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【第二章完結】悪の貴族は美しき散り様を望む〜もしかして、君たちループしてる?〜  作者: 綾丸湖
第二章

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46. 聖騎士長


 手合わせ、か。

 

 聖騎士長の言いたいこともわかる。どこの誰ともわからない人物が聖女と一緒にいるのだから、その実力は気になるところだろう。それに、大聖堂の結界に反応してしまったこともあるから、なおさら確かめずにはいられなかったのだと思う。


 これは流石に、断れないか。


「……構いません」


「感謝します」


 聖騎士長が合図を出すと、並んでいた聖騎士たちが動き出し、場が整えられていく。そして、大聖堂に入る際に預けていた僕の剣が渡された。え、真剣でするの?


「ご安心を。実際の身体に傷がつくことはありません。貴殿は確か、ケントリッツ学術院の出身でしたね? あそこの決闘場と同じだと思ってください」


 こちらの疑問を感じとったのか、聖騎士長がそう教えてくれた。ああ、あれか。なんだか懐かしいな。


 それはそうと、この場に残っているのは聖騎士長と僕だけだ。まさか、聖騎士長と手合わせしなければならないのだろうか。今の状態だと、手も足も出ない気がするのだけど。


「貴殿のことは、フィライからある程度聞いています。本来は魔術主体の剣士で、今は魔術が使えないことも。そこで、私は魔術と武技を封じましょう。そちらは武技を使ってくれて構いません。この条件でどうでしょうか?」


 ああ、やはり聖騎士長が相手なのか。

 まあ、ハンデはくれるみたいだし、やれるだけはやってみよう。


「……わかりました」


「ふむ、肝が据わっていますね。これは期待ができそうだ」

 

 準備が終わり、修練場の中心で聖騎士長と向かい合う。こうしてみると、聖騎士長がかなりの強者であることがわかった。


「では、始めましょう。こちらの無茶を聞いてもらったのですから、先手は君に譲ります」


 聖騎士長がそう言って、剣を構えた。

 隙のない堅実な構え。これを崩すのは至難の業だろう。


 ここは、お言葉に甘えて攻め込むことにする。勿体ぶってなんかいられないので、初手から全力だ。


 息を短く吐き、切り替える。


「……奥義〈星火燎天〉」


 距離を一気に詰め、一撃を放つ。

 だがそれは簡単に防がれた。


「む?」


 聖騎士長から疑問の声が上がる。

 まあ、それはそうだろう。この技の最初の一撃は、驚くほど軽い。


 身体を捻り、ニ撃。

 巻き上げるように、三撃。


 流れるように連撃を見舞う。

 独特な身体操法により、徐々に威力と速度を上げながら。


「ふ、なるほど」


 次々と斬撃を放つが、その悉くが防がれている。見た目通りの堅実な剣捌きだ。


 周囲がざわめき始めたが、集中する。


「あれは、いつまで続くんだ……?」

「まさか、聖騎士長が押されているというのか!?」

「しかし美しい剣筋だな。フィライの弟子というのも納得だ」

「いえいえ、あの方が弟子だなんて恐れ多い。私はただ、少し剣を教えたに過ぎませんよ」


 連撃は二十を超えたか。

 やはり魔神降臨の儀式以降、身体の動きに鋭さが増している。これならば、まだやれる。


「はぁ……!!」


 聖騎士長は防御のみに専念しているわけではなく、隙を見て反撃を繰り出してきている。だが、それを躱し、その反動も上乗せして次の攻撃へと繋げていく。


 剣撃は三十を超え、四十に迫る。

 だが、一向に打ち崩せる気配がない。全ての攻撃に的確に対処されている。今の状態では、そろそろ技の限界が近い。


 ならば、超えよう。

 久々に実戦で使うが、修練は欠かしていない。


 超越(エクシード)


 高速の剣撃が、さらに速度を増していく。


「くははっ……!!」


 それでも防ぎきる聖騎士長が、笑う。

 周囲の声は、もう聞こえていない。

 

「おいおい、あれは超越(エクシード)か!?」

「あれで本来は魔術師だって……? 冗談だろう……?」

「聖騎士長が笑うのなんて初めて見ました……」

 

 超越(エクシード)により強化された肉体で連撃を積み上げる。まだ防がれてはいるが、徐々に聖騎士長の反応が遅れてきていることが感じられた。あとは、こちらが押しきるか、スタミナが切れるまで守りきれるかの勝負だ。


 決着は近い。

 

 だが、そこで……。


 

