。規則上、登録時はC級までしか上げられないのでお許しを」
いや、お許しもなにも頼んでいないのだけど……。
「それでは、詳細については受付で説明を受けてくださいね。良き冒険を」
そう言うと、組合長は颯爽と去っていった。
なんというか、濃い人だったな……。
とりあえず、僕はC級探索者になったようだ。
……よくわからないが、受け入れるとしよう。