「聖騎士長!!!!何をしている!!!!」


 

 ヴェスティによる怒りの籠った声が響く。


「なっ……!?」


 聖騎士長の動きが乱れた。


「……あ」


 僕は剣を止めることができず、そして……。


「私の、負けです」


 僕の一撃が綺麗に入り、勝負は決した。

 なんとも、締まらない決着だなぁ……。


 ……


「それで、これはどういう状況かな? 聖騎士長」


「いえ、その……、サリファ殿の実力を見ておく必要があるかと思いまして……」


 明らかに怒っている聖女ヴェスティを前にして、聖騎士長が冷や汗をかいて弁明している。先ほどまでの威風堂々とした姿が嘘のようだ。

 

「ほう? 私とティアロラが許可したというのに、なぜそのようなことをする必要があったのかな? それに、サリファが身体に不調をきたしていることは伝えていたはずだな? どうしてあんな激しい戦闘をしていた?」


「ええと、ですね……」


 その後も聖騎士長の苦しい言い訳が続く。

 ヴェスティとしては、患者に無茶なことをさせたという認識なのだろう。治療師としては看過できないことなのかもしれない。


「サリファ、他人事のようにしているが、おかしなことを言われたら私に連絡するように言っておいたはずだな? 君は自分が今どのような状態にあるか理解しているのか? ティアロラが悲しむぞ?」


 矛先がこちらにも向いてしまった。

 いや、確かに言われていたが断れる雰囲気でもなかったし……。しかし、ティアロラの名前を出されると僕は弱い。ここは素直に謝ろう。


「……申し訳ありませんでした」


 深く頭を下げる。


「いや、そこまで君のことを責めているわけではないんだ。どう考えても聖騎士長側が悪い。ただ、自身の身体にも、もう少し気を配ってほしいというお願いだよ」


 良かった。僕の方にはそんなに怒っていない様子だ。ヴェスティは純粋に僕の体調を心配してくれている。僕としては魔術が使えないくらいにしか思っていなかったが、今後は気をつけていこうと思う。


「それで? 聖騎士長。サリファに無理をさせて実力を確かめていたようだが、どうだったのかな?」


「はっ!申し分ない実力者でありました!この若さでこれほどの剣術を身につけていることも驚きですが、さらに魔術も優れていると聞いています。すぐに聖騎士になれるほどの人材でありましょう」


 なんだかやたら褒められているな。

 かなりハンデをつけてもらっていたし、あのまま続けていればどうなるかはわからなかったのだが。


「ふふ、それは素晴らしいな。サリファ、聖騎士長は守勢においては右に出る者はいないとすら言われている剣の使い手だ。その男にここまで言わせるほどの実力であれば、安心してティアロラを任せられる」


 ヴェスティは薄く微笑み、僕にそう言った。

 そして、聖騎士長の方を睨む。


「そうだな? ギャレイ聖騎士長」

 

「はっ!その通りであります!」


 聖騎士長の顔は強張っている。

 ティアロラを心配しての行動だから、そろそろ許してあげてほしい……。


「それでは、解散だ。サリファは身体を休めて、出発に備えるように」


「……わかりました。ありがとうございます」



 そう言って、修練場を後にする。

 ヴェスティには怒られてしまったが、聖騎士長という強者と手合わせできたことは幸運だったと思う。今の自分の実力を知ることができたし、課題も見えた。やはり、早々に魔術を使えるようにしないといけないな。


 さて、いろいろあったが旅の準備をしてゆっくり休もう。最善を尽くすと決めたのだから、明日にはここを出発したい。



 ――――――


 

「くれぐれも、無茶なことをしないでくださいね……?」


 翌日、準備を終え聖地を出る時間となった。

 先ほどから、何度もティアロラに念を押されている。僕って信用ないのかな……。まあ、ないか。聖騎士長と手合わせしたのも伝わってしまって、悲しそうな顔をされてしまったし。あれは、地味に効いた。


「……なるべく、危険なことはしないよ」


 そう言ったものの、迷宮都市に行くからには迷宮に潜ることになるだろう。そうなると、当然危険はたくさんある。魔獣、トラップ、人、などなど……全てを避けて安全に情報を探るのは不可能というものだ。まあ、その辺りはティアロラもわかってくれていると思う。


「……それじゃ、行ってくるよ」


「お気をつけて……!!」


 ティアロラに見送られながら、聖地を出発する。

 

 向かうは迷宮都市ホーグラン。

 一度行ってみたかったから、とても楽しみだ。

 

 

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